福島の復興・再生は道半ば、2020年度版原子力白書が指摘 | EnergyShift

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福島の復興・再生は道半ば、2020年度版原子力白書が指摘

福島の復興・再生は道半ば、2020年度版原子力白書が指摘

原子力委員会が毎年取りまとめている「原子力白書」だが、2020年度版では発生から10年が経過した東電福島第一原発事故の復興の状況が特集された。復興は着実に進んでいるものの、取組は道半ばであり、今後も長い道のりであることや残る課題が示された。何より、この10年間で信頼回復はなされていないという。白書を通じて、政府の原子力に対する認識がどのように示されているのか、紹介する。

福島全域では今なお、約3万6,000人が避難生活

原子力白書は、政府の機関である原子力委員会が、原子力の利用に関する現状や取り組みの全体像を説明するものとして発刊するものだ。原子力委員会は1956年に設置されたが、福島第一原発事故を契機に役割が抜本的に見直され、現在は2014年に改正された原子力委員会設置法に基づくものとなっている。

その役割も、原子力の平和的利用に重点を置いたものに変更されている。新しい原子力委員会による原子力白書は2017年から再び発刊されるようになり、今回の白書は新しい委員会の下では5回目となる。

2021年7月27日に公表された、「2020年版原子力白書」では、特集として「東京電力株式会社福島第一原子力発電所後10年を迎えて」という内容となり、続く第1章から第8章までは、原子力委員会の8つの重点的取り組みにそったものとなっている。

特集で最初に示されるのは、福島の現状だ。まず、空間線量(放射線の量)だが、事故直後こそ極めて高い値だったものの、現状では福島第一原発周囲の帰宅困難地域などを除けば、海外主要都市と同じ水準にまで下がっているという。その一方で、現在も帰還できない空間線量が高い地域は、福島県の面積の約2.4%に及んでおり、約3万6,000人がなお、避難生活を送っているという。


出典:原子力白書

また、出荷される農産物についても、国際的な基準よりも厳しい放射線量の基準値を使用しており、2018年度以降はこれを超えるものは見られなくなったという。基準値を超えるものは、一部のキノコや山菜類などに限られるということだ。

しかし、風評の問題は今なお大きい。民間会社による調査では、東京都民の4分の1が、放射線が気になるため、福島県産の食べ物や旅行を家族や知人に勧めるのをためらうという。さらに海外にはなお、福島県産農産物に対する輸入制限を続けている国もある。

住居や医療・福祉施設、交通機関、商業施設などの整備は進んでおり、生活環境は改善されているものの、自治体によっては極端な人口減と少子高齢化という課題が顕在しているということだ。

期待される新産業基盤「福島イノベーション・コースト構想」

福島の復興を加速させるにあたって、新たな産業基盤の構築を目指した計画「福島イノベーション・コースト構想」が紹介されている。この構想に基づき、2020年3月には福島ロボットテストフィールドが全面開所している。

また、世界最大級のグリーン水素製造実証施設も建設され、出荷が開始されている。このように、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6分野での新産業創出を支援していくということだ。

さらに、この構想を発展させ、「創造的復興の中核拠点」として研究拠点が整備されることが決まっており、2021年度に基本構想が策定される予定であることも紹介されている。


出典:原子力白書

事故の教訓は生かされているのか?

事故を起こした福島第一原発の現状についても進捗状況が示されている。事故対応は発電所構内の放射線量の低減、放射能汚染水の発生量などについて改善されている一方、溶融した核燃料などが冷えて固まった「燃料デブリ」への対応はこれからであることも示されている。原子力白書では、30年から40年後に廃止措置を完了することが目標だとしているが、この点については疑問は残るだろう。

また、原発事故に対し、東京電力や政府、国会などがそれぞれ事故調査会を立ち上げ、事故を検証してきた。そうした中から、東京電力以外の事故調査会が、原発事故について「人災」であるとしていることを紹介。今後はいかに人災を防ぐのかについても検討されている。

これまで行われてきた取組みの1つが、原子力規制制度だ。事故以前の制度においては、「原子力事業者の第一義的責任が明確にされていなかった」ことや、「諸外国で取り入れられている深層防護(複数の対策を用意し、それぞれを独立の対策とする)の考え方が十分に考慮されて」いないことなどの指摘を受け、現在の新規制基準に強化されたことが紹介されている。

とはいえ、新規制基準を策定した原子力規制委員会についても、2016年にIAEA(国際原子力エネルギー機関)から受けた、マネジメントシステムや組織体制に関する勧告が現在も未了であり、改善に取り組んでいることも紹介されている。

その上で、今後の課題として「世界で最も厳しい水準の基準」を満たせば安全であるという慢心がはびこり、「新たな安全神話」が生み出されることを懸念している。さらに、教訓を忘れることにより、同じ過ちを繰り返すリスクがあることにも言及している。実際に、2020年度には東京電力柏崎刈羽原子力発電所で不正事案が発覚している。

忘れてはならないこと、取り組むべきこと

原子力白書の特集では最後に、2つの点についてまとめている。

(1)全ての原子力関係者が忘れてはならないこと

  • 東電福島第一原発事故により、いまだ避難生活を続けている人がいて、避難指示が解除されていない地域があること
  • 事故によって生じた風評が固定化され、福島の人たちを苦しめていること
  • 二度と事故を起こさないために、原子力災害に関する記憶と教訓を忘れないこと
  • 安全確保や信頼構築の取組に終わりはないこと

(2)全ての原子力関係者が協働して取り組まなければならないこと

  • 福島の方々が誇りと自信を持てるふるさとを取り戻すことができるときまで、福島の復興・再生に携わっていくこと
  • 安全確保や信頼再構築に向けた取組を継続していくこと
  • 原子力関係機関に内在する本質的な課題の解決に向けた取組を継続していくこと
  • 今般の原子力災害に関する記憶と教訓を風化させずに、次世代に確実に引き継ぐこと
  • この国を担う次の世代が原子力や放射線について科学的に正しい知識を身に付け、社会の中における原子力や放射線の位置付けについて自ら考え、評価できるように、 それぞれの立場で必要な支援を行っていくこと

出典:原子力白書

あらためて、原子力関係者は福島について重い責任を負っているといえるだろう。

この他、コロナウイルス感染拡大に結び付けた記述もあるので紹介しておく。

OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は2020年6月に「ポストコロナ社会における原子力の役割」に関する政策文書を発表している。原子力白書によると、ポストコロナの経済回復において原子力のような大規模で長期にわたるプロジェクトへの投資が経済に貢献することなどが示されているという。

また、WNA(世界原子力協会)も2020年7月に「パンデミック後の世界における原子力」を発表しており、ポストコロナの経済回復段階ですぐにでも着工可能な108基の原子炉建設計画に着手することを主張しているという。

原子力白書そのものは、原子力の平和的利用を推進していく立場でまとめられた文書なので、こうした情報を盛り込むことは当然ではある。その上でなお、原子力の新規開発よりも、まずは福島復興と信頼回復が最優先課題であることがまちがいないことを、今回の原子力白書は示しているといえるだろう。

なお、白書が公表された7月27日は、福島復興を世界に示すイベントであるはずの東京オリンピックの開催と重なっていたが、白書にはオリンピックに関する記述は見当たらなかった。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798059020.html