―海外のEV化は急速に進む方向です。確かに政府の支援がなければ、日本の自動車産業は大きなダメージを受けるかもしれません。
安部氏:日本ではガソリンエンジンが主流でNOx(窒素酸化物)の削減などの努力を重ねてきました。一方、ヨーロッパではベンツやフォルクスワーゲンなどがクリーンディーゼル自動車を製造できなくなり、ほとんどがEVやFCV(燃料電池自動車)にシフトしています。これにより、クリーンと言われる基準が変わりました。
-通常のHVは海外ではクリーンとは言われないわけですね。
安部氏:HVを含むガソリン車の廃止は、海外ではおよそ2035年です。この点では日本は遅れているわけですが、とはいえ地方の高齢者が運転する軽自動車を全てEVにするのは簡単ではありません。所得の少ない高齢者がEVを購入できるのかという点も問題です。
―そうした点からも、急速なEV化は問題あるということですね。
安部氏:ヨーロッパのようにEVを含めたZEV(ゼロ・エミッション自動車)にしぼってしまうと、とりわけ地方における自動車ユーザーの選択肢を狭めることになってしまいます。E-fuelを含め、インフラ整備を地方も含めたオールジャパンで考えていく必要があります。
また、新興国ではいまだに日本の中古車が使われています。先進国がZEVに取り組んだとしても、世界規模で見るとそれは一部でしかなく、新興国でEVの普及やインフラ整備が進むかどうかはまだ難しいというとことです。
そのように考えていくと、カーボンニュートラルという言葉が独り歩きしているというのが現状であり、エンジンの技術はまだニーズがあると思います。目指すのは脱カーボンであり、ガソリン車廃止ではありません。
カーボンニュートラルを電気だけにしてしまうと、日本では電源構成の問題も出てきます。
3.11(東日本大震災による東京電力福島第一原発事故)以降、原発は危険だという認識が広まり、その結果として石炭火力が増えました。自動車だけで脱カーボン社会の実現ができるわけではなく、エネルギーの分野でも脱カーボンを進めないと意味がありません。その点では、原発が批判されたことで、カーボンニュートラルがより難しくなったということはあると思います。
いずれにせよ、自動車政策についてもエネルギー政策についても、日本政府が国内外でリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
―ZEVにはEV以外にもさまざまな方式があると思います。とりわけ商用車はEV化が難しいという話でした。
安部氏:私の出身は商用車のメーカーなのですが、出身会社を含め、日本のトラックメーカーはEV化を含めたZEVの開発を進めていますし、日本だけではなく、海外メーカーも同様です。
小型の商用車に限れば、比較的短距離走行可能なコンビニエンスストア用配送車などでEVが導入されつつありますし、ごみ収集車のEVもあるようです。とはいえ、長距離トラックのEV化のハードルは高く、まだこれからだと思います。
(Interview & Text:本橋恵一、Photo:東條英里)
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