2022年3月31日、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は年次報告書として2022年度の「供給計画取りまとめ」を公表した。気になるのは、2年続けて冬期の電力の供給力が不足し、市場価格の高騰につながったことへの対策だ。結果として、今回の供給計画ではひとまず供給力は確保した形だが、リスクはなお小さくない。さらに中長期的には課題は多く、政府の対応が求められるものとなっている。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、毎年度末に供給計画取りまとめを公表している。これは、短期および中長期的な電力の需要を想定し、供給力が確保できているのかどうかということを示すものだ。供給力の予備力をはじめ、その裏付けとなる電源開発や廃止の計画、送電設備の計画などが盛り込まれた内容となっている。
2022年度の取りまとめで注目されたのは、夏期および冬期といった電力需要期における供給力の確保である。2021年度の取りまとめでは、夏期および冬期に供給予備力が8%以下となり、とりわけ2022年2月には北海道、東北、沖縄を除く7エリアが予備力5.8%という危機的な数字になることが示されていた。結果として、2月こそ供給力は確保されたものの、3月22日には福島県沖地震による火力発電の停止があったとはいえ、東京・東北エリアに初の需給ひっ迫警報が発令される事態に至っている。
実際に、2021年度実績として、2021年8月の最大3日平均電力は供給取りまとめの予測を300万kW以上上回った1億6,230万kWとなっている。
それでもトレンドとしては、人口減少や省エネの進展などの影響によって、毎年0.3%ずつ最大電力は下がっていくというのがOCCTOの見通しとなっている(図1)。
図1:最大3日平均電力の実績と今後の見通し
出典:電力広域的運営推進機関HP
一方、2022年度の需給見通しはどうなっているのか。とりわけ冬期の供給力が気になるところだ。
結論からいえば、エリア間の電力融通を行なうことで、夏期・冬期ともに8%を超える予備率は確保される見通しとなっている(表1)。
表1:2022年度各月別の予備率見通し(連系線活用、工事計画書提出電源加算後、送電端)
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
北海道 | 29.6% | 48.7% | 55.5% | 41.5% | 27.6% | 31.9% | 34.2% | 21.1% | 16.1% | 15.4% | 15.6% | 20.2% |
東北 | 18.3% | 20.3% | 13.3% | 15.3% | 20.1% | 16.8% | 23.1% | 14.6% | 11.9% | 15.4% | 15.6% | 19.9% |
東京 | 14.7% | 20.3% | 13.3% | 10.3% | 10.2% | 16.8% | 17.0% | 8.1% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
中部 | 14.7% | 20.3% | 20.2% | 10.3% | 10.5% | 16.8% | 17.0% | 11.3% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
北陸 | 18.0% | 20.3% | 20.2% | 11.3% | 10.5% | 16.8% | 17.0% | 11.3% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
関西 | 18.0% | 20.3% | 20.2% | 11.3% | 10.5% | 16.8% | 17.0% | 11.3% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
中国 | 18.0% | 20.3% | 20.2% | 11.3% | 10.5% | 16.8% | 17.0% | 11.3% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
四国 | 18.0% | 20.3% | 21.9% | 11.3% | 10.5% | 16.8% | 24.2% | 11.9% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
九州 | 18.0% | 20.3% | 20.2% | 11.3% | 10.5% | 16.8% | 27.1% | 23.1% | 11.9% | 10.7% | 10.6% | 18.4% |
沖縄 | 62.5% | 35.8% | 28.0% | 35.0% | 40.1% | 30.8% | 53.3% | 60.3% | 73.5% | 57.1% | 60.5% | 86.2% |
※モバイルの場合この表は左右にスクロールします
出典:電力広域的運営推進機関HP
実は、この6日前にあたる3月25日には経済産業省において、電力・ガス基本政策小委員会が開催され、3月22日の需給ひっ迫に関する検証が行われたが、この時点での2022年度の予備率は危機的な数値が並んでおり、とりわけ1月の東京電力は予備率0.1%ということだった。1週間もたたずに見通しが改善されたということになる。その理由は、火力発電所や水力発電所の補修計画を変更したことが大きい。これまで以上に、春期や秋期の補修量を増やしたということだ(図2)。
図2
2022年度供給計画(第1年度)の各月補修量
2022供計(第1年度)と2021供計(第2年度)の各月補修量の増減
出典:電力広域的運営推進機関HP
もっとも、とりわけ冬期の電力需給が厳しくなってきた背景には、老朽火力の休廃止が進んだことがある。2022年度中にも421万kWの火力発電が休廃止となる予定だ。
ただしその一方で、2023年度から2024年度にかけて運開する火力発電所もある。そのため、2023年度以降は供給力に多少の余裕が出る見通しとなっている(図3)。
図3:電源別供給力の推移
供給力の推移(8月15時・全国計)
供給力(新エネルギー等)の推移(全国計・8月15時)
供給力(火力)の推移(全国計・8月15時)
出典:電力広域的運営推進機関HP
なお、図3では2024年度に再エネの供給力が減少しているように見えるが、これは容量市場における再エネの調整係数に基づいた計算に変更したことによるものだ。1万kWの太陽光発電に対して、調整係数をかけると、エリアによっては1,000kW以下の供給力として計算されることになる。
実際の設備容量そのものは、太陽光発電や風力発電が大きく増加していくことが見込まれている。ただし、自家発や自家消費モデルの再エネが供給計画には反映されないとはいえ、それでも現在のエネルギー基本計画の目標を満たすレベルには至っていないということにも注意が必要だ(図4)。
図4:設備容量(全国合計)
※各電源の設備容量の合計値は、事業者から提出された数字を機械的に積み上げたものである。
出典:電力広域的運営推進機関HP
この他、今回の需給ひっ迫でエリア間の連系線の拡充の必要性があらためて認識されたが、これは急に整備できるものではない。すでに計画されている、北海道-東北間の30万kWをはじめ、東北―東京間の増強、東京-中部間の周波数変換所の90万kW増強など、いずれも2027年度ないし2028年度の使用開始となっている。
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