需給調整市場 三次調整力②の取引開始 第50回「制度検討作業部会」 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

需給調整市場 三次調整力②の取引開始 第50回「制度検討作業部会」

需給調整市場 三次調整力②の取引開始 第50回「制度検討作業部会」

EnergyShift編集部
2021年05月26日

2021年4月1日から、需給調整市場の最初の商品として三次調整力②の取引が開始された。2021年4月26日に開催された経済産業省の「制度検討作業部会」の第50回会合では、取引開始後2週間の市場取引の状況が報告されたが、本稿では電力広域的運営推進機関の「需給調整市場検討小委員会」のこれまでの議論の様子も含めて、まとめてご紹介したい。

※正確には受渡日4月1日に向けて、3月31日から取引が開始されている

審議会ウィークリートピック

需給調整市場と三次調整力②の概要

小売全面自由化等の電力システム改革後の2016年以来、一般送配電事業者はエリア内の周波数を維持管理するために必要となる調整力を、「調整力公募」の仕組みを通じて原則エリア内で調達してきた。

これに対して、エリアを越えた広域的な調整力を調達することによる調整力コストの低減および調整力運用の効率化を目的として、2021年4月から「需給調整市場」を開設し、段階的に取引対象商品を拡充することとしてきた。

「市場」であるので、発電事業者やアグリゲーター等の複数の売り手が参加するものの、買い手は一般送配電事業者(一送)のみ、という市場である。

需給調整市場は「電力需給調整力取引所:Electric Power Reserve Exchange(EPRX)」により運営される市場であり、EPRXは全国9エリアの一送により共同設立された取引所である。

なおEPRXの市場運営業務の一部は、送配電網協議会の需給調整市場運営部に業務委託されている。

※一送10社を会員として、一般送配電事業に係る業務を適切かつ円滑に遂行することを目的として2021年4月に設立された任意団体

調整力を応動時間が速い商品から低速な商品に向けて並べると、「一次調整力」「二次調整力①」「二次調整力②」「三次調整力①」「三次調整力②」の5つの商品が順次、運用・取引開始される予定である。三次調整力②(以下、三次②と呼ぶ)は、図1のようにすでに「運用」面では2020年度から段階的に広域運用が開始されており、調整力運用コストの低減実績が報告されている。

図1.需給調整市場 三次調整力② 導入スケジュール

出所:制度検討作業部会

三次②の商品要件概要は表1のとおりである。

表1.三次②の商品要件概要

対応する事象FIT特例制度①③を利用しているFIT再エネの、前日からGC(ゲートクローズ)までの発電予測誤差に対応。
指令・制御オンライン
応動時間45分以内
継続時間商品ブロック時間(3時間)
供出可能量45分以内に出力変化可能な量
最低入札量専用線:5MW
簡易指令システム:1MW

出所:制度検討作業部会

諸外国でも名称は異なるものの、応動時間等の違いに応じた一次~三次調整力といった類似の調整力商品を調達する調整力市場は存在する。その諸外国商品との大きな違いが、この三次②の存在である。

日本で三次②という商品が設けられた理由は、FITインバランス特例制度の存在である。

通常、発電事業者(発電契約者)は計画値同時同量のもと、不足/余剰インバランスの抑制が求められる。FIT制度ではFIT事業者(特に変動電源)の負担を軽減するため、FIT発電事業者ではなく一送が計画値作成を代行することにより、FIT事業者側にインバランスリスクが生じない特例制度(FITインバランス特例)が設けられている。

従来、このFIT特例の計画値作成タイミングによる予測誤差の発生に対して、一送は電源Ⅱの余力等で対応してきたが、需給調整市場の開設後に対応する調整力が、三次②である。

三次②の必要量算定のイメージは図2のとおりであり、三次②必要量の算定式は

三次②必要量 = 「前日予測値-実績値」の再エネ予測誤差の3σ相当値

「GC予測値-実績値」の再エネ予測誤差の3σ相当値

と表される。

図2.三次調整力②必要量イメージ

出所:需給調整市場検討小委員会

2021年度における三次②の年間必要量は、全国9エリア合計で282億ΔkWhと推計されている(図3の青線は一送案、黄線は広域検証後)。

なお将来的な三次②必要量の低減に向けた取り組みとして、エリア間の不等時性を踏まえ、複数エリアの合成により必要量を低減させる「共同調達」手法の検討が進められている。

図3.三次②エリア別必要量推定値(2021年度)

出所:需給調整市場検討小委員会

三次②は需給調整市場において毎日取引がおこなわれる。

現在のJEPXにおける主要なkWh取引市場であるスポット市場の取引に影響を与えることを避けるため、三次②はスポット市場取引後の前日12時~14時に入札が受け付けられ、15時に約定結果が公表される。

またJEPX時間前市場の取引にも影響を与えることを避けるため、過去の時間前市場取引実績等から時間前市場向けに確保すべき地域間連系線容量を算出したうえで、残りの運用容量が三次②の広域調達に充てられる。

図4.三次②取引に係る連系線容量確保イメージ

出所:需給調整市場検討小委員会

三次②の取引実績(2021年4月前半)

システム障害により取引が出来なかった日があるものの、4月1日~16日の三次②の取引実績は表2のとおりである。落札量が日平均で3,715MW、落札単価は平均1.77円/kW・30分である。

表2.三次②の取引実績(4月1日~4月16日)

 北海道東北東京中部北陸関西中国四国九州9エリア
必要量[MW]
(日平均)
98609750682626213962856464,149
落札量[MW]
(日平均)
93434726483546153822826463,715
最高落札単価
[円/kW・30分]
86.982.910.675.3918.496.2411.312.575.06
最低落札単価
[円/kW・30分]
1.620.040.410.040.040.040.040.030.04
平均落札単価
[円/kW・30分]
5.720.790.431.523.123.033.040.971.851.77

※1  約3億2千万円=落札量の日平均約3,700,000kW × 平均単価1.77円/kW・30分× 48コマ
※2 上記の単価は、各エリアの一般送配電事業者が落札した単価を記載。送配電網協議会HPでは、各エリアの取引会員の落札単価を掲載しているため、異なることに留意いただきたい。

出所:需給調整市場検討小委員会

この間の日平均の調達費用は約3.2億円であるが、仮に従来どおりエリア内のみで調達した場合の平均費用は3.9億円と試算されており、約18%のコストダウンが実現したと考えられる。

他方、一送が必要とする三次②は4,149MW(日平均)であるにも関わらず、実際の落札量は3,715MW(日平均)にとどまっており、平均で10.5%の調達不足が継続的に発生している。

市場で調達不足が生じた場合は、市場外で「エリア内オンライン」→「エリア外オンライン」→「エリア内オフライン」→「エリア外オフライン」の順序で調整力を追加調達することとしている。追加調達の加重平均単価は約2.1円/kW・30分であり、市場と比べ2割程度割高となっている。

三次② 必要量より応札量が少ない理由

三次②の必要量よりも落札量(=調達量)が少ない直接的な理由は、そもそも取引会員からの応札量が少ない状況にあるためである。

取引会員からの応札量が少ない理由は、以下の2つが挙げられている。

理由1.スポット市場後の発電機余力のみ応札

従来、発電事業者はkWh取引が最経済となるように発電計画を策定している(図5ではkWh単価は最安価なAからIに向けて高くなる)。

よって図5の場合では、スポット市場取引後の発電機余力である電源D・H・Iのみが三次②に応札される。

調整力の供出量を増加させるには、相対的にkWh単価の安い非調整電源Eを停止させたうえで、kWh単価の高い調整電源F・Gを起動させる(持ち替える)ことが必要となる。

もちろんこれ自体は発電事業者に損失を強いるものではなく、調整力の供出を前提とした発電計画へ組み替えることにより、kWh・ΔkW収入の最適化を図るものである。

図5.スポット市場後の発電機余力での応札

出所:制度検討作業部会

理由2.軽負荷期による発電機並列台数の減少

春秋など軽負荷期では、もともと起動する電源の数が少ない。起動する電源であっても最低出力近辺での運転となることが多いため、自然体では供出できる調整力は少ない状態となる。調整力を供出するために電源差し替えをおこなう場合、新たに起動した火力電源は最低出力まで出力を上げる必要がある(最低出力を超える部分が調整力として供出される)。

すると、最低出力部分で発生するkWhは元の発電計画値を超過することにより、計画値同時同量が未達成(余剰インバランスの発生)となるおそれがある。なお春(4~6月)は太陽光発電の出力が増加することにより、その予測誤差に対応する調整力(三次②)の全国合計必要量が最大となる時期である。

仮に今後も市場取引による調達不足が継続する場合、調整力提供者間の競争が働かず、市場単価および市場外調達単価の高騰を招くおそれもある。

市場分断による三次②価格の高騰

表2で示したとおり、北海道エリアでは最高単価が86.98円となるなど、他エリアと比べて三次②の落札単価が高騰していた。

三次②向けの地域間連系線は北海道-本州間では順方向・逆方向のいずれも4月1日~16日の期間中、分断率が100%であったことがこの理由の1つとして考えられる。広域機関からは制度検討作業部会第50回会合の場で、広域機関による連系線容量の設定ミスが原因であることが口頭報告された。

北海道-本州間の地域間連系設備には、北本連系設備60万kWと新北本連系設備30万kWの2つが存在する。新北本のほうが制御性に優れるため、広域機関は時間前市場・三次②の取引のいずれをも新北本に割り当てていた。

先述のとおり、時間前市場向けに連系線容量を確保した後の残りの容量が、三次②に割り当てられる。ところが広域機関では、新北本で時間前市場向けに35万kW(設備容量は30万kW)を設定していため、三次②に残された容量は常にゼロとなり、この結果、分断率が100%となっていた。

この設定ミスは直ちに解消されるため、今後の分断率は改善され、北海道エリアの三次②価格も低下するものと考えられる。

審議会を見るの最新記事