電力需給検証とはどんな作業か?
まず、この電力需給検証という作業が何であるかを少し振り返ってみたい。
2011年の東日本大震災および福島第一原発事故による全国的な電力需給逼迫を経験し、翌年2012年4月から内閣官房の「エネルギー・環境会議」の下に、「需給検証委員会」が設置・開催された。電力需要が高まる夏・冬の電力需給見通しを客観的に確認・検証することにより、透明性・信頼性を高めることを目的としている。
その後、同じ目的を持つ審議会が、管轄母体やその名称を変えながら、毎年継続的に開催され続けてきている。現在は、その詳細検討はOCCTOにタスクアウトされるかたちで、「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」が開催されており、その検討結果である「電力需給検証報告書」が、資源エネルギー庁の「電力・ガス基本政策小委員会」において報告・確認される、という二段構えとなっている。
なお、5月25日開催予定の第24回「電力・ガス基本政策小委員会」において、この2019年度冬季の電力需給実績の振り返り及び2020年度夏季の需給見通し・対策が報告される予定である。
2019年度冬季の電力需給実績の振り返り
それでは、その具体的な検証結果について説明を進める。
まず、2019年度冬季の全国最大需要時の電力需給実績は下表のとおりである。全国計の最大需要は2月7日9~10時に発生しており、需要1億4,602万kW、予備率15.1%であった。
電力広域的運営推進機関 電力需給検証報告書2020年5月より
その全国最大需要時の供給力実績は下表のとおりである。
電力広域的運営推進機関 電力需給検証報告書2020年5月より
初めてこの表をご覧になる読者には、幾つか不思議な点があるかもしれないので、簡単に補足説明しておこう。
- 火力発電の実績が、想定よりも1,000万kW以上も小さくなっている。その内訳を見ると、201万kWの計画外停止があるものの、その差分の過半655万kWは「需給停止」であることが分かる(需給停止とは、いわゆるバランス停止のことであり、電力需要に対して供給力が十分大きい場合、不必要な発電機を停止することをいう)。
- 太陽光や風力の実績が想定よりも1,700万kW以上も大きくなっている。
これらはいずれも、事前の想定段階での供給力算定方法に原因がある。
その詳細は、後述の想定作成断面で説明するが、ここでは火力と太陽光等だけの関係で言えば、元々保守的に(結果として小さめに)想定していた太陽光等が、実績としては大きな供給力をもたらしたため、元々保守的に(万一の備えとして大きめに)準備していた火力を動かさずに済んだ、という結論となっている。
これは2019年度だけの現象ではなく、この需給バランス検証の基本的目的・方針としての算定方法により、毎年同様の現象が発生している。
2020年度夏季の需給見通し・対策
ではここから、検証対象季節到来前におこなわれる電力需給検証の、基本的な考え方・算定方法の概要を説明する。
1.需要
エリア別の最大電力需要は、供給計画をベースに、夏季・冬季において過去10年間で最も厳気象(猛暑・厳寒)であった年度並みの気象条件での最大電力需要(厳気象H1需要)を想定する。
2.供給力
エリア内の供給力は、小売電気事業者および発電事業者が保有する供給力と一般送配電事業者の供給力(調整力、離島供給力)を合計したものに、電源Ⅰ´及び火力増出力分を加えた量を供給力として見込む。
3.電力需給バランスの評価
評価基準としては、過去10年間で最も厳気象(猛暑・厳寒)であった年度並みの気象条件での最大電力需要(厳気象H1需要)の103%の供給力確保とする。
供給力は、地域間連系線を活用して、予備率が高いエリアから低いエリアへ、各エリアの予備率が均平化するように供給力を振り替えて評価する。
2020年度夏季見通しは下表のとおりであり、猛暑H1需要が発生した場合においても、予備率3%以上を確保できる見通しである。
電力広域的運営推進機関 電力需給検証報告書2020年5月より 赤囲みは筆者
需給検証の考え方の変更点
この需給検証の考え方は、2012年の開始以来、細かな点で何度も変更・改善されてきている。
今年度、2020年4月からの大きな変更点の一つが、再エネ供給力の評価方法である。
上記2019年度供給力実績の表内にもあるとおり、従来、再エネ(一般水力、太陽光発電、⾵力発電)の供給力は「L5値」を採用していた。
「L5値」とは、例えば太陽光発電の場合、「需要の大きい上位3日における太陽光出力を過去20年分推計し、このうち、下位5日の平均値を、太陽光発電の安定的に見込める供給力として見込む」、というものである。これは、天候不順次第では現実に起こり得る(過去に起こったことのある)低出力となることを保守的に見込む算定方法である。
それが、今年度からの再エネ供給力の評価方法は、EUE算定による火力等の安定電源代替価値(kW価値)へと変更された。
これは、確率論的必要供給予備⼒算定⼿法による評価であり、下図のように、「再エネ供給⼒は、同じ供給信頼度基準(需要1kWあたりのEUE)を満たす条件において、再エネ導⼊によって減少することができる⽕⼒等の系統電源量と考えることができる」、とされている。
- 確率論的必要供給予備⼒算定⼿法においては、再エネ供給⼒は、同じ供給信頼度基準(需要1kWあたりのEUE)を満たす条件において、再エネ導⼊によって減少することができる⽕⼒等の系統電源量と考えることができるのではないか。
- 具体的には、再エネ有無のケースで、同じ供給信頼度基準を満たすよう、確率計算で⽕⼒等の系統電源量を算定する。(①再エネ導⼊なしと②再エネ導⼊ありの差が再エネ供給⼒)
- その場合、再エネ導⼊量の変化によって、必要供給予備⼒が増えることはない。
第32回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料4 より
それでは、「需要1kWあたりのEUE」とは何か? というと、供給信頼度の指標のひとつであり、「1年間における、供給⼒不⾜量(kWh)の期待値」と定義される。
従来、供給信頼度の指標は、LOLPやLOLEが重視されてきたが、現在、OCCTOではEUEが主要な指標として位置付けられている。
第29回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料2 より
このあたりになってくると、「供給信頼度とは何か?」、「確率論的算定⼿法とは何か?」を紐解く必要が生じてくるが、それは本稿の範囲を超えてしまうため、別稿に譲りたい。
L5評価からEUE評価への変更で、再エネの供給力はどう変わったか
L5評価からEUE評価に変更されたことにより、再エネの供給力はどう変わったのであろうか? 2019年夏と2020年夏を比較すると下表のとおりである。
筆者作成
そもそも太陽光発電設備の導入量自体が増加している、などの大きな変化も捨象したうえで、注目すべきは九州エリアの大きな減少である。
これは、太陽光発電導⼊量が大きく増加すると、残余需要のピーク時刻が昼間帯から点灯帯(⼣刻)へシフトするため、点灯帯において太陽光発電は徐々に供給⼒として⾒込むことができなくなるためである。
東日本大震災後の混乱から9年が経過し、半ば忘れられた存在となった「電力需給検証」という一見地味な報告書ではあるが、その中には、先進的な確率論的手法などが取り込まれていることの一端を今回はご紹介した。
今後別稿にて、これらをより具体的にご紹介したいと考えている。
(Text:梅田あおば)