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第10回「地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会」 「発電制約量売買方式」は「送電権」導入の第一歩:審議会ウィークリートピック

「発電制約量売買方式」は「送電権」導入の第一歩 第10回 地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会

2020年06月25日

発電した電気を送電するにあたって、送電線の制約がある場合は、「送電権」を誰に与えるのか、ということが想定される。現状ではあまり問題となる場面は少ないが、発送電分離後、効率的な送電線の運用にあたっては、考えておくべきテーマでもある。今回は、電力広域的運営推進機関の審議における、「発電制約量売買方式」に関する議論を紹介する。

先進的取り組みとしての「発電制約量売買」

2020年6月4日に電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)において、書面審議のかたちで第10回「地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会」(以下、本検討会と呼ぶ)が開催された。

今回の主要議題は「作業停止計画調整に係る事項の現状報告」であるが、本コラムでは特に、「発電制約量売買方式の利用状況」をご報告したい。

「発電制約量」を売買する、とは何か?

発電制約量を売買する、とは何か?
耳慣れない、ややマニアックなトピックであるが、筆者はこれを先進的・画期的な内容だと評価している。

系統利用ルールにおいて、「先着優先」のような既得権益でもなく、「自主的取り組み」という名の義務的措置でもない、あくまで個々の事業者の経済性判断による公平性・経済効率性を重視した、先進的な取り組みの一つである。

部分的ではあるが、「発電する権利」、「送電して売電する権利」を経済的に売買する仕組みだ、と見ることも出来る。実際に、本検討会でも「送電権」という言葉が用いられたこともある。発電制約量売買については後段で具体的に説明する。

この「審議会ウィークリートピック」で本検討会を取り上げるのは初めてであるため、まずはその歴史をごく簡単に振り返っておきたい。

本検討会の前身として、広域機関では2016年9月から「地域間連系線利用ルール等に関する検討会」が計9回開催された。ここでは主に、間接オークション導入に係る課題が検討されたが、連系線だけでなく地内送電系統の利用ルールの検討を行うことを目的とし、その検討対象の拡大とともに、名称が「地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会」へと変更された。

本検討会もすでに10回が開催されており、そのすべてを振り返ることは紙幅の都合上困難である。よって、今回ご報告の作業停止計画調整や発電制約量売買に直接関係する事項だけをまずごく簡単に説明しておこう。

作業停止計画調整とは何か?

まず作業停止計画調整とは何か? 送電線などの電力流通設備は定期的に点検や修繕等をおこなう必要がある。
電力を流したまま修繕することは出来ないため、当該送電線等の設備はあらかじめ停止させる。一部の送電線を止めることは、発電所など他の設備や系統運用全体に影響を及ぼす。よって、作業日程の調整や作業中の電力系統構成等の検討があらかじめ必要となる。

送電線を停止することは発電所を止めることに直結するため、誰のどの発電所を止めるか? という難しい議論となる。送電事業者だけの問題ではなく、発電事業者の問題でもある。

作業停止計画調整マニュアル(案)2018年10月1日 電力広域的運営推進機関 をもとに作成

全面自由化前は、流通設備の作業停止に伴う発電抑制が必要な場合、旧一般電気事業者が自社の発電機による対応を基本として作業停止調整を行っていた。
この従来方式では、「運用」としての発電制約と、その発電制約に伴う「費用負担」が一体であることを意味している。

自由化以降(ライセンス制導入後)の現在、旧一般電気事業者の発電部門と新電力の発電事業者を同等に取扱う必要がある。
コネクト&マネージの導入も見据え、「実運用」と「費用負担」を区分する新しいルールの検討が開始された。

将来的な、新しい運用ルール

実は、今回ご紹介する「発電制約量売買方式」は、当面の暫定的方式であると位置づけられている。

将来導入される、より望ましい新しいルールの概要はすでに別途定められている。

その将来ルールは「一般送配電事業者調整方式」と命名され、新しい作業停止計画調整の「本運用」とも呼ばれている。この本運用はコネクト&マネージの導入とも整合性を取る必要があるため、下図のように、具体的な導入時期は未定である

地内送電系統の利用ルールに関する検討について 2018年2月7日 第4回地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会資料より

本運用では、一般送配電事業者が事前に、発電制約の対象となる発電機全ての適正な発電単価を把握したうえで、メリットオーダーに基づき発電制約量の調整を行い、適正な発電単価に基づき精算する予定としている。つまり、物理的には「発電単価の高い」発電機を抑制し(発電単価の安い発電機は運転を継続させ)、その費用負担は関係者間で調整する仕組みである。ある意味、中央集権的ではあるが、機械的・自動的に調整が可能であるため事業者の業務負担は小さく、社会的にも最小コストで調整が実現される。

ただしこの方式の場合、一般送配電事業者が調整対象発電機全ての発電単価を把握する必要がある。最重要な経営情報である発電単価を把握するには、新たな制度が必要であり、相当な準備時間を要すると考えられている。

このため、経済効率性(メリットオーダー)はやや劣るものの、早期導入が可能な「発電制約量売買方式」がまずは導入された。

「発電制約量売買方式」とは

「発電制約量売買方式」とは、一般送配電事業者より通知された発電制約量に基づき、発電事業者(※)間の協議により、通知された発電制約量を調整する(売買する)仕組みである。(※正確には発電計画提出者であるが、分かりやすさのため本稿では発電事業者と呼ぶ)

「一般送配電事業者調整方式」と比べると、分散型の仕組みであるといえる。
以下、送電停止予定から、調整の手順をごく単純化させて説明する。

下図の系統には、A発電所からD発電所まで合計200万kWの発電所が連系しており、平時には運用容量200万kWのAB送電線を通じて送電しているが、ここで下図のようにAB送電線の1回線が停止予定であると仮定する。

作業停止計画調整マニュアル(案)2018年10月1日 電力広域的運営推進機関 をもとに作成

4台の発電機が定格運転(合計200万kW)すると、送電線運用容量(100万kW)を超過してしまう。

以下は発電制約量の調整の手順である。

手順1
一般送配電事業者は、発電制約量を当該系統内のA~D発電所に仮配分する(定格容量比例按分)。この例の場合、A~D発電所はそれぞれ25万kW抑制する予定であることを各社に通知する。

手順2
この通知を受け取ったA~Dの各社は、発電制約量の売買を希望するか検討する。売買の希望があった場合、一般送配電事業者は関係事業者へ「関係事業者リスト」を提供する。これにより、交渉先の情報を得ることが出来る。

手順3
関係事業者間で個別に協議のうえ、個別に売買契約を締結する。

手順4
最終的に、調整後の発電制約量が各社に配分される。
以下の例の場合、A社は発電抑制がゼロとなり、代わりにC社が全量引き受けるかたちとなっている。

当初「手順1」の比例按分方式は、ある意味公平である*と言えるが(基準が明確であるという透明性もある)、経済的効率性がないがしろにされている。
これに対して売買方式では発電単価の高いC発電所を止め、発電単価の安いA発電所を動かすことにより、社会全体としての経済性は改善している。C社はA社から一定の金銭を受け取っていることが想定されるため、発電を止めたC社にとっても損な話ではない。

*何が「公平」であるか、本検討会でも激しい議論があったが本稿では割愛する。

発電制約量売買方式の利用実績等

2018年10月から導入された「発電制約量売買方式」であるが、第10回検討会で初めてその実績が公開された。

2019年4月1日から2020年4月30日の間の、発電制約量売買方式の利用実績は2件(いずれも東京エリア)であり、売買方式は固定単価(具体値は非公開)であった。
これにより、調整希望側の発電事業者は固定単価で発電制約を回避することが出来た。

検討会配布資料によれば、調整希望事業者のコメント(抜粋)は以下のようなものである。

  • 発電制約量売買方式を活用することで損失を軽減できた
  • 突発的な事故発生後に契約交渉を行った関係上、早期の契約締結を優先したため、先方提示の契約条項等は、必ずしも完全に納得したものではない。
  • 発電制約量売買方式の前例や売買価格の相場観が無い中で、その他事業者へ提示する売買価格の設定が難しかった。

送電線事故後の短時間で意思決定を求められること、相場感が無いこと、の難しさはあるが、この制度自体の有効性は評価されたと考えられる。

現時点の実績は2件であるが、今年度の発電制約を伴う年間作業停止計画と、発電制約量売買方式の利用予定は下表のようになっている(発電抑制となる事業者が複数である場合のみを集計)。

緊急時における発電抑制及び年間作業停止計画に係る実績報告について 2019年4月24日 第9回地域間連系線及び地内送電系統の利用ルール等に関する検討会 資料より

上記A社-C社間の売買の例の場合、ひょっとするとA社はC社ではなくD社と売買したほうがメリットは大きかったかもしれない。これは「発電制約量売買方式」の弱点の一つである。実際に本検討会では、いわゆるオークション方式も検討された。

将来導入予定の「一般送配電事業者調整方式」であれば、最も経済的な調整が実現するはずであるが、この暫定的な「発電制約量売買方式」であっても、大きな改善が期待される。
何より、「送電権は売買可能なもの」であるという認識の第一歩として、このような経済的手法が多方面で徐々に広がることを筆者は期待している。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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