燃料価格の上昇は当然、電力価格を押し上げる。そんな市場価格高騰の懸念に拍車をかける仕組みの見直しがこのほど決まった。電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合は10月22日、大手電力の自主的取り組みにおける売り入札価格に機会費用の計上を12月1日の取引から認めることを決めたのだ。
機会費用とは、他の選択肢を選んだ場合に得られる最大利益のこと。今回のケースでは、スポット市場の他の時間帯や、時間前市場など他市場での電力販売、燃料としての転売などが「他の選択肢」として想定される。自主的取り組みでは、需給状況とは無関係に常に限界費用での拠出を求めてきた。だが、昨年度冬季の市場価格高騰の経験により、入札価格が各時点の電気の価値を適切に表すことの重要性があらためて認識され、今回の見直しに至った。
ある日時にスポット市場で売ると他の販売機会で売る分がなくなる状況であることが、機会費用の計上を認める大前提になる。こうした状況に該当しうる典型的なケースが在庫不足による燃料制約で、機会費用の上乗せはこうしたケースに基本的に限定される。
とはいえ、一歩間違うと相場操縦行為の抜け道になりかねないのも確かだ。実際、新電力の不安は小さくない。22日の専門会合では、SBパワーが「市場価格に極めて強い影響がある」と述べ、事前確認や事後監視の徹底を監視委に要望した。エネットも「(機会費用に対する)解釈の食い違いが事後的に見つかっても、結果として市場価格が跳ね上がった後では取り返しがつかない」と強い懸念を表明した。
こうした声を踏まえ、監視委は不正行為の防止に力を入れる方針だ。特に制度見直し初年度となる今冬は万全を期す構えだ。大手電力が機会費用の考え方を新たに採用して入札を行った場合、ただちに報告させ、上乗せした機会費用の価格について先物市場の価格など客観的な根拠の説明を求める。また、機会費用の計上を許容する電気の量も、他市場での約定が見込める分に限定する。
今冬は、昨冬のような「kWh不足」だけでなく、発電容量自体が足りない「kW不足」の懸念もある。大手電力が全面自由化により「責任ある供給主体」というくびきから解放され、採算性の合わない老朽火力の休廃止を推し進めていることが背景にある。その結果として怖れていた事態が現実になり始めている。
経産省は5月、東京電力パワーグリッド(東電PG)の供給エリアである首都圏では今冬、他エリアから融通を最大限受けても電力不足が生じかねないとの予測を示した。厳寒時の最大需要に対して予備率3%を確保するには約150万kWの供給力を追加する必要があった。その後、発電所の補修点検時期の調整により100万kW程度を確保できたものの、まだ約50万kW不足していた。
そこで講じられたのが、東電PGによる追加調達という変則的な手段だった。その結果が10月26日に公表された。JERAの姉崎火力発電所5号機など合計63万1,000kWが落札された。これにより首都圏の厳寒時の最大需要に対する供給予備率は、1月が3.2%、2月が3.1%になった。
ただ、2月には西日本エリアの予備率も3%台と低く、日本全体で容量不足の懸念が完全に解消されたとは言い切れない状況だ。大型電源の設備トラブルが同時多発的に起きれば、危機の度合いが一気に高まる可能性もある。需要側の節電の努力も強く求められている。
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