雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その2) | EnergyShift

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雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その2)

雲の彼方でバイオガスの現場を見る(その2)

2021年11月12日

前回は、中国の農村部におけるバイオガス利用について、視察による報告を中心に紹介した。日本でもバイオマス発電などで利用されている農業残さや家畜糞尿の利用は古くて新しいエネルギーといえるかもしれない。前回に引き続き、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏による、中国視察とその後の展開をお届する。途上国における脱炭素は、こうしたシンプルな技術が効果的なのかもしれない。

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なぜ私たちのことを知ったの?

雲の彼方にある中国雲南省でバイオガス利用の現場に圧倒された2日間を過ごしたわけですが、滞在期間は1週間だったので後半の日程は空白です。しかし、訪問前に発信した1本のメールが新たな出会いを用意してくれました。

私は、もし雲南省に環境NGOがあれば会ってみたいと思っていました。訪中する前、Google検索に英語で「雲南」「環境」「NGO」と入れて検索したところ、「雲南生態網絡(エコネットワーク)=YEN」という団体がヒット。事務局宛に「お会いしたい」とメールをしたところ返信があり、雲南省政府の視察が始まる前に宿泊しているホテルのロビーで会えることになりました。やってきたYENの劉麗波さんに「なぜ、私たちのことを知ってるの?」と聞かれたので、「いやーGoogle検索で見つけたんですよ」と答えると思わず笑いがこぼれ、一気に距離が近くなりました。


YENの劉麗波氏

YENは会員制の団体で、陳永松さんが代表を務め、環境保全のための様々なプロジェクトを展開していました。生態系の保護や環境教育、学生向けの植樹活動等々、その中に農村におけるバイオガス支援活動があります。

2002年にはイギリスの環境基金を受け、農村地帯の環境衛生改善に向けたバイオガス活用をテーマとする国際会議を開催していました。また、コンクリート製の埋設タンクを作る際に、鉄筋が無かった地域では鉄筋の代わりに豊富に自生する竹を使っていた事例も紹介してくれました。「うーむ、確か冷戦時代に、ソ連の鉄のカーテンに対して中国は竹のカーテンなどと言われていたけど本当だったのか」などと妙に感心してしまいました。

視察ツアーの提案が!

YENがバイオガス利用の現場をよく知っていることが分かった私は、劉さんに「実はスケジュールの後半が空白なのですが、どこか現地を視察できませんか?」と厚かましいお願いをしてみました。すると、劉さんはすごい勢いで電話をかけ始め、しばらくポカンとしていたら、電話をし終えた劉さんはこう言ったのです。「思茅(スーマオ)で進めているバイオガスプロジェクトなら見に行けますが、いかがですか」と。何と、その場で視察ツアーを組んでくれたのです!

政府の視察を終えてホテルに戻ると、省都昆明から30分ほどのフライトで思茅に向かいました。空港に到着すると思茅地区農村エネルギーステーションの出迎えを受け、林業局防火隊の真っ赤な四駆に載せられました。彼らは地方政府の人間です。電話一本で地方政府の人間を動かすとは一体どれだけの力を持ったNGOなのだろうと驚きました。

思茅では、農業廃棄物をガス化して燃料に利用する施設やバイオガスを利用する農家を訪ねました。市内近郊の農村にあったガス化施設は農業省による農村エネルギー建設プロジェクトの一環として建設されたもので、トウモロコシの茎といった農業廃棄物を細かく粉砕し、蒸し焼きにすることで可燃性の一酸化炭素ガスを作り出し、村内200戸の家々に供給しています。


思茅ガス化施設


農業廃棄物

これによって燃料(薪や液化ガス)の購入費が年間16万元の節約になるそうです。建設費92.5万元の7割を国・雲南省・思茅市が負担し、残りを村や寄付でまかなっていました。また、梅蘭村のお茶農家ではバイオガスを使った照明がありました。いわゆるガス灯ですが、こうした使い方もあるのかと驚かされます。


バイオガス灯

今でも続くYENとの関係

すっかりお世話になったYENですが、その後、愛知県で開催された「愛・地球博」に共同での出展を持ちかけ、中国におけるバイオガス利用の紹介に努めるとともに、日本の資金で雲南省の農村へのバイオガス導入を支援しようと何度も雲南省を訪れ、村々をめぐりました。

その後、活動拠点を昆明から麗江に移したYENは、農家を改装したグリーン教育センターを発信拠点として、バイオガスの利用促進やごみ問題の普及啓発、自然保護活動を展開しており、高校生や大学生がワークショップに参加するため泊まり込みで訪れています。

その一方、西双版納(シーサンパンナ)にも熱帯雨林をテーマとした環境教育拠点を作り、村民たちとエコツーリズムに取り組んでいます。代表の陳永松さんは2017年には、中国人民大学などの学識経験者らによる会から「故郷を愛する十大人物」に選ばれました。

バイオガス導入支援は筆者の力不足で残念ながら不発に終わりましたが、今でも交流を続けています。中国で出会った未知のエネルギー・バイオガスは、インフラが整わない地域でも自然の力を利用してエネルギーを作り利用できること、そのことによって外部からの燃料購入が必要なくなり、可処分所得を増やせることが分かりました。そして、地域で実践することの大切さを改めて気づかされた思いです。


筆者とYEN陳永松氏

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山﨑求博
山﨑求博

1969年東京江東区生まれ。東海大学文学部史学科卒。現在、NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ事務局長。自分をイルカの生まれ変わりと信じて疑わないパートナーとマンション暮らし。お酒と旅が大好物で、地方公務員と環境NPO事務局長、二足の草鞋を突っかけながら、あちこちに出かける。現在、気候ネットワーク理事、市民電力連絡会理事なども務める。

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