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世界に挑む日本の技術力 出光、トヨタ、産総研など日本トップ企業は全固体電池開発で勝ち残れるか

2022年01月20日

出力に優れる硫化物系全固体電池の先進企業は?

企業開発内容
出光興産2021年11月5日に固体電解質の商業生産に向けた実証設備を建設。EV搭載用の全固体電池量産に向けて動く。
トヨタ2030年までにバッテリーに対して2兆円を投資。EVに先駆けてHVへの搭載を目指す。
日立造船2021年3月の展示会で、1,000mAhの硫化物系全固体電池を発表。
三井金属日立造船の全固体電池の電極を製造。

まずは硫化物系全固体電池から説明していこう。硫化物系固体電解質は、酸化物系のものに比べて高いイオン伝導率を示し、低温特性も優れるとされている。また、高圧プレスによる粒子同士の接合も行いやすく、比較的、生産が簡易なことも利点に挙げられる。

とはいえ、出力特性が高い一方で、その取り扱いには課題もある。水分との反応によって、有害な硫化水素ガスを発生させてしまうため、解析時には十分な安全対策が必要となるのだ。

そんな硫化系全固体電池の開発に勤しむメーカーとしては出光興産やトヨタが挙げられる。

出光は、硫化リチウムを原料とする硫化物系固体電解質について数多くの特許を保有しており、2021年11月5日には千葉県の事業所内に固体電解質の商業生産に向けた実証設備を建設したことを公表。固体電解質の量産プロセス実証や性能向上に向けた研究を進めている状況で、実証の成果を踏まえて、EV向けの全固体電池などへの採用を目指していくとしている。

またトヨタは、東京工業大学大学院総合理工学研究科の菅野了次教授、高エネルギー加速器研究機構の米村雅雄特別准教授らとの共同研究で、安定性の高い超イオン伝導体を開発するなど、その分野の研究を進めている。とはいえ、その実用化、もといEVへの搭載にはまだ時間がかかる見込みだ。2021年12月14日に開催した「バッテリーEV戦略に関する説明会」の中で、2030年までにバッテリーに対して2兆円を投資すると発表するなど、精力的に動いているものの、その実装はEVではなくあくまでHV(ハイブリッド車)から進められていくようだ。

一般に、HVでは電池の充電量(SOC)の幅が狭いため、電池が比較的劣化しにくいとされることが起因しているとみられている。

そして、容量において目を引くのが日立造船だ。同社は2021年3月の展示会で、1,000mAhの硫化物系全固体電池を発表。当時サンプル出荷中だった従来品(容量140mAh)から大容量化したばかりか、世界最高クラスと話題になった。開発の肝となった固体電解質は、三井金属の硫化物系材料を使用した。

酸化物系は、全固体硫黄電池、全固体ナトリウムイオン電池などが注目を集める

企業開発内容
村田製作所酸化物セラミックス系電解質を使用したことで、耐熱性を高めた全固体電池を開発。
TDKSMDタイプの全固体リチウムイオン電池「CeraChargeTM(セラチャージ)」を世界に先駆けて製品化。
産総研酸化系全固体リチウムイオン電池の課題である粒子間の接触問題を解消した全固体硫黄電池を開発。
日本電気硝子原料をリチウムからナトリウムへと変えて、原材料確保のハードルを下げた全固体ナトリウムイオン電池を開発。

では、その硫化物系全固体電池に比して、イオン伝導率が低いとされている酸化物系全固体電池だが、実はこれが今一番の注目を集めている。空気中での安定性があるため、硫化物系のような有毒ガス発生の不安が少ない一方で、硬い酸化物系固体電解質粒子を用いることで粒子間の接触が悪くなり、高い電池性能を得ることが難しいというのが難点に挙げられてきた。

しかし、ここにきてそうした難点を乗り越えるべく多くの企業が酸化物系全固体電池に参入してきていることも事実だ。

村田製作所が製造する全固体電池は、すでに複数社の産業機械に採用されている。酸化物セラミックス系電解質を使用したことで、耐熱性を高めたものとなっており、一般的な酸化物系全固体電池に比べて100倍程度の容量を持つのが特徴とされている。定格電圧がリチウムイオン電池(LIB)と同じ3.8ボルトで数十mAhの高容量を有しているという。

TDKは2017年、積層電子部品の製造などで蓄積したセラミック材料技術や積層技術などを応用して、SMD(表層実装)タイプの全固体リチウムイオン電池「CeraChargeTM (セラチャージ)」を世界に先駆けて製品化した実績がある。その名の通り、セラミックスが酸化物系の電解質となっている。小型化とエネルギー高効率を成しえており、バッテリー交換不要のIoTデバイスの実現に与える影響から注目を浴びた。

このように、すでに複数企業が成果を挙げている酸化物系全固体電池だが、本当に注目を浴びるようになってきたのは、産総研が開発した全固体リチウム硫黄電池の影響が大きい。

全固体リチウム硫黄電池の特徴は、先述した酸化系全固体リチウムイオン電池の課題である粒子間の接触問題を解消した点にあり、それによって室温25℃時のエネルギー密度を大幅に向上させることが可能となった。

課題の克服には、メカニカルミリング(ボールミル時におけるボールの衝突エネルギーを利用し、粉末同士の折りたたみと圧延によって微細に混合していく方法)で、高容量電極活物質であるリチウム硫黄とケイ素を微細化し、さらに同様の手法で硬い酸化物系固体電解質材料を合成させたことが鍵となった。この手法をとったことにより、粒子間接点を大幅に増やすことが可能となり、電極に酸化物系固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン電池と比較して、エネルギー密度を大幅に向上させたのだ。

酸化物系の全固体電池の新鋭では、全固体ナトリウムイオン電池も注目を浴びている。主流のリチウムイオン電池が、正極にリチウム金属酸化物を用いて負極に炭素材料を用いるのに対して、ナトリウム層状化合物を正極とするのが、全固体ナトリウムイオン電池だ。構造自体はリチウムイオン電池と基本的に同じであるため、製造装置の流用が可能となる。

リチウムはレアメタルにも分類される希少金属で、確保のための競争が激しくなりつつある。日本では輸入に頼るしかないリチウムに対して、ナトリウムならば海水などから原料の潮から確保が可能となるため、資源面からその有用性が認められている。また、リチウムイオン電池には低温時に性能が下がる難点もあるが、全固体ナトリウムイオン電池ならばその点も克服されている。

そして、この全固体ナトリウムイオン電池の中でも特に目立っているのが、日本電気硝子の「オール酸化物全固体Naイオン二次電池」だ。この電池は、正極、さらには負極材にも結晶化ガラスを用いることで、固体電解質と一体化した世界初の蓄電池となっている。これまで、ナトリウムイオン電池には、金属ナトリウムが水に触れると激しく反応して発火・爆発する恐れがあるという問題点があった。そこを全て結晶ガラスに置き換えたことで、問題点を克服したのだ。

硫化物系、酸化物系以外の全固体電池の進展はいかに・・・次ページへ

高橋洋行
高橋洋行

2021年10月よりEnergyShift編集部に所属。過去に中高年向け健康雑誌や教育業界誌の編纂に携わる。現在は、エネルギー業界の動向をつかむため、日々奮闘中。

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