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2050年のエネルギーシステムに関するシナリオ分析の活用方法 後編 エネルギー政策は、どのような策定プロセスが最適なのか

2050年のエネルギーシステムに関するシナリオ分析の活用方法 後編 エネルギー政策は、どのような策定プロセスが最適なのか

2021/07/20

前回は、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で議論されてきたRITE「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)」および関係団体による発表について、どのように活用していくべきなのかという点について提案した。後編となる今回は、具体的に著者が所属するIGESによるサジェスチョン、そしてエネルギー政策は、どのような策定方法で行うことが現実に合致しているのか、について、松尾直樹氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関IGES 上席研究員/シニアフェロー)が論じる。

気候変動問題を戦略的に考えよう(16-後編)

IGESの発表に基づくサジェスチョン:将来世界の複数のイメージから考える 

われわれIGESの発表は、前半は、栗山昭久さんによる「GHG排出量のネット・ゼロ達成に向けたシナリオ分析」の発表でした。

RITEやその他の研究機関のシナリオ分析は、各技術等に制約条件を課したいくつかのシナリオに関して、「コスト最小化」という方法でエネルギーミックスなどを試算したものですが、IGESのアプローチは異なっていて、「どのような社会を想定するか?」をシナリオとして考え、それを定量化するというアプローチになっています。

IPCCのむかしのSRESシナリオ特別報告書や、いまのShared Socio‐Economic Pathways(SSPs)シナリオ分析の考え方に近いかもしれません。

この内容の詳細は、元のレポートを参照いただくこととして、RITE等の分析のアプローチとは異なった視座を提供できたと思っています。「将来世界の複数のイメージ」から考えるということは、ある意味わかりやすいですね。どのような「トランジション」を想定するか? という一種のコミュニケーションツールとして使ってもらうことも想定しています。

もうひとつの後半部分は、田中勇伍さんとわたし(松尾)のコメンタリーに関するものでした。詳しい内容はまた別の機会にご紹介したいと思いますが、少しだけ紹介すると、RITEシナリオ分析の中のRE100%シナリオに焦点を当て、「電力コストがかなり高い」という『課題』をベースに、その理由や解決策を考えるというものでした。さらに、RITE解説を受けて浮かび上がった、別の課題である「限界コストが平均コストの2倍」という点も論じたものになっています。

エネ庁の要諦している、RITEのシナリオ分析をベースに「課題を抽出し」、「その理由を考え」、「解決策のラフ案や考え方を検討する(将来のさらなる検討項目の提起)」という、ひとつのモデル的なアプローチとなったと思っています。それをまとめたものが、下図になります。


第44回基本政策分科会 資料より

複数モデルによるシナリオ分析から、知見を深化させる『メタ分析』を

図の左の緑色の部分は、シナリオ分析の「使い方」の一般論です。前提とアウトプットの峻別は当然ですが、コスト以外の視点も重要であることを述べています。価値判断に踏み込む前に、できるだけシェアできるロバストな(確実な)結論は何か? という点を突き詰めたいものです。

真ん中のオレンジ色の部分は、前述のIGESのネットゼロレポートに関する点ですね。「未来の世界像」をベースに、多様なステークホルダーとのコミュニケーションを図ろう、というものです。これはRITEなどのシナリオ分析手法を補完することができると考えています。

右側は、RE100%というひとつのシナリオの試算結果に対するものです。ひとつの課題への議論が、やりとりを通じた議論や理解の深化と共に、別の重要な課題を浮き上がらせた一例となったことを示しています。これに関しては、また回を改めてご説明しましょう。

そしてプレゼンの最後に、「複数のモデルによるシナリオ分析からの知見を深化させる『メタ分析』を行いませんか?」というサジェスチョンで締めました。

モデルの結果だけを見るのではなく、モデルそのものとシナリオの比較分析を

今回の分科会における電力中央研究所(電中研)の発表は、複数のモデル試算の結果を比較して、「…な共通の傾向にあった」というようなタイプでした。ただこれでは、なぜそうなったのか? これらの結果から何がロバストな結論として言えるのか? という肝心の点が明確ではありません。

単にそれぞれのモデル結果を発表しあうだけでなく、この多数のモデルとシナリオの比較分析(一種のメタ分析)をその理由まで踏み込んで行い、それをどう解釈し、どのように次に活かすか? という点は、今後の検討方針において非常に重要だと思います。

いままでの比較分析から、何を学んで、それをどう次に繋げるか? (シナリオ分析というより、具体的に踏み込んだ個々の方策の検討など)という問題意識を常に持つことで、理解の深化が進むでしょう。

各研究機関のプレゼンには知見が詰まっている

実際、今回の各研究機関のプレゼンテーション資料を読み込んでみると、いろいろな知見が詰まっています。ただ、どれも「もっと突っ込む」ことで、現状の分析の限界や、次に行うべきことが見えてきます。

そのためにはモデル作成者との議論が必要になるでしょう。わたし自身も、これから集中すべき重要な研究対象を、その中にいくつか見いだしています。

その意味で、5月のRITE分析に端を発したシナリオ分析は、いいスタートを切れたのでは? という気がします。

ぜひ、この「(複数の)シナリオ分析」→「個別の課題抽出」→「理由の同定(モデル間やシナリオ間比較を含む)」→「解決策の個別検討(シナリオ分析の外)」→「再度シナリオ分析への組み込み」という反復したプロセスを、2050年カーボンニュートラリティーに向けたエネルギー政策策定プロセスで、活かしてもらいたいものです。

望ましい「エネルギー政策の策定プロセス」とは

上記は、エネルギー政策のエッセンシャルな点をどう見つけ、解決していくか? という点に関するシナリオ分析手法の活用方法に関する点でした。せっかくですので、ここでもうひとつの視点を問題提起してみましょう。

いままでは、エネルギー政策の策定は、経済産業省の資源エネルギー庁が一手に引き受けてきたと言えるでしょう。もちろん、環境省や国土交通省、農林水産省などが関与する部分もあるのですが、それは一側面にすぎません。

一方で、最近では官邸が主導する部分が出てきました。2030年目標、2050年目標などは、積み上げではなく、政治判断が先行しています。経済財政諮問会議、成長戦略会議、気候変動対策推進のための有識者会議、再エネ等規制等総点検タスクフォースなど、直接・間接的に、エネルギー政策への影響効果がありえます。

その他、どのような道具立て、仕組み、「場」があることが望ましいでしょうか?

たとえば、IGESの同僚には、中立的な機関を設立することはどうか? という提案をする人もいます。独立性の高い三条委員会のような組織になります。諸外国では、すくなくとも気候変動問題に関しては、英国など、そのような組織がある国がいくつか散見されます。

わたし個人は、政策措置の内容検討に関しては、コンペ方式も有効なのでは? と思っています。最終判断は政治家だとしても、政策措置の原案を、(建造物などと同様に)広くシンクタンク等にコンペを募るというのは、いかがでしょう?

たとえば「日本におけるカーボンプライシング案もしくは代替案」というテーマでコンペしてみてはどうでしょう? シンクタンクたちは、自分たちの能力を問われることにもなりますので、こぞっていい案を作成してくるでしょう。一等賞金1億円だとするとこんなに安い手法はないのでは? と思います。日本人は「対決」が好きですので、それだけで国民のこの問題への関心は大きく膨らむでしょう。

そのほかにも、政府が絡まなくても、民間レベルでもかなり意味のあることが可能になります。

メディアが有効な議論の場を提供する

今回の分科会会合で、コミュニケーションの重要性を指摘されたジャーナリストの崎田裕子委員に対して返答したことでもあるのですが、「メディアが有効な議論の場を提供する」というものです。

いたずらに対決を煽るのではなく、「どこまで共通見解を醸成できるか?」、「どこの部分からは価値観に属することか?」を、明らかにするようにすることが狙いです。中立的な見方のもとで、エッセンスを抽出し、国民が冷静な判断をできるような材料を提供するわけですね。

「テーマ設定」、「ディスカッサント選定」、「優秀なファシリテーター選定」などが非常に重要になります。このあたりは、場を設けるメディアの能力に依存します。

どこかのメディアが手を挙げないでしょうか? EnergyShiftはいかがですか?

追記

この原稿を提出したのち、7月13日に行われた基本政策分科会において、4つの研究機関の2050年シナリオ分析の結果比較が資料として事務局から提示されました。われわれの提案が奏功したかどうかはわかりませんが、いい傾向ですね。

「(それぞれの研究機関の)標準的なシナリオ」と、「再エネ100%シナリオ」の2つのシナリオに関するもので、それぞれ一枚にまとまっていますので、よろしかったら、ここ(https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/045/)からダウンロードしてご覧になってください(資料1です)。

ただ、その比較分析から何を読むことができるか? という点に関しては、何も示されませんでした。「再エネ100%シナリオ」に関して、比較表から一部を抜粋しますと以下のようになります。

 

 RITE自然エネ財団デロイトトーマツエネ研
再エネ発電費用想定(/kWh)PV9–15円3.6円(地上)
4.6円(屋根)
3.8–9.0円(メガ)
8.8–14.3円(住宅)
6–8円(事業)
7–11円(屋根)
風力10–22円4.5円(陸上)
6.8円(洋上)
5.8–23.8円(陸上)
11.4–37.4円(洋上)
6–13円(陸上)
11–18円(洋上)
蓄電等設備(GWh)3,980
(電気事業用)
178(電気事業用)
276(プロシューマ)
180(V2G)
44(電気事業用)
129TWh(V2G)
398(電気事業用)
468(V2G)
3,434(圧縮水素)
電力
費用(/kWh)
限界費用53円評価なし52円28–33円
平均費用18円9.2円19円27円
(22円: 割引率3%)

つらつら眺めると、けっこう興味深いですね。

電力費用を限界費用と平均費用に分解して記載いただいたのは、理解を深める上で大きな前進です。RITEとデロイトトーマツ分析の電力費用は、限界費用も平均費用もかなり似ているのですが、蓄電設備の規模が桁違いです。もっともデロイトトーマツ分析には水素貯蔵が大きく入っているはず(プレゼン資料では)ですので、その情報が比較表には抜けていると思われます。

なお、オリジナルの表では、「蓄電池等の想定」と書いてありましたが、何を蓄電に使うか? は「想定」ですが、どれだけの蓄電設備が必要か? は、アウトプットですので、想定ではありません。ミスリードしないような表記が望まれます。

現段階では、どうしてアウトプットがこのような数字の傾向になったか? は、ある程度、比較表から推察できますが、それは推察でしかありません。

本当は、さらにモデルの中身に踏み込んで、その理由(メカニズム)をきちんと明らかにすることで、さらに有用な(確度の高い)情報に基づいた理解が進むわけです。

わたしはこれを「メタ分析」と称しましたが、いったん2030年の議論が落ち着いたら、もういちど取り組んでいただきたいものです。

松尾直樹
松尾直樹

1988年、大阪大学で理学博士取得。日本エネルギー経済研究所(IEE)、地球環境戦略研究機関(IGES)を経て、クライメート・エキスパーツとPEARカーボンオフセット・イニシアティブを設立。気候変動問題のコンサルティングと、途上国のエネルギーアクセス問題に切り込むソーラーホームシステム事業を行う。加えて、慶応大学大学院で気候変動問題関係の非常勤講師と、ふたたびIGESにおいて気候変動問題の戦略研究や政策提言にも携わり、革新的新技術を用いた途上国コールドチェーン創出ビジネスにもかかわっている。UNFCCCの政府報告書通報およびレビュープロセスにも、第1回目からレビューアーとして参加し、20年以上の経験を持つ。CDMの第一号方法論承認に成功した実績を持つ。 専門分野は気候変動とエネルギーであるが、市場面、技術面、国際制度面、政策措置面、エネルギー面、ビジネス面など、多様な側面からこの問題に取り組んでいる。

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