カーボンニュートラルに向けて産業構造が変化するというときに、そこで働く人々にとって、引き続き働き甲斐のある仕事に「移行」していくことは、重要なテーマだ。日本の基幹産業ともいえる自動車産業も例外ではなく、エンジン車からEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)などへの移行が待ち構えている。こうした中、働く人々をどのようにまもっていけばいいのか、全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長の安部輝実氏に話をおうかがいした。
-日本は2050年カーボンニュートラルを目指し、2030年には温室効果ガス排出量を46%削減することを目標としました。最初に、こうした政府の目標に対するお考えをおうかがいします。
安部輝実氏:日本のカーボンニュートラルへの対応は他国と比べ遅れていると思います。2020年10月に当時の菅総理大臣がカーボンニュートラルを宣言しました。しかし世界は早い段階から取り組む必要性があることを認識しており、日本はあわてて対応策を打ち出した感があります。
とはいえ、目指すべき方向はまちがっていません。問題は、企業が急にカーボンニュートラルに向かわなくてはならなくなったということです。
カーボンニュートラルを目指すためには、やるべきことがたくさんあります。例えば、日本ではガソリンHV(ハイブリッド自動車)が環境にいい自動車だとしてそれぞれのメーカーが生産を拡大してきました。そこで急にすべてのメーカーにEV(電気自動車)にシフトすることを求められても、簡単にはできません。とりわけトラックなどの商用車は長距離を走るため、簡単に電動化できません。
また、開発のための投資も必要ですが、全てのメーカーがその資金を一気に捻出できるとは限りません。
-では、自動車業界のカーボンニュートラルに向けて、どのような政策が必要でしょうか。
安部氏:1つは政府による資金面での支援です。海外でのガソリン車の販売禁止のインパクトはとても大きいのですが、自動車メーカーはこうした規制に合致した自動車を生産していくことになります。こうした市場に適応していくため、政府は開発費などの支援をするべきです。実際に日本政府による補助金は海外と比較すると少ないという傾向にあります。
もう1つはインフラ整備です。海外では充電などのインフラ整備が進んでいますが日本はそうではない。
ガソリンだと、ガソリンスタンドで2~3分で給油ができますが、普通充電では何時間もかかります。急速充電器がある充電スタンドでの給電は30分ということですが、十分に設置されていません。この状態でEVが普及してしまうと、あちこちでEVが充電切れを起こすことになります。
「選択肢を狭めるな」急速なEV化以外の道は・・・次ページ
エネルギーの最新記事