電力会社初のBコーポレーション、Green Mountain Powerの全方位的な電力サービス 脱炭素のみならず社会貢献も | EnergyShift

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電力会社初のBコーポレーション、Green Mountain Powerの全方位的な電力サービス 脱炭素のみならず社会貢献も

電力会社初のBコーポレーション、Green Mountain Powerの全方位的な電力サービス 脱炭素のみならず社会貢献も

2021年04月28日

米国の電力会社を紹介するシリーズ、今回は、米国の東海岸からバーモント州のGreen Mountain Powerを紹介する。地方の電力会社でありながら、米ビジネス誌「Fast Company」で革新的なエネルギー企業として選出されたことでも知られる注目の電力会社だ。ユニークな「電化」+「再エネ」で脱炭素を進めているだけではなく、社会貢献にも積極的な会社である。

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「もっともイノベーティブなエネルギー企業」に4年連続で選出

米国東海岸のバーモント州で約26.6万軒の顧客へ電気を送り届けるGreen Mountain Power(GMP)は、カナダ・ケベック州とバーモント州で天然ガスを販売するÉnergirの傘下だ。なお、2012年、当時バーモント州最大の電力会社だったCentral Vermont Public Service(CVPS)は、Énergirによって買収され、GMPと合併し、現在の体制となっている。

さて、GMPは米ビジネス誌「Fast Company」の「もっともイノベーティブな企業・エネルギー部門」で2017年から4年連続で選ばれている。「Fast Company」は革新的なスタートアップを毎年選出しており、TESLAはこの常連だ。

2008年から12年間、GMPのCEOを務めたMary Powell氏は、2016年の同誌「最もクリエイティブな人物」に選出されている。2021年から新たにCEOに就任したMari McClure氏は、先代のPowell氏を10年以上にわたってサポートし続けてきた人物で、女性CEOの活躍が目覚ましい。

電力会社で初のBコーポレーション認定

GMPは2014年、公益企業として世界初の「Bコーポレーション」認定を受けた。「Bコーポレーション」とは、非営利団体のB Labが運営する認証制度で、環境や社会に配慮した事業活動を行い、説明責任や透明性を維持していると評価された企業が対象となる。B Labは「ビジネスにおける成功を再定義する」ことを目的に活動しており、認証も独自に設けた基準によって行われている。


2014年の認定時 左から二人目がMary Powell元CEO

電源構成の95%がカーボンフリー

GMPは自社の電源構成について、REC(Renewable Energy Certificate:再生可能エネルギー証書)の適用前後の構成比を開示している。

RECとは、再エネの環境価値を証書化して売買可能にしたものだ。発電事業者が発行し、企業や小売電気事業者が買い取る。電気とセットでもREC単体でも売買可能だ。小売電気事業者は、RPS(Renewable Portfolio Standard:再生可能エネルギー利用割合基準)を達成するためなどにRECを調達する。

RECを購入・売却する前のGMPの電源構成は下図の通り。太陽光や風力などによる再エネが31.4%を占める。

REC取引前の電源構成

一方、REC取引後の電源構成では、太陽光や風力などの割合は大きく減り、大型水力が55.4%にまで膨らんでいる。つまり、太陽光や風力の環境価値を自社で活用するのではなく、他社へ売却していることを意味する。

GMPは、環境価値を他州へ売却した収益によって、顧客へ提供する電力コストの引き下げに役立てているのだ。

REC取引後の電源構成

REC調整後の電源構成は、95%がカーボンフリー電源で、64%が再生可能エネルギーによるものだ。GMPは、2025年までに脱炭素化を完了し、2030年に再エネ100%達成を目指している。バーモント州では、電力会社に対し2032年までに年間販売電力量の75%を再エネとするよう求めている。

GMPの料金は、1日あたりの固定料金であるカスタマーチャージと1kWhあたりの従量料金で構成される。従量単価が年間を通して一定のシンプルなメニュー「Residential Service」が基本で、これにオプションを付加できる。

また、5月1日から9月30日の午後0~20時で負荷の高い年間10日の節電が要請される「Residential Critical Peak Pricing Service」などもある。

Residential Service

Customer Charge$0.492/day
Usage$0.16859/kWh

Residential Critical Peak Pricing Service

Customer Charge$0.492/day
Usage, Peak kWh$0.68604/kWh
Usage, Off Peak kWh$0.16192/kWh

電気給湯器専用のメーターを設置する「Off-Peak Water Heating Service」では、電力の需給状況によってGMPが給湯機の稼働を遠隔でコントロールする。夕方の4時30分から10時30分の間に最大5時間、給湯器がオフになる代わりに1日あたり0.313ドル、0.10094ドル/kWhという料金設定だ。

なお、ここで言う電気給湯機は、日本でいう電熱式のものだが、別途ヒートポンプ式の給湯器の利用を補助するプログラムもある。

Off-Peak Water Heating Service

Customer Charge$0.313/day
Usage$0.10094/kWh

EV充電と家庭内使用のメーターは区別され、EV充電には専用のオプションサービスが用意されている。「Residential Off Peak Electric Vehicle Service」では、1回あたり2~6時間のピーク時間帯が月に5〜10回発生する。カスタマーチャージはなく、ピーク時の単価が0.68604ドル/kWhであるのに対し、オフピーク時は0.13343ドル/kWhとメリハリが付けられている。

Residential Off Peak Electric Vehicle Service

Usage, Peak Opt-out$0.68604/kWh
Usage, Off Peak$0.13343/kWh

上記すべて出典:Green Mountain Powerウェブサイト『https://greenmountainpower.com/rates/』

TESLA「Powerwall」のリースも

GMPの特徴は、顧客の分散型のエネルギー利用を強く後押ししている点にある。例えば、定置型蓄電池を例に挙げると、TESLAのPowerwall 2.0を月額55ドルで10年間リースできるプログラムが用意されている。Powerwall 2.0は、停電時に8~12時間ほどのバックアップが可能だという。

また、「BYODプログラム」というデマンドレスポンス・プログラムでは、顧客は、あらかじめ需給ひっ迫時にGMPに提供する蓄電容量を登録しておく。期間は10年間で、3時間の提供なら登録容量1kWあたり850ドル、4時間なら950ドルがGMPから顧客に支払われる。需給のピークは月に5~8回発生する。発動は1回あたり3~6時間で、顧客へは4時間前に通知される。家庭だけでなく企業もこのプログラムに参加できる。

「BYODプログラム」に登録できる蓄電池は、TESLAのほかに、Sonnen、Solar Edge、Generac Power Systems、Sunverge Energyとされている。

補助の対象は蓄電池やEVだけではない。前述のようなヒートポンプ式給湯器をはじめ、ヒートポンプ式空調(いわゆるエアコン)や、電動式芝刈り機などもある。再エネを拡大する一方で、顧客の電化を進め、全体で脱炭素化していくという戦略が見て取れる。


GMPのTesla Powerwall紹介ページ

輸送セクターの排出削減にも力を注ぐ

一方、輸送によるCO2排出を抑えるため、電気自動車(EV)購入に対しても手厚い補助を行っている。新車のEVに対しては1,500ドル、プラグインハイブリッドには1,000ドル、中古車にも750ドルの補助がある。GMPの提携ディーラーやバーモント州の補助金、連邦政府の税額控除を組み合わせると、最大で7,500ドルの節約が可能となる。

さらに、電動バイクや電動自転車にも補助を出しており、輸送セクターからの排出を徹底的に削減する意志が垣間見える。

GMPはデマンドレスポンス単体のプログラムだけでなく、電力メニューの随所にデマンドレスポンスを組み合わせている点が特徴的だ。さらに、1MWの節電が行われるごとに、5,000ドルがフードバンクに寄付されるというプログラムもある。バーモント州では、デマンドレスポンスに取り組むことが市民の生活の一部になっているのかもしれない。

日本では、一般世帯にデマンドレスポンスを要請するメニューはあまり見られないが、この冬の電力ひっ迫を考えると、こうした取り組みは電力会社と顧客の双方にメリットがあるのではないだろうか。

Green Mountain Power

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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