地域脱炭素ロードマップを読み解く 03 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

地域脱炭素ロードマップを読み解く 03

地域脱炭素ロードマップを読み解く 03

2021年08月23日

前回前々回に引き続き、「地域脱炭素ロードマップ」を読み解いていく。今回は、自治体側の視点に立って、どのような取組みが求められるのか、あるいは支援はどのようにあるべきかについて解説する。基礎自治体だけではなく、都市ガス会社など地域企業にとっても、共有すべき視点だといえるだろう。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が解説していく。

これからの地域エネルギー事業のヒント16

担い手面からの考察

政策としての地域脱炭素を考えるにあたって意識しなければならない切り口がある。それは、「ここで何ができるか」と、「どこで何ができるか、何をするか」の違いである。下表のとおり、基礎自治体は「ここで何ができるか」と考えて地域脱炭素を進めねばならないのに対して、地域に向けた各省庁の脱炭素対策・施策は「どこで何ができるか、何をするか」と考えるのが一般的である。

表1.地域脱炭素政策を考える上での2類型

 

類 型
ここで何ができるかどこで何ができるか、何をするか
特徴まず特定の地域ありきで、案件が成立する要件を模索するが、地域の状況(賦存する再エネの状況等)によっては要件が整わないこともある特定の地域に限定されず、案件が成立する要件を満たす地域を探す
対象基礎自治体(市町村)
都市ガス事業者などの地域企業 等
国、都道府県
特定地域に縛られない企業 等
地域脱炭素(脱炭素先行地域以外の)大半の自治体・地域での取組脱炭素先行地域の選定~実践

「地域脱炭素」は、国と自治体が協力しながら、「地域」を主語にして日本の地球温暖化対策を進める考え方だと受け取れる。ただし、日本に地域という名の地域はなく、全て固有名詞を持っている。「地域」を主語にするとは、固有名詞の代表格である自治体が、自らの立ち位置から責任をもって、また多様な関係者との連携を通じて自分の地域の脱炭素を図り、それを通じて日本全体の脱炭素の実現に貢献することと理解する。

となると、地域脱炭素は一部の自治体の成功にとどまらず、全ての自治体が成功を目指せるよう配慮されたものであることが望ましいし、実際、ロードマップの目玉である「脱炭素ドミノ」の送り手も受け手も自治体であることを考えると、1,700超の基礎自治体のパフォーマンスが地域脱炭素の成否を左右するといっても過言ではない。ゆえに地域脱炭素の推進にあたっては対策・施策への支援だけでなく、自地域で独自の脱炭素を模索する自治体への支援も重要になり、その原点を「どの地域、どの自治体も取り残されないし、取り残さない」というSDGsの理念に置くべきと考える。

とはいえ、全ての自治体を同列に置いて担い手支援のあり方を考えるのは現実的ではない。

一般に地域脱炭素との関り方において自治体は、以下のメルクマールにより、そのポテンシャルがわかる。

  1. 地球温暖化対策推進法に基づき、どこまでの範囲の地方公共団体実行計画を策定しているか(区域施策編まで策定している「都道府県・政令市・中核市」か、事務事業編までしか策定していない「その他の市町村」か)
  2. ゼロカーボンシティ宣言や気候非常事態宣言などにより気候変動への危機感を表明しているか
  3. SDGs未来都市・環境モデル都市・環境未来都市等の取組みにチャレンジしているか

1に関しては、今般、改正された地球温暖化対策推進法では、再エネ利用促進等の施策と施策の実施目標を「都道府県・政令市・中核市」では義務化、「その他の市町村」では努力義務化するなどにより、地域の脱炭素化を促している。これと地域脱炭素ロードマップを併せ考えると、「地域脱炭素政策とは自治体施設や事業活動にとどまらず、自治体区域の脱炭素を進める取り組みである」ため、(政令市・中核市でない」市町村であっても、自治体区域の温室効果ガスをカーボンニュートラルに至るまで削減することにコミットせざるを得ない方向性が見えてくる。

次に、自治体区域の温室効果ガスをカーボンニュートラルに至るまで削減するというコミットメントを宣言の形で表明した自治体が2であるが、コミットの仕方は「決意表明」レベルであり、具体的な活動の有無は問われていないし、ましてや3のような具体的な活動の質も問われていない。

このように考えて、地域脱炭素の担い手面からの推進をどう図るべきか。

「即戦力」を重視するならば、足元で「脱炭素先行地域づくり」や「重点対策の深掘り」ができる力を持つ自治体を担い手として期待することになるだろう。これは道理であり、ある意味、政策遂行のセオリーでもある。創設が予定されている「交付金」も、こうした「即戦力自治体」がまず受け皿になることだろう。

一方で、「将来的な波及効果(ドミノ)」を重視するならば、現時点では即戦力にはなりえていないが、脱炭素マインドはある自治体を担い手として育成するための支援も必要になる。つまり、「ゼロカーボンシティや気候非常事態を宣言してみたものの、何を、どうしたらよいかわからない」とする自治体に向けた支援であり、その典型が「ゼロカーボン市区町村協議会(会長:横浜市)」の会員自治体だろう。ちなみに同協議会は、後述のとおり、地域脱炭素ロードマップの策定に関して本年3月に「脱炭素社会の構築に係る提言」もしており、ここの自治体に向けた支援のあり方検討は、(それ以外の)未宣言自治体支援のベースにもなる。

一方、ロードマップに示された「足元の5年間に政策を総動員する」ことに力が入れば入るほど、「即戦力重視」になる可能性が高くなるが、それだけでは2050年に向けた地域脱炭素の達成が危うい。つまり、地域脱炭素達成のためには「即戦力重視」と「将来戦力育成」の両方が必要であり、その意味において、将来の戦力となりうる自治体の支援・育成は極めて重要である。

重要な「はじめの一歩」への支援

では、どのような支援が望まれるか。「ゼロカーボン市区町村協議会」が、3月下旬に行った国への提言が、それを体現している(ゼロカーボン市区町村協議会 「脱炭素社会の構築に係る提言」teigen.pdf (yokohama.lg.jp))。

提言の内容はかなり網羅的ではあるが、(国の省庁ではなく)自治体自らが地域脱炭素を推進していくにあたって、全体としてどの分野においても「ヒト、カネ、知見、情報」が決定的に不足しており、そこへの包括的な支援を求めている。これを「甘え」と見るかは別にして、ゼロカーボン市区町村は概して政策推進能力が乏しいことは事実である。

ゼロカーボン市区町村に限らず、中小規模の自治体にとって大きな壁となっているのは、「脱炭素に関する『はじめの一歩』として、『ここで何ができるか』を考えたいものの、『何から考えればよいか』『どう考えればよいか』がわからない」ことである。とりわけ小規模自治体は地球温暖化対策に関するリテラシーが十分とは限らず、ロードマップを読み解くことさえ大変である可能性が高い。

この点に関して、ロードマップでは「地域の実施体制に近い立場にある国の地方支分部局(地方農政局、森林管理局、経済産業局、地方整備局、北海道開発局、地方運輸局、管区等気象台、地方環境事務所等)が水平連携し、各地域の強み・課題・ニーズを丁寧に吸い上げて、機動的に支援を実施していく」としている。こうした「縦割りを廃した国・地方の連携強化」は自治体からの要望も強く、自治体と一致団結して取り組む地域のステークホルダー(企業や金融機関、一般市民等)にとってありがたいことである。先行して取り組む地域が脱炭素を実現するプロセスへの支援と並行して、地方支分部局を中心に「脱炭素意欲はあるものの、リテラシーや人材等の要件が整わない自治体」の底上げ支援を図っていただきたい。たとえば、全自治体における「はじめの一歩」に関する課題や要望等の「ご用聞きをする」という、「STEPゼロ段階の支援」を行うなどである。またその際、地方支分部局がバラバラで対応するのではなく、各地方支分部局が「パッケージ化」された形での対応を望みたい。

加えて、支援対象となる自治体数(の多さ)を勘案すると、「はじめの一歩」への支援方法の「パッケージ化」も有効ではなかろうか。とりわけ「はじめの一歩」としての共通性が高いのは、地域再エネの掘り起こしから利活用の検討にかけてのプロセスである。2030年までのトランジション期間における再エネ導入の重みを考えると、どの自治体地域においても、まずは太陽光を主軸とした地域再エネの潜在導入量を把握し、導入のための計画を検討するプロセスを持つことは、スポーツでいう「規定演技」に匹敵する。むろん、そのためのツールとして「再エネ情報提供システム(REPOS)」「環境アセスメントデータベース(EADAS)」「地域経済分析システム(RESAS)から派生する地域経済循環分析や経済波及効果分析ツール」等が整備されてはいるが、いかんせん、中小規模の自治体がそれを「自力で」読み解いて段取りすることは、現実問題としてハードルが高い。たとえば、それらを使いこなす標準的なプロセスの明示や使いこなしのアドバイスができる専門家・専門機関の斡旋などを「パッケージ化」した支援制度の創設が望まれる。

丁寧な担い手支援から見えてくること

地域脱炭素に関して、もう1つ押さえるべきことがある。国レベルでも地域レベルでも、脱炭素化の過程はバラ色ばかりではなく、産業構造転換に伴って発生する経済的・社会的問題を「不都合な真実」として受け止め、克服する必要がある。

ロードマップでは「脱炭素をできるだけ早期に実現することが、地域の企業立地・投資上の魅力を高め、地域の産業の競争力を維持向上させる成長戦略において、極めて重要な要素になっていく」とされている。理論的には正しいが、現実にはたとえば「エネルギーを多く使用する製造業が経済の支柱となっている地域では、これが失われることで地域経済が崩壊するリスクに直面する(杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)」こともある。つまり地域脱炭素は地方創生に資する部分も多いが、地域によってはトランジション(移行)期間において「マイナス地方創生」も起こり、立地制約が強い自治体ではその回避が難しいということである。担い手支援を丁寧に行えば、(ロードマップからは読み取れない)「こうしたジレンマの克服があってこその地域脱炭素推進」であることに気づきやすくなるはずである。

むろん脱炭素化の過程で「ジャスト・トランジション(公正な移行)政策」が講じられるだろうが、完璧にはいかないだろう。となると、自治体が「地域脱炭素の工程では様々な痛みや困難を伴うが、それでも取り組む必要がある」と地域のステークホルダー(利害関係者)に理解してもらう動きに対する支援も重要になるのではないか。これに関して、経産省の「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ」は、6月に出した報告書で「自分ゴトにするために共感から始めるカーボンニュートラル」を打ち出し、「2050年カーボンニュートラルに向けて、一人一人の意識変革・行動変革を起こすためには、『やらされ』ではなく『能動的に』『我が事として』カーボンニュートラルに取り組める環境をつくることが重要」と指摘しているが、的を射た支援スタンスである。

ましてや、地域脱炭素政策のバックにある我が国の温室効果ガス削減目標の「野心ぶり」に鑑みると、時間が経つにつれ、需要サイドを形成する地域の全ステークホルダーの協力と努力なくしてはなしえないことが明白になってくることだろう。そして、それが行われる現場は、(霞が関ではなく)広範な自治体地域である。現場レベルでは粘り強く、かつ、泥臭く、担い手支援が行われることを期待したい。

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。

エネルギーの最新記事