電力小売と再エネ拡大のブレーキになりかねない、新インバランス料金 | EnergyShift

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電力小売と再エネ拡大のブレーキになりかねない、新インバランス料金

電力小売と再エネ拡大のブレーキになりかねない、新インバランス料金

2020年03月05日

2019年。電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合では、新たなインバランス料金制度の設計見直しが行われていた。電気事業には電気の需要と供給の同時同量が求められるが、達成できなかった事業者に対するペナルティともいえるのが、インバランス料金だ。見直しの結果どうなったのか、事業者にはどのような影響があるのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏によるレポートをお届けする。

新電力の経営に被害を及ぼすインバランス料金

昨年(2019年)後半、電力政策における最大のトピックは、通常国会への電気事業法と再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)の改正案提出を念頭に置いた議論だった。

本連載でも前回書いた通り、資源エネルギー庁は2つの審議会を新たに立ち上げ、秋から年末にかけて電力システムのレジリエンス強化につながる制度改革の検討を短期集中的に行なった。アグリゲーターのライセンス化やフィード・イン・プレミアム(FIP)など近未来的な雰囲気を感じさせる横文字用語が並び、関係者の注目と関心を集めた。

その陰に隠れていたわけではないが、新電力の経営に甚大な影響を及ぼし、市場競争の構図を大きく変えかねない議論も同じ頃、別に行なわれていたことはあまり知られていない。

議論の場は電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合で、参加する新電力は一様に懸念の声を上げていたが、エネ庁の2つの審議会に比べてメディアの注目度は大きく劣っていた。

その議論とは、2022年度の導入を予定する新たなインバランス料金制度の詳細設計だ。

電気は物理的特性から、ネットワークの中で発電量と消費量が常に一致している必要がある。そのため、小売事業者や発電事業者は事前に提出する販売量や発電量の計画値を順守することが求められている。その計画値と実績値のズレがインバランスだ。精算単価は現在、前日スポット市場と時間前市場の約定価格から算出しているが、2021年度の需給調整市場創設により抜本的に見直すことが以前から決まっていた。

波乱含みの検討作業

その詳細設計に、制度設計専門会合が着手した。2019年2月のことだ。新たなインバランス単価は、需給調整市場の取引価格に基づいて決めることが基本的な方向性で、検討作業は当初、比較的淡々と進んだ。

その雲行きが怪しくなったのは夏頃からだ。電力・ガス取引監視等委員会事務局(以下、監視委事務局)は、需給逼迫時には別の料金体系を採用し、それに基づく新たなインバランス単価を、政策的に上昇させる方針を打ち出していたが、その具体案が示されたあたりから議論は波乱含みになっていく。

そもそも、監視委事務局が別の料金体系を設定しようと考えたのはなぜか。

自然災害や想定外の気温上昇などにより電力不足の懸念が現実化した際には供給安定性の維持のため、平時には市場に存在しない電源等を掘り起こすことが求められるからだ。具体的には、工場等の自家発電やデマンド・レスポンス(DR)などだ。こうした電源等の、市場への供出を促すには相応の経済的対価を用意する必要があり、インバランス単価が確実に上昇する仕組みとしなければならない。

問題は価格水準だった。新しい料金体系によるインバランス単価は、一般送配電事業者が確保する調整力の余力が10%を切った段階で上げ始め、3%になった段階で上限価格に到達させることにした。監視委事務局は当初、その上限価格としてkWh当たり1,900円と600円という案を提示した。これに対し、わずかなインバランスでも収支に与える影響が甚大になることから、新電力はこの金額の大幅な引き上げに対して「経営体力が著しく毀損される」などと強い懸念を表明した。専門会合にはもともとエネットとSBパワーが参加していたが、途中からFパワー、丸紅新電力、イーレックスの3社も議論に加わるほど新電力の危機感は大きかった。

喧々諤々の議論の末、2019年12月の専門会合で、新たな料金体系の上限価格は、原則として600円/kWhとするが、2023年度までの当初2年度は200円/kWhという暫定措置を導入し、2024年度以降の単価も2年間の状況を踏まえて改めて検討するとの結論に至った。暫定措置を設けたのは、新電力のインバランス発生を回避する手段が、現時点では十分に機能していないからだ(時間前市場や先物市場は低調な取引が続いている)。

新電力以外からも相次ぐ異論、再エネ拡大の阻害要因にも

監視委事務局としては、この暫定措置で新電力の反発を解消したかったが、そうはならなかった。新しい料金体系の上限である200円/kWhでも600円/kWhでも、異常な高額設定であることに変わりはなく、暫定措置により経営リスクが緩和したとは言えないからだ。

また、専門会合での議論が深まる中で、新電力以外の事業者からも異論が相次ぎ、新制度が内包する、より本質的な問題点も明らかになっていった。

例えば、市場への最大限の供出を期待される自家発保有者は、新たな料金体系は諸刃の刃になることを指摘した。インバランス単価が高額になることは、発電設備が想定外のトラブルにより稼働できなくなった場合、逆に送配電事業者に支払う額も大きく跳ね上がることを意味するからだ。結果として発電事業者が市場参加をためらえば、需給緩和という政策目的に完全に逆行することになる。

新料金体系は、再エネ導入拡大の阻害要因になりかねないとの批判も出ている。高額な単価は全ての系統利用者に等しく適用されるため、発電量が自然条件によって不規則に変動する再エネ電源の事業性にも影響を与えるからだ。日本風力発電協会は「再エネ主力電源化の阻害要因にならないか」と疑問を呈している。

専門会合ではこうした懸念について十分に議論を深めないまま取りまとめに至った。取りまとめ案は今年(2020年)2月末までパブリックコメントにかけられていた。今年度末までには正式な取りまとめに至る見通しだが、原案通りに最終決着となれば今後に禍根を残すことになりそうだ。

(次回へ続く)

電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合
(リンク:https://www.emsc.meti.go.jp/activity/#emsc_system

木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

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