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日本電産、EVモーターの台風の目になるか ホンハイと進む提携、売上高2兆円を狙う

日本電産、EVモーターの台風の目になるか ホンハイと進む提携、売上高2兆円を狙う

2021年08月02日

日本電産は7月21日、2021年4〜6月期の連結決算を発表。売上高は4,474億円で過去最高、純利益は334.5億円と増収増益となった。記者発表で6月に就任した関CEOは成長の柱をEVのトラクション(駆動)モータに据えると発言。台湾の鴻海科技集団とのEV用モーターの合弁会社への検討を進めていることも発表された。

増収増益、日本電産の波は本物か

日本電産の2021年度第1四半期の決算発表がおこなわれた。連結売上高は前年同期比32.8%増の4,474.7億円となり、過去最高を更新。純利益は同66.8%増の334.5億円で大幅な増収増益となった。営業利益率は10%となり、前年度からのコスト削減策が功を奏し、2020年4Qからの4四半期連続の2桁営業利益率も達成した。

2022年3月期通期の業績見通しは売上高1兆7千億円(前年比5%増)、純利益1,400億円(同15%増)を見込んでいる。決算発表の説明会資料には明確にHDDモータ市場からモビリティ、特にミニEVの駆動用モータへの転換が謳われている。

EVのエンジンに当たるトラクション(駆動)モータ、E-Axleも好調で、累計で採用車種が16万台を超えている。中国の自動車メーカー、吉利(ジーリー)のジオメトリAにもこの4月から新しく採用された。


日本電産 2022年3月期 第1四半期決算説明会 プレゼンテーション資料より

佐川急便の商用軽EVに新開発モータとインバータで参画

その決算発表会でもふれられたのが、佐川急便の商用軽EVとして話題になったASF社が設計・開発を手がけ、中国柳州五菱汽車が生産する「G050」への採用だ。

7月15日の発表によると、G050に搭載される日本電産のトラクションモータとインバータは出力30kW以下の小型EV・モビリティをターゲットにして、新たに開発される。E-Axleではモータとインバータ、ギアは一体化しているが、今回のG050は小型車であるため駆動部(トラクション)とインバータをあえて分けており、コンパクトさと高効率を追求している。

日本電産はASFと中国柳州五菱汽車、両社と連携してプロジェクトに当たっている。

日本電産 2022年3月期 第1四半期決算説明会 プレゼンテーション資料より

検討が発表された合弁会社は鴻海科技集団のEV戦略に乗れるか

注目を集めたのが鴻海科技集団との合弁会社設立に向けた検討開始の発表だった。すでに今年3月に両社は戦略的提携を締結しているが、さらに一歩進んだ合弁会社へ向けた検討だ。

台湾の鴻海といえば、電子機器の受託最大手であり、これまではiPhoneなどの通信デバイスやIoT機器を手がけてきた。

その鴻海は2020年10月にEV開発プラットフォーム「MIH」を立ち上げ、次世代EVの開発とサプライチェーン構築を目指している。今年3月には鴻海の劉揚偉董事長は「EVはグループの成長ドライバーのひとつになる」と発言した。

そのMIHにはすでに世界約50の国と地域から1,820社もの企業が参加(2021年8月2日現在)。日本からは村田製作所など20社とともに日本電産の名前もある。

鴻海は6月にもアメリカ、またはメキシコにEV生産工場の建設を決定する予定だ。2023年から量産を開始し、2025年には世界シェア10%(300万台規模)を狙うという(ちなみに、Apple Carの生産受託に関してはその噂を否定している)。

7月の日本電産の決算発表に戻ると、関CEOは「鴻海はバッテリーなどなどでJV(企業共同体)を組む。いろいろなステークホルダーがいろいろな形を模索している(段階)。最終的には安いEVが究極での姿」とコメント。2025年以降にはJVにこだわらずに市販で売っているものを買ってきて組み立てる手法が主流になるとの見解も示した。

2025年を分水嶺に、EVはハイブリッドより安くなる

決算発表後の記者会見と質疑応答ではEV向けモータに注目が集まった。2025年のトラクションモータの販売台数目標は280万台に上方修正。そのうち受注しているのは160万台で、さらに上積みも考えているという。

そのトラクションモータには累計1兆円の投資を考えている。今年3月には5億€(約650億円)のEV駆動モータ開発向けにグリーンボンドも発行した。

また、中国のいわゆる格安EVについて、関社長は「中国のガソリン車の最低価格は65万円だったのが45万円と20万円安くなった。車のニーズは広がっている」と指摘。「(中国のEVは)最終的にはコスト争い。ユーザーは地球環境のためや政府補助金があるのでEVを買っているが、2025年を分水嶺にEVの値段はハイブリッドよりも下がる。そうなればユーザーはハイブリッドを買う必要がなくなる」と発言した。

日本の軽EVに関しては「田舎での一軒家は充電環境がいいので軽のEVはフィットしていく」とコメント。日本でのすそ野の広がりにも期待を持たせた。

さらに発表ではカーボンニュートラルの進捗にも言及。2040年までに事業活動のうちスコープ1、2をネットゼロにし、2025年までにスコープ3の削減計画を決定するとしている。

社用の各種小型モータ(車載オーガニック)をベースに、EV用トラクションモータで攻めに攻める。日本電産はEV時代の台風の目になっていくのだろうか。

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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