地域脱炭素ロードマップを読み解く 02 | EnergyShift

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地域脱炭素ロードマップを読み解く 02

地域脱炭素ロードマップを読み解く 02

2021/07/26

前回に引き続き、「地域脱炭素ロードマップ」をテーマに、地域エネルギー事業のヒントを探っていく。前回は、ロードマップの本質はどのようなものなのか、その点について考察を行なった。しかしそれを理解した上でもなお、具体的な脱炭素政策の実施は、多くの自治体にとって簡単ではない。どのような政策において、どのような視点で考えていけばいいのか、エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が解説していく。

これからの地域エネルギー事業のヒント15

対策・施策面からの考察1「少なくとも100ヶ所の脱炭素先行地域を作ること

地域脱炭素ロードマップは、主に国が用意する対策・施策面から語られている「政策集」である。今回は地域脱炭素ロードマップを対策・施策面から考察する。

ロードマップでは、施策の柱として、「① 少なくとも100ヶ所の脱炭素先行地域を作ること」と、「② 重点対策を全国津々浦々で実施すること」を掲げ、かつ「足元の5年間を集中期間として政策を総動員する」としている。

まず①の「脱炭素先行地域」とはどんなイメージなのか。

ロードマップでは、市町村といった行政区域より小さな地域、たとえば住宅街・団地や中心市街地、大学のキャンパス、農山漁村、離島等がイメージされており、そこでは「民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2 排出については実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてそのほかの温室効果ガス排出削減についても、我が国全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現すること」が成立の要件とされている。

つまり、「まずは民生用電力からネットゼロを、それ以外は国の目標に合わせて相応の削減を」という、現実的ではあるがレベルの高い要件を設定している。

現実的」というのは、2030年までのトランジション期間においては系統電力のゼロエミ化や熱などの非電力分野の脱炭素化の実現は難しく、確実に脱炭素化が見込めるのは「地域再エネ電力の地産地消による民生部門の電力のゼロエミ化」しかないからである。ゆえに脱炭素先行地域は、「地域再エネ電力の地産地消が可能である地域(区域)」から生まれる可能性が高い。

「レベルが高い」というのは、(限られた範囲の地域の民生用電力とはいえ)そこに住む住民や企業の理解と協力を得て「ネットゼロ」を実現するためには、補助金のような経済的なインセンティブだけでは解決できない「利害関係調整力」が必要になるからである。

また要件に従えば民生用電力以外の低炭素化もそれなりに進めねばならないので、これにチャレンジできる地域(区域)を持つ自治体にはかなりの脱炭素化リテラシーが求められるはずである。

脱炭素先行地域づくりを主導する環境省は、「案件形成の具体的な要件、手続き等の詳細を検討し、令和3年度末までにガイドブック等の形で取りまとめるとともに、環境省が中心になって関係省庁で連携し、広く地方自治体や企業、金融機関等に情報提供し、有望な先行地域候補のリスト作り等を進める」としているが、少なくとも「ゼロカーボンシティ宣言はしてみたものの、何を、どうしたらよいかわからない」とする自治体クラスが担い手となることは難しいだろう。

対策・施策面からの考察2「重点対策を全国津々浦々で実施」

次に②の「重点対策を全国津々浦々で実施」については、どのように受け止めるべきか。ロードマップには、「脱炭素先行地域を含め全国津々浦々で取り組むことが望ましい脱炭素の基盤となる重点対策を、各地の創意工夫例をベースに整理した」形で、以下の8つの重点対策が示されている。

重点対策①屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
重点対策②地域共生・地域裨益型再エネの立地
重点対策③公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
重点対策④住宅・建築物の省エネ性能等の向上
重点対策⑤ゼロカーボン・ドライブ
重点対策⑥資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
重点対策⑦コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
重点対策⑧食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立

これらの重点対策は、国としてこれから何に取り組んでほしいかを明確にして誘導している点で何の違和感もない。つまり、今後、自治体において脱炭素に関するビジョンや計画を策定するに際して役立つ「TO DO リスト」のようなものだが、それぞれの対策についてどこまで深掘りできるかは、自治体のリテラシーや力量によるだろう。

また、重点対策のうち①~⑤は、何らかの形で「地域再エネとしての太陽光発電の導入と利活用」が絡むものであり、(前述した「脱炭素先行地域づくり」も含めて)ロードマップで求めている対策・施策の多くは、「地域での太陽光の大量導入」が起点となることがわかる。

太陽光の大量導入は可能か

では、地域脱炭素の流れに沿って、地域での太陽光発電をうまく掘り起こすことはできるだろうか。

国の「2050年カーボンニュートラル」や「2030年▲46%目標」達成のためには、再エネ、とりわけ即戦力としての太陽光の大量導入が不可欠であると言われており、国としても、「温対法改正によるポジティブゾーニング(促進区域)の推進」、「農地転用ルールの見直し」、「系統利用ルールの見直し」、「住宅・建築物に係るZEB/ZEHの推進」、「PPAの支援、需要家が直接再エネを調達できるルールの整備」等を総動員して強化を図るものと思われる。

一方、掘り起こしの障害となる課題も存在する。日本においては平地の適地は減少傾向にあり、また一部の太陽光施設は地域の環境破壊を招いており、自然環境や景観保全を目的として太陽光など再エネ発電設備の設置に抑制的な条例を制定した自治体も多い。

つまり、「環境のための再エネ開発」と「環境のための環境保全」の両立が必要ということである。こうした課題の克服のために、改正温対法では「地域の合意形成を円滑化する仕組み」を取り入れるよう自治体を誘導しているが、それほど簡単なことでないことは容易に想像できる。

そうなると、地域での太陽光導入は、「公共部門、民間企業、住宅における屋根置き等の自家消費型太陽光」と、「休耕農地や荒廃地、ため池やソーラーシェアリングのような、大規模開発を伴わない地域共生型太陽光」が軸になって進むだろう。

地域における太陽光の導入イメージ

(出所)2021/4/20 第2回国・地方脱炭素実現会議 環境省提出資料より抜粋、加工

もう1つ、地域にとっては大きな課題が存在する。太陽光等の地域再エネの導入から生まれる「果実」はどこに帰属すべきかという問題である。

一般に地域外事業者による再エネ開発では、売電による利益への課税は事業者の本拠地がある場所で行うため、設置地の自治体には固定資産税以外の税収は見込めないし、地元雇用も多くは望めない。また、売電先は大手電力会社や直接契約した民間企業になるのが一般的なため、非常時に地域独自の電源として用いることも難しい。

一方、地域由来の再エネは地域で使うこと、すなわち「地産地消」は、本来なら自然条件や社会制約に照らして最も合理的であり、さらには地産地消による経済効果はアフターコロナや人口減少・少子化等により疲弊した地方経済を支える貴重な財源になるはずだが、いかんせん、案件を「地産地消型」にまとめ上げる能力や資金力が地域に存在するとは限らない。

「脱炭素に資する再エネ導入」と「地域の持続可能性に資する再エネの利活用」の両立を目指して、地域外の事業者とどのような連携をすれば「ウィン・ウィン」になれるか、あるいは「地産地消型」を成立させるために自治体や地域内の事業者等がどれだけ力をつけられるかが、これからのカギになることだろう。

以上、地域脱炭素ロードマップを対策・施策面から考察してみたが、脱炭素政策が結果として全国津々浦々の地域において展開されてこそ日本の「2050年カーボンニュートラル」が実現されることに鑑みると、自治体を軸とした「地域における脱炭素政策の担い手」の在り方も重要になる。

次回はロードマップからはストレートには読み解けない「担い手面からの考察」を行いたい。

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。