国際エネルギー機関(IEA)はWorld Energy Outlookの2021年版を10月13日に公開した。3種類の将来予測シナリオを分析。化石燃料の減少や、2050年ネット・ゼロへの追加投資について報告している。
IEAはWorld Energy Outlookの2021年版を10月13日に公開した。今回の公開はグラスゴーで行われるCOP26に合わせてのもので、各国政府に脱炭素の動きを加速する必要性を強調している。
分析では、太陽光発電や風力発電の普及が進む一方、2021年は世界の石炭消費量が大幅に増加し、このままだと二酸化炭素排出量が史上2番目に多くなるとしている。
また、各国政府の政府目標がエネルギーと気候にとって今後どのように変化するのかを分析するとともに、2050年に世界全体でネット・ゼロを達成するために何が必要かも分析している。
今年5月に発表された「2050年までにネット・ゼロを達成するための予測」の他に、「各国政府が現在実施しているエネルギー政策による予測」「各国政府が発表している2050年誓約による予測(2050年誓約)」の合計3つの将来予測が分析された。
それによると「2050ネット・ゼロ」予測のみが気温上昇を1.5℃以内に抑制できる。これは化石燃料需要の極端な減少と、新規油田・ガス田の開発中止が前提となる。ほかのふたつの予測シナリオ、「現在のエネルギー政策」予測では2.6℃、「2050年誓約」予測では2.1℃、それぞれ地球の気温は産業革命前の水準から上昇する。
「現在のエネルギー政策」予測では2050年までのエネルギー需要の「純増」はほぼすべて低排出源となるが、年間の排出量は現在と変わらない。
一方、「2050年誓約」予測では化石燃料の需要は2025年にピークを迎え、その後2050年までに40%減少する。すべてのセクターで減少に転じるが、中でも電力セクターの減少が圧倒的に多い。
この3つの予測シナリオすべてで石油需要は減少するが、その時期とスピードは大きく異なる。「2050年誓約」予測では現在の1億バレルから2050年までに7,500万バレル/日に減少するが、「2050ネット・ゼロ」予測では2,500万バレル/日まで大きく減少する。
石油需要における3つのシナリオ
出典:IEA 青色:現在のエネルギー政策予測 黄色:2050年誓約予測 緑色:2050ネット・ゼロ予測
天然ガスについては、今後5年間はどのシナリオでも増加するが、その後の動きは変わる。減少に転じるのは「2050ネット・ゼロ」のみだ。
天然ガス需要における3つのシナリオ
出典:IEA 青色:現在のエネルギー政策予測 黄色:2050年誓約予測 緑色:2050ネット・ゼロ予測
石炭火力発電は、「2050年誓約」予測では減少に転じる。この減少は中国が海外での石炭火力発電所の支援打ちきりを発表したことでさらに加速する可能性がある。これによりプロジェクトの中止が相次ぎ、2050年までの累積二酸化炭素排出量、200億トン分が削減される可能性もある。これはEUが2050年ネット・ゼロを達成した場合の削減量に匹敵する。
しかし、「2050ネット・ゼロ」予測と「2050年誓約」予測には大きな差が未だあり、各国政府にはより野心的な目標と誓約、そして投資が必要だという。
IEA事務局長のファティ・ビロル氏はコメントで「2050年にネット・ゼロの目標を達成するためには、クリーンエネルギープロジェクトやインフラへの投資を今後10年間で3倍以上に増やす必要がある。そのうち約70%は、資金が乏しく、先進国の7倍ものコストがかかる新興国や途上国で行う必要がある」と述べた。
太陽光・風力発電における3つのシナリオ
出典:IEA 青色:現在のエネルギー政策予測 黄色:2050年誓約予測 緑色:2050ネット・ゼロ予測
石油や天然ガスは2014・15年と2020年の価格暴落によって落ち込み、その結果として需要が停滞、または減少しているにもかかわらず投資が継続している。一方でクリーンエネルギーへの投資は将来需要を満たす額を大幅に下回っている。「将来のエネルギー需要のミスマッチ」が起こっているとビロル事務局長は警鐘を鳴らしている。
報告書では2050年ネットゼロ達成のための追加投資はリスクが少ないことも強調。必要な排出削減量の4割はエネルギー効率の向上、風力や太陽光発電など、現在でも競争力ある発電技術など、それ自体で採算が取れるものであるという。
さらに、クリーンエネルギーへの投資は、大きな経済的効果をもたらす。ネット・ゼロに成功すれば、風力タービン、ソーラーパネル、リチウムイオン電池、水素などの電気分解、燃料電池の市場規模は、2050年までに年間1兆ドルをはるかに超え、現在の石油市場に匹敵する規模になるという。
「2050年誓約」予測だけでも、2030年までに1,300万人の雇用がクリーンエネルギーとその関連部門で生まれ、「2050ネット・ゼロ」予測では、その数は2倍になるとしている。
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