昨冬の電力卸取引市場におけるスポット価格の高騰は、関係者にとっては記憶に新しいだろう。それどころか、今冬もまた価格の高騰の可能性が指摘されており、穏やかではないはずだ。こうした問題に対し、政府はどのような方策を講じているのか、その上でなおどのような問題が残っているのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。
供給力不足が最も懸念される時期は、北海道を除けば、従来は冷房需要が高まる夏季だったが、太陽光発電の導入量増加により冬季の方が厳しさを増している。昨冬は燃料不足による需給ひっ迫が起きた。今年もさまざまな不安材料を抱えながら、間もなく冬本番が始まる。危機の回避のためには、需要家の節電の努力も重要になる。
昨冬の記憶は多くの関係者にとってまだ生々しいだろう。12月末から1月下旬にかけてスポット価格は高騰し、特に1月中旬には24時間平均で100円/kWhを超える超高値がしばらく継続した。燃料在庫の減少に伴って、主に旧一般電気事業者が市場に売りに出す電気が不足し、このことが新電力のパニック買いを引き起こした結果、前述のような約定価格(取引が成立したときの価格)の異常な跳ね上がりにつながった。このことは、市場連動型の料金メニューで契約している一部の需要者にとって、電気代の高騰という形で跳ね返った。
その経験を踏まえ、経済産業省は今年度、様々な方策を講じてきた。例えば、LNGを輸入する大手電力を主たる対象にした「需給ひっ迫を予防するための発電用燃料に係るガイドライン」を策定。複数のLNGタンクを保有する事業者の「望ましい行為」として、需要が上振れした場合にも適正な在庫量を確保できるようLNG受け払い計画を機動的に更新することなどを求めている。
こうした対応が功を奏し、10月半ば時点での大手電力のLNG在庫は、過去5年間で最高水準にある。ただ、想定以上の冷え込みなど需要が大きく上振れする可能性は否定できない。気象庁は今冬の平均気温について、西日本では平年並みか低くなると予測している。
今後の需要動向によっては、適切な在庫水準を保つため、LNGの追加調達が必要になる可能性もある。だが、世界的に資源価格が高騰する中でLNGも例外ではなく、北東アジア着のスポット価格は跳ね上がっている。
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