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脱炭素バブルなのに太陽光業界が実はピンチな理由とは

2022年01月26日

なぜ、オフサイト型PPAなのか

再エネ調達に向け、大手電力会社や国内外の石油元売りなど、さまざまな企業がオフサイト型PPAを模索している。大手電力会社は大型水力発電由来の再エネ電力を供給するが、日本においては大型水力を新たに建設することは難しく、「近い将来、供給不足に陥る」公算が高いからだ。そのため大手電力会社はこぞって洋上風力の開発に舵を切るが、稼働は早くても2030年前後だ。しかも、レノバのように必ずしも落札できるとは限らない。再エネ電力を調達できなければ、多くの顧客を失う事態にも及ぶ。

顧客流失課題を抱えるのは、都市ガスや石油元売り、さらにオフィスビルや商業施設、分譲マンションなどを持つ総合不動産会社も同じだ。特に首都圏に本社や支社を置く日本企業やグローバル企業は、脱炭素への取り組みに敏感だ。総合不動産にしても自社施設の再エネ転換が遅れれば、テナント退出などの影響を受けかねない。逆に脱炭素化を支援できれば、新たなテナント誘致や空室率の削減にもつながる。

三菱地所は2022年1月17日、オフサイト型PPAなどによって、2022年度中に東京都内、横浜市内に所有する約50棟のオフィスビル・商業施設の全電力を再エネ転換すると表明した。テナント企業は自動で再エネ100%を達成できることになる。

顧客の囲い込み、あるいは自社の脱炭素化、企業それぞれの思惑が交錯しながら、オフサイト型PPAによる太陽光発電の新規開発は盛り上がりを見せている。

オフサイト型PPAによって、太陽光発電が年間100万kW増える?!

オフサイト型PPAによって、太陽光発電の新設はどれだけ増えるのだろうか。

2024年までに自社で使用する電力の100%再エネ化を目指すヒューリックは、5.3万kWの太陽光発電所を建設し、年間電力消費量約0.6億kWhをまかなう計画だ。単純換算ながら、毎年2万kW完成させなければ達成できない目標である。

年間消費電力量がべらぼうに多いアマゾンは、とてつもない量の再エネを調達しなければならない。公表値は現状2.2万kWだが、これではデータセンター1ヶ所分の電力しかまかなえず、アマゾンが掲げる2025年再エネ100%実現に向けては、少なく見積もってもその10倍の再エネが必要になる。

日本の総電力消費量の約1%にあたる74億kWh/年を消費するイオンの再エネ調達量は、660万kW超が想定されている。同社は2025年までにオフサイト型PPAなどを駆使しつつ、イオンモール約160店舗の再エネ転換を図り、2040年度には直営モール(消費電力量約20億kWh/年)すべてを再エネ化する計画だ。

セブン&アイグループもイオンに匹敵する量的規模になるだろう。さらに2030年カーボンニュートラルを宣言した企業や、水面下でオフサイト型PPAに動く企業動向などを考慮すると、毎年100万kWを超える太陽光発電所を新設しなければならない可能性すら浮上してくる。

2030年カーボンニュートラル達成を表明した主な企業

  • コニカミノルタ
  • オリンパス
  • シーメンス
  • 日立製作所
  • パナソニック
  • ソフトバンク
  • アスクル
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ
  • りそなホールディングス
  • 三井住友フィナンシャルグループ
  • 大和証券グループ本社
  • 野村ホールディングス
  • 西松建設

産業界「安価な太陽光発電所をつくれる企業が足りない」

順風満帆のように映るオフサイト型PPAだが、決して楽観視はできない。

そもそも事業者の撤退・淘汰が進み、価格競争力を持った太陽光発電所を建設できる企業が今では数社しかいないという現状がある。三菱商事などのPPA事例を見ても、ウエストホールディングスやクリーンコネクトエナジーなどに建設委託が集中。業界内では「いくら50kW未満の小規模発電所が中心になるとはいえ、本当に1社で毎年、数百件も開発できるのか」と疑問視する声があがるほど、開発プレイヤーは限定的になっている

実際、再エネ開発事業者の囲い込みは年々進んでおり、2021年には東急建設が太陽光パネルの保守管理技術を持つヒラソル・エナジーに出資、大阪ガスはウエストホールディングスとの業務提携では足りないと考えたのか、GPSSホールディングスやSky Solar Japanといった再エネベンチャー企業と相次ぎ提携した。

一方、再エネ開発事業者にとっても、大手資本との業務提携や資本注入は渡りに船でもある。

電力系統に再エネ電源が接続できない「系統制約」に関しては、系統混雑時に出力抑制することを前提にした「ノンファーム型接続」が東京電力や東北電力、北海道電力管内で進んだことで改善されつつある。ところが、太陽光発電の普及拡大が進めば進むほど、地元自治体からの反対の声が増えるという状況は深刻化する。太陽光発電など再エネ建設に関する規制条例を制定した自治体はすでに156となった(2021年7月時点)。

メガソーラー建設反対が市長選挙などの焦点になることは珍しくなくなり、2021年12月末には岡山県美作市が太陽光パネルに法定外目的税を課す条例案を可決するなど、太陽光発電を取り巻く環境は厳しさを増す

足もとでは太陽光パネルなどの資材高騰も重なり、開発難易度はあがる一方だ。そのため、再エネ開発事業者は将来の生き残りを賭け、大手資本は再エネの囲い込みに向け、買収・統合に前のめりだ。

2022年からオフサイト型PPAが本格化し、年間100万kWを超える市場が立ち上がる可能性が浮上している。しかし、再エネ電力が欲しい企業に対して、1kWあたり10円を切るような太陽光発電所をつくれる企業は圧倒的に少ない。こうした事態が常態化すれば、日本企業の脱炭素化の足かせにもなりかねない。

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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