エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に  電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【2】 | EnergyShift

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エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に  電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【2】

エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に  電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【2】

2021年03月30日

SDGsをエネルギーという視点で見てしまうと、どうしても気候変動問題に集中してしまう。しかし分散型社会における地方の課題は、より幅広く多様なものだ。SDGsを広くとらえ、その上で新しい地方創生を行うことが必要ではないか。何より、こうした問題に強い関心を持つZ世代の若者に期待している。電力シェアリングの酒井社長はそう話す。

電力シェアリング 酒井直樹代表インタビュー(2)

短期集中連載:電力シェアリング 酒井直樹代表インタビュー
(全3回 毎日更新)

第1回 分散型にモデルチェンジする電気事業、ブロックチェーンはマーケットインの発想で 
第2回 エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に(本稿)
第3回 持続可能な地域社会、地産地消に向けて、若者が活躍できるような社会システムを

気候変動だけではなく、SDGs全体で考える

―電力だけではなく、野菜にもとりくむ、共通するのは、最初におっしゃった、地方分散型の社会への視点だと思いました。

酒井氏:ADB(アジア開発銀行)での3つのキャリアを経験したことが背景にあります。1つは先ほど述べたように、50万kWの太陽光発電所やスマートグリッドを構築したことです。

もう1つは、気候変動問題に関わってきたことです。2009年にコペンハーゲンで開催されたCOP15で、前IPCC議長のラジェンドラ・パチャウリさんと話したことがあります。太陽光発電をやっていこうという、そのことをムードメーカーとして中国やインドを気候変動問題に引っ張り出していこうということです。再エネを基盤とした世界ができていくという将来像を見据えたものです。

そしてもう1つが、SDGsに関わってきたことです。気候変動対策だけで世の中が良くなるわけではありません。SDGsの概念が不可欠です。

SDGsのデザインを考えたとき、私がやっていることそのものが、実は電力ではなく気候変動対策でもなく、SDGsそのものなのではないか。途上国にも日本にも、そのSDGsを達成していくことが必要ではないか。そう考えました。

日本では人口が減少し、高齢化していく。こうした状況に対応した、持続可能な地方を創成していくことが、SDGsの目標としてあると思っています。

SDGs 17のゴール
SDGs全体で考えることがポイント

―人口が減少していく地方に対し、どのようにすれば持続可能なのか、そこに再エネ事業や農業が関わるということでしょうか。

酒井氏:例えば、人口が1万人だったものが7,000人になったとします。そうなるとインフラの維持が立ちいかなくなってきます。そこで持続可能な社会にしていくためにどうするか。

当初はそのために分散型の再エネをつくっていくことで、農家も新たな収入ができて豊かになるのではないか、と考えていましたが、その考えが誤っていたということです。

見誤ったのは、限界集落がすでに危機的になっていて、農村がすでに立ちいかなくなっているのに、こうした発想をしてしまったということです。むしろ、いかに農村を持続可能なものにしていき、その中に再エネを入れていくという考えが必要です。

再エネがあるから地方が救われるわけではなく、また地方を救うために再エネや、あるいは野菜、花卉、水産物をつかうというのは、プロダクトアウトの発想です。すでに、野菜がつくれなくなっているという現状をふまえながら、野菜の地産地消を進めていく分散的なコミュニティを支えていくということでしょう。

電気が先にあるのではなく、地方創生をやることで、電気が売れるようになる、ということです。

Z世代は、自分のライフスタイルやコミュニティのあり方としての再エネをやりたいと思っている

―エネルギーの地産地消でお金をまわすだけでは、地方創生はできない、もっと深刻な状態ということでしょうか。

酒井氏:現在、失われた30年と言われています。地方に行くと、確かにシャッター商店街ばかりです。しかしその背景には、レガシーシステムをあきらめきれないという構造があります。

農協があっても人はいない、大企業も終身雇用はすでに崩壊したのにバブル経済時代のモデルをあきらめきれない。でも、レガシーシステムからスイッチすべきです。

すでに企業では就職氷河期の非正規雇用を抱えています。

農業も、大量に野菜や米をつくり、大量に流通させ、スーパーで販売してきました。電気も同様です。こうした大量生産・大量消費が環境を破壊し、コミュニティを希薄化させています。そこには、外部不経済があり、経済の外側で損失を生みだしている、いわば反SDGs的なものです。

これに対し、Z世代とよばれる若い世代は、どんどん田舎に入っていき、SDGs的な活動をしています。Clubhouseで、SDGsなどをテーマに議論することがあるのですが、こうした若者たちが集まってきます。

実際に、ClubhouseはZ世代が中心となって地方で地産地消の農業やエネルギー事業を営む方々のネットワーク形成の場となっています。私自身も「再エネ」や「農林水産業の復興」「地方創生」「日本型SDGs」「ブロックチェーンなどのDX」というテーマでほぼ毎日皆さんとお話ししており毎日学んでいます。

おかげさまでこうしたテーマに関心のある2,000人の方々にフォローいただいており、「酒井さん、再エネやりたいんです」という相談もよく受けます。

彼らはプロダクトアウトではなく、彼ら自身のライフスタイルやコミュニティのあり方としての再エネをやりたいということです。こうした若い世代が我々に希望をもたらしてくれます。

脱炭素に向けグリーン水素で日本経済の復活も

―ブロックチェーンの話をおうかがいしましたが、他にも注目している脱炭素技術というのはありますでしょうか。

酒井氏:まずは水素です。日本社会は水素社会に向かって舵を切りました。エネルギー戦略に水素が組み込まれたということです。このことがいろいろな事業に影響を与えていくでしょう。水素が使われるようになることで再エネも使いやすくなります。

では、日本社会にとって水素はどのような意味があるのか。これまで、重厚長大といわれていた鉄鋼やセメント、あるいは火力発電所に水素が使われるようになる。

世界の経済は軽薄短小、良く言えばファブレス経営(生産設備を持たない経営)になっています。これに対し、日本は水素の基礎技術を持ち、あるいはすり合わせ技術でキラリと光るものを持っています。日本は水素によってアナログな重厚長大さを復活させるのではないでしょうか。

日本もこれから大規模な再エネを導入していくのでしょう。しかし、エネルギーミックスとして、単純に再エネ100%にしていくこともどうでしょうか。

環境負荷の高い再エネの導入に対しては考える必要があります。結果的に環境に悪影響を与えてしまってはいけません。

RE100というのは正しい流れですが、それだけではなくSDGs価値を織り込まれたものにしていただきたいし、その中にエネルギーも入っています

第1回はこちら 第3回 持続可能な地域社会、地産地消に向けて、若者が活躍できるような社会システムを はこちら

(Interview & Text:本橋恵一)

酒井直樹
酒井直樹

東京大学経済学部卒業、米国シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。 1987年東京電力入社。人事部にて同社の人事戦略策定を担当。 2000年アジア開発銀行(本店:マニラ)移籍。以降、2017年まで、同行にてアジアの発展途上国向けのインフラファイナンスを手掛ける。 2017年同行退職、2人のチームメンバーとともに株式会社電力シェアリング起業。

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