11月5日、アメリカ議会は超党派によるインフラ投資計画法案を賛成多数で可決。15日にバイデン大統領による署名がおこなわれ、法案が成立した。予算は1兆2千億ドルで、日本円にして約137兆円になる。この大型予算を、カーボンニュートラル推進の視点からみてみる。
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同法案は8月に上院を通過後、下院で議論が続いていた。民主党議員の一部が反対することで成立が危ぶまれていたが、共和党員の一部が支持に回り、8月の法案内容からほぼ変更がなく、下院を通過した。法案名には「超党派による(Bipartisan)」という名称がついている。
この法案は、アメリカのインフラと競争力に対する「一世代に一度の」大型投資だとワシントンは発表。橋、道路、水道などを再建し、雇用を生み出すとしている。
脱炭素の文脈でみると、まず目を引くのは全国50万ヶ所の電気自動車(EV)充電施設の整備への750億ドルの投資だ。高速道路や生活圏内のコミュニティ内にEV充電器を配備し、アメリカのEV導入を推進する。
電力インフラのアップグレードも行われる。米国エネルギー省(DOE)によると停電によるアメリカ経済への影響は年間700億ドルにも上るという。今回の法案では650億ドルを送電網のアップデートに使われる。また、最先端技術の開発、実証、導入支援の新しいプログラムにも使われる。
インフラは気候災害の復旧にも直結する問題だ。2020年だけでもアメリカでは22件の異常気象や気候関連災害が発生し、それぞれ被害額は10億ドルを超え、累積の被害額は1,000億ドルに上る。ホワイトハウスによれば、有色人種などの弱者コミュニティは洪水、干ばつ、山火事など気候災害の被害にあいやすい地域に生活することが多い傾向がある。インフラの回復・改善により地域社会の安全を高めるため、気候災害対策に500億ドル以上が投資される。
「過去の遺産」となったエネルギーへの投資もおこなわれる。具体的には、油井、ガス井の閉鎖とその汚染対策だ。アメリカ国内には何十万もの産業用地や燃料採掘の跡地が放置され、荒廃し、地域を汚染している。210億ドルを投資し、このような跡地の浄化、鉱山跡地の再生、油井・ガス井の閉鎖に使われる。黒人の26%、ヒスパニック系の29%がこのような地域の3マイル以内に住んでいることもあり、こうしたコミュニティへも地域の再生と雇用の創出を促すという。
11月15日、米国エネルギー省は声明を発表。同省へ当てられた620億ドルの予算の、より詳しい計画が明らかになっている。
電力インフラ整備に加え、バッテリーのサプライチェーン構築に70億ドル以上を投資する。鉱物資源の採掘、材料調達、リサイクル技術の構築も含まれる。また、グリーン水素の研究開発に15億ドルを投資する。
また、電力網、ZEB、産業部門などのエネルギー労働力の開発に数億ドルを投資し、複数の機関からなる「エネルギー・ジョブ・カウンシル」を立ち上げ、最先端のトレーニングを提供する。
公立学校のエネルギー効率と再エネの導入に5億ドル。学校の通学用ディーゼル・バスを50億ドルかけて電気のバスに転換させる。さらに、低所得者のエネルギーコストを削減するために、35億ドルの支援プログラムを組む。
既存の水力発電所の効率向上、維持のために7億ドル。一方、原子力発電には廃炉が決定し、かつ、安全性が確認されたものには60億ドルを割り当てる。これは、早期閉鎖による雇用削減の影響をやわらげるためだ。
215億ドルは、クリーンエネルギーの次世代技術に焦点を当てた実証及び研究に投資する。グリーン水素研究に80億ドル、炭素回収・貯留、大気からの直接回収に100億ドル、先進的な原子力発電に25億ドルなどだ。
2021年11月15日(月)、ホワイトハウスの「インフラ投資計画法案」への署名式で挨拶するジョー・バイデン大統領。(Official White House Photo by Erin Scott)
ホワイトハウスによると、バイデン大統領は同法案への署名の前に、インフラプロジェクトにおいてはアメリカ製の資材を優先的に使用する大統領令に署名した。
「アメリカは再び動き出す。そして、国民の人生はよい方向に向かうだろう」とバイデン大統領は式典で述べた。
次に控えるのは「Build Back Better」と呼ばれる社会保障・気候変動対策を盛り込んだ1兆7千5百億ドル以上の法案だ。こちらはまだ下院通過の見通しは立っていないようだが、バイデン政権は11月にも法案通過に向けて動いている。
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