日本ではグリーン電力証書や非化石証書など、電気と環境価値を分けて取引する仕組みがあるが、こうした取組みは欧米でも行われている。環境価値には発電時刻の情報がないことが一般的だが、欧米では1時間未満の単位で時刻を指定した、トラッキング情報付きの環境価値の取引がGoogleなどの参加によって試行されており、標準化を目指しているという。
EAC(Energy Attribute Certification)とはエネルギー属性証明書の総称で、再生可能エネルギーなどのもつ環境価値を切り離し、証書として取引可能にしたものだ。
欧州ではGuarantee of Origin(GO)、米国ではREC(Renewable Energy Certificate)、アジアや南米ではI-RECといった仕組みがある。日本では、20年以上前に民間の取り組みとして始まったグリーン電力証書や非化石証書がある。
The development of EACs across the world
出典:『EnergyTag and granular energy certificates』
ご存知の通り、電気そのものは、ほぼリアルタイムで需給を一致させなければならない。日本の計画値同時同量の原則のように、世界でも1時間未満の単位で電気の需給を一致させるシステムが主流だ。
一方で、EACは1年や1ヶ月といった単位でカウントされることが多く、電気そのものの運用とはかけ離れている。夜間の電気と太陽光発電によるEACを組み合わせることもできてしまうということだ。しかしそれでは、電力の使用を再エネの発電に合わせるモチベーションがはたらかず、再エネ普及の推進とはならない。
また、今のところ、電気の市場とEACの価格に相関性はない。また、EACの取引量もその多くは1MWh単位などとされており、必ずしも多くのプレーヤーに開かれたシステムではない。
こうした課題を解決するべくEACシステムの改良と標準化を目指しているのが、国際イニシアチブのEnergy Tagだ。
独立、非営利、民間主導の団体で、英国の新進気鋭新電力OVO Energy出身のToby Ferenczi氏が創設した。メンバーはGoogle、Microsoft、イベルドローラ、オーステッド、PwCなどの60を超える企業や組織で、現在も増え続けているという(OVO Energyについてはこちら)。
Energy Tagは、EACについて、発電所の属性(トラッキング)に加え、1時間未満の単位(粒度)で時間の属性を細分化した上で、少量でも取引可能なトラッキングシステムの実現を目指している。このシステムができれば、需要と再エネの発電を一致させやすくなり、その結果、再エネへのエネルギーシフトを後押しできるとしている。そのため、EACのダイナミックプライシングができるような透明性の高いシステムの標準化に取り組んでいる。
例えば、太陽光が多く発電する昼間のEACを安く設定し、昼間の電気利用を促すといった具合に、再エネが多い時間帯に需要を誘導するシグナルとしてEACを活用し、より多くの再エネをグリッドに流すことが狙いだ。
Energy Tagは2020年8月に立ち上がったばかりで、現在は主に、トラッキングシステムの標準化やデモンストレーション、周知活動などに取り組んでいる。24時間365日のエネルギー・トラッキングシステムを通して再エネへのシフトを加速するのが、彼らのミッションだ。
Energy Tagが考えるEACの新たなトラッキングシステムの便益は、次のとおりだ。
ここからは、Energy Tagが2021年に入って公表したホワイトペーパー『Energy Tag and granular energy certificates』で述べられている構想を紹介する。
Energy Tagの考える粒度の高いEAC「Granular Certificates(GC)」の取引スキームは下図の通りだ。証書の生産者である発電事業者やトレーダー、サプライヤーに加えて、消費者も取引システムに登録できる。
EnergyTag Market Diagram
出典:『EnergyTag and granular energy certificates』
これまでのスキームと異なるのは、生産(発電)と消費の両方のポイントでメータリングされたデータが突き合わせられるというプロセスだ。証書と電気の使用データを突き合わせ、ダブルカウントなどがないかをチェックする仕組みとなっている。
チェックする主体は、既存のEACシステムの管理者もしくは第三者を想定している。現在運用されているGOやRECといったEACシステムは、欧州や米国など地域によって異なる。そのため、新たなGCシステムは既存のシステムに適合できるような仕組みで検討されている。
既存のEACのイメージは下図の通りで、新しいスキームにそのまま活かされていることがよくわかる。
How does the EAC mechanism work?
出典:『EnergyTag and granular energy certificates』
Energy Tagの携わるデモンストレーションのひとつには、Googleも参加している。北米でEACの改善を目指す非営利組織M-RETSらと協力し、1時間単位のエネルギー属性証明書(T-EAC)の実証テストを行っているところだ。
およそ20年前、日本でグリーン電力証書が誕生した。以降、環境価値であるEACは世界各地で取り入れられたが、現時点においては、日本と世界の状況は大きく異なってしまった印象だ。そのうち、ステークホルダーに粒度の高いエネルギー属性証明書の利用を求める企業も出てくるかもしれない。我が国においても、世界の動向にキャッチアップし、前向きなアクションを続けていく必要があるといえるだろう。
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