なぜEnergy Impact Partnersは、このエネルギーDX企業に投資しているのか | EnergyShift

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なぜEnergy Impact Partnersは、このエネルギーDX企業に投資しているのか

なぜEnergy Impact Partnersは、このエネルギーDX企業に投資しているのか

2020/08/20

エネルギーベンチャー企業への投資は、未来への投資だといえる。再生可能エネルギーを効率的に使っていくためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を含め、さまざまな技術が不可欠だ。投資動向を見ることは、技術動向を見ることでもある。
前回に引き続き、株式会社afterFITの安達愼氏が、Energy Impact Partnersの投資先を紹介することで、次世代のエネルギー事業の姿を浮かび上がらせる。

高度化するグリッドのセキュリティを守る:Dragos

前回は、Energy Impact Partners (EIP)の投資先として、AMSとSmartRentを紹介しました。しかし、これら以外のベンチャー企業も、再生可能エネルギー活用の先にあるスマートライフなど、未来を創造する事業を行っており、大変興味をひくものばかり。他にも注目の企業を紹介します。

Dragos運用イメージ

今回、最初にご紹介するのは、社員数約150名、2016年創業のメリーランドにあるベンチャー企業、Dragosです。

グローバル視点で産業インフラの安全性確保のために、産業用制御システム(Industrial Control System:ICS)のサイバーセキュリティに取り組んでいる同社は、2017年にEIPなどから3社共同で1,069万ドルの投資を受けました(投資ラウンドA)。このラウンドで資金調達総額は1,309万ドルに達しました。(現在はラウンドBを終えて、総額3,700万ドルまでに拡大中。)

Dragosは、米国の諜報機関のベテランであるICSサイバーセキュリティの専門家によって設立されました。人の経験則を分析し、敵の手口を特定していくという、人間行動分析を活用した戦略で、公益インフラともいえるエネルギー産業において、ミッションクリティカルなサイバーセキュリティ領域を、独自のアプローチで開拓してきました。

その結果、Dragosのソリューションは、単にありきたりのアラートを発信するだけではなく、次に何をすべきか? という実戦的な戦略セキュリティ提案のレベルに到達しています。

Dragosダイアグラム

特筆すべきは、Dragosは2015年にウクライナで大規模な停電を引き起こしたサイバー攻撃のマルウェアを解析し、それはロシアのハッカーによってつくられ、米国を標的とする可能性があると告発したことです。北米電力信頼度協会(NERC)は、Dragosの告発を受けて、レベル1の警告を発しました。
NERCの警告によると、このマルウェアは "制御システムに対する運用妨害、情報漏洩、通信の中断、ローカルおよびネットワーク上の重要な設定ファイルの削除"を引き起こすものでした。

高度な脅威分析を細かく体系化し、OT(運用技術)とITの前線で戦う技術者に、前例のない可視性とルール手順を提供して、産業界を脅かす敵対者に対応できるのが、Dragosのセキュリティ技術です。

太陽光発電や蓄電池のグリッド接続を最大化:Opus One Solutions

テスラホームバッテリー

次にご紹介するのは、社員数約100名、2011年創業のカナダトロントにあるベンチャー企業、Opus One Solutionsです。

Opus One Solutionsは、太陽光発電や電気自動車(EV)、蓄電池などの分散型エネルギー資源(DER)のホスティングキャパシティ(グリッドへ受入可能な量)をリアルタイムで把握し、グリッド資産とDER資産の配分を最適化しながら、顧客に安定して電力を供給するという信頼性の高いサービスを行っています。2016年と2018年に、EIP含む数社の共同投資で、投資ラウンドBまでの資金を得て拡大をしています(金額は非公開)。

ハワイでは、島によっては、約35%の住宅の屋根に太陽光発電が設置されています。実際、ハワイ州は、将来的に再生可能エネルギーの100%化を目指しており、分散型エネルギーの導入やその運営が重要な焦点となっています。
Opus One Solutionsはハワイ州で行われているプロジェクトにも深く関わっています。同社が提供するホスティングキャパシティの分析データを使用して、送電線や近隣の需要地にどれだけのDERの受入が可能かをリアルタイムで把握し、グリッド資産と分散型エネルギー資源を最適化しながら、顧客への安定した信頼性の高いサービスを維持させています。

筆者としても、デジタル化、分散化、脱炭素化された地球をビジョンとするソリューション企業 Opus One Solutions に期待をしています。

電気バスと蓄電池を統合した運行管理でスマートな公共交通に:ViriCiti

写真はスマートバスマネジメント

社員数約80名、2012年創業のViriCitiは、オランダ・アムステルダムにあるベンチャー企業です。

同社は交通機関の運行状況や電気使用量をリアルタイムで把握することで、交通機関をサポートしており、2019年にEIPなどから4社共同で715万ドルの投資を受けました。

例えば、EVバスの蓄電量や、回生ブレーキの利用などの運転状況を管理することで、適切な充電ポイントへの誘導を行い、1回の充電あたりの走行時間と距離を延ばすことができます。また、これにより大規模でコストのかかる充電インフラの追加必要性も軽減でき、ゼロエミッション輸送への世界的な移行を推進しています。

現在は、カリフォルニア州のスタンフォード大学、ニューヨーク市交通局、トロント市交通委員会、シリコンバレーの大規模なテクノロジー企業などが主な顧客です。

日本でも、スマートシティが至るところで誕生しつつありますが、このようなスマートバスが走ることになるでしょう。

グリッドのO&MをAIとドローンで最適化:eSmart Systems

写真はドローン分析

社員数約80名、2012年創業の、ノルウェーにあるベンチャー企業、eSmart Systemsは、インフラ点検と資産健全性監視のためのAIベースのアナリティクスを提供しており、2018年にEIPなどから5社共同で3,440万ドルの投資を受け、現在も拡大成長中です。

設立メンバーは、大規模ITサービスの経験豊富なチームです。彼らは世界初の電力自由化となった1991年、北欧電力取引所であるNord Poolの電力取引所に対するシステムを納入しています。

同社の顧客は、ノルウェー、デンマーク、英国、米国など7ヶ国48件におよび、それぞれの電力業務を統括しています。具体的には、送電線の検査、グリッドメンテナンス計画、エネルギー柔軟性の最適化のための次世代ソフトウェアソリューションを構築し、提供しているということです。

最近では、送電網仮想検査プロジェクトも実施しています。これは、eSmart Systems、Xcel Energy、EDM Internationalの3社共同開発のプロジェクトであり、ドローンを活用した送電システムによる空中検査と、人間のインテリジェンスおよびeSmart SystemsのAIベースの分析ソリューションを組み合わせたものです。
手始めとして、Xcel Energy社の送電資産2,897マイルの検査と分析ドキュメント化を実現し、グリッドシステムの効率的な検査、部品識別と欠陥検出、故障率の低減、資産寿命の延長、資産記録の更新、運用コストの削減に成功しています。

中小公益事業者の現場管理をデータで効率化:Clevest Solutions

写真はモバイルタスクマネジメント

最後にご紹介するのは、社員数約120名、2002年創業のカナダにあるベンチャー企業、Clevest Solutionsです。

公益事業者向けとなる革新的な労働力管理およびスマートグリッド運用ソフトウェアソリューションをリードするClevest Solutionsは、2018年にEIPから投資を受けました(金額は非公開)。

モバイル従業員管理およびスマートグリッド運用ソフトウェアを通じて、様々な現場作業の自動化、最適化、管理手法の改善を実現し、結果としてCO2排出量の削減も可能にしています。世界の220以上の電気、ガス、水道の公益事業会社がClevestを選択しています。

現場業務の紙を多用したこれまでの手作業管理から、モバイル管理に移行することで、公益事業者は膨大な量の紙に関連する環境への影響とコストを排除できます。

実は北米の公益事業者の大部分は中小規模の事業者で占められています。デジタルデータ管理は、大規模な公益事業者のフィールドサービス部門にとっては革新的ではないのですが、こうした北米の中小公益事業者にとっては、電子情報の活用は有意義です。Clevestを使用することで、これらの公益事業会社は、手動で手間のかかる紙ベースのフィールドオペレーションを排除し、その代わりとなるモバイルソリューションを手に入れることができます。

DXによる異業種データのリンクで、よりよい未来の地球を

再生可能エネルギーの時代である今となっては、本来、電気の消費者側になる家庭や工場などにある膨大な数の太陽光発電や蓄電池などのDERをどのようにマネジメントを行って、全体最適を考えていくかという未来的問題が生じつつあります。

そのためには、DXの力で全体を効率的に動かしていかねばならないでしょう。
例えば、世の中にある大量の太陽光パネルや蓄電池から供給される電気(しかも、まったく種類も状況も異なる状態)を活用するためには、ときには制御の必要性も求められます。

DXを通じて、全体の需要と供給のバランスを考えていくことは、もはや、発電者や送配電事業会社だけで解決できる問題ではありません。様々な業種や産業分野を業際的に取り込み、この新しいグリッドをDXさせていくという、大きな未来的視野が必要となってくるでしょう。

その意味で、EIPの多岐にわたる投資先実績は、日本のエネルギー企業の進むべき道しるべになるのかもしれません。

今や、エネルギー分野は供給サイドだけが主導権を握っているものではありません。需要サイドの活用の仕方において、大きなイノベーションが起きています。

例えば、ガソリンで走る車は使い捨てのモノとして見られてきましたが、テスラのような近未来型EVに代表されるように、電気自動車は情報を“アップデート”していくものであり、ある意味、街中を動く分散型エネルギーでもあるといえます。

DXの力で、それらを運用するプラットフォームの構築ができるならば、既存のエネルギー界では考えられなかった、新未来を構築する武器になるのかもしれません。そして、それが、産業の枠を超えて、物流の面においても、交通の面においても、小売の面においても、それら異業種のデータをリンクさせることによって、様々な新しい産業アドバンテージを見出すことになるかもしれません。

エネルギーというインフラから、通信、交通、物流、小売など、異業種の産業領域を、DXの力を活用させて、業際リンクで、プラットフォーム化を考えていくと、そこには、産業を飛び越えたデータ流用化のスマートな世界が垣間見えます。

10代の若い子たちが、InstagramやTIKTOK、Facebookなど、デジタルの世界で情報を集めて、それぞれに集めた情報を感性豊かにアナログと融合させ、新しいコミュニケーションの在り方を日々見出しているように、エネルギー産業で生きる側の我々も、自動運転のプラットフォームに小売産業の顧客データを組み合わせたり、ブロックチェーンを使った電気取引のプラットフォームをリンクさせたり、エネルギーの新しいデジタル未来基盤を考えていくことが必要でしょう。

再生可能エネルギーを起点とする文化構造の変化が、緑の面だけではなく、生活の面でも、よりよい地球を残していくことにつながるのかも知れませんね。

参照

報道、各社プレスリリース等より筆者作成
EIP CEOハンス・コブラー氏のYoutube講演(2017 / 2019)から筆者作成
安達愼
安達愼

織物関係の町工場と着物販売会社のせがれ。子供のころから中小企業経営に興味。初アルバイトは5歳の時、亡父と数えた機械部品の袋詰め。大阪市立大学大学院経営学研究科修士取得。大学院時代にITベンチャーを起業し、IPOではなく、事業譲渡で完了。その後、上場企業数社のプロジェクトワークに参戦。海外駐在ベトナム、カナダ、フィリピン合計6年。 現役プロフェッショナルロングドライバー(ドラコンプロ)。元プロキックボクサー。 現在、afterFIT社でエネルギーシフト実現の夢を追いかけて素敵な仲間たちと挑戦中。一緒に活動をしてくださる方がいらっしゃれば、お声をかけていただきたいです。 afterFIT社は、高度技術者、工事専門家、ドローンパイロット、システムエンジニア、データ解析者まで、充実した自前体制を構築しております。ぜひ、賛同者、個人投資家、小中学校の先生、大学教授、エンジェル、ファンド、CVC、銀行···お声がけをいただければ幸いです。大歓迎いたします。一緒に、草の根レベルから、日本の再エネの明るい未来を創り出したいですね。