ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の日本国内での導入規模は、野立て型の太陽光発電と比較するとまだまだ少ない。とはいえ今後、より拡大する可能性を持っている。そこにはどのような背景、政策、そして需要があるのか。千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏が、ソーラーシェアリングの将来性を分析する。
総理経験者3人が注目したソーラーシェアリング
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の日本国内における導入規模は、2020年3月に農林水産省が公表した統計データによると、2019年3月末時点で累計1,992件・560haとなっている。面積から推計した設備容量ベースは500~550MWと見られ、日本国内で導入されている太陽光発電設備の1%程度を占めるにとどまっている。
第2種や第3種農地を永久転用することで、地上設置型の太陽光発電設備を導入する事例が累計1万haを超えようとする中にあって、ソーラーシェアリングの560haという面積はやはり少ない。
しかし、前回の記事でも触れたとおり、ソーラーシェアリングは農業以外での利用が厳しく制限される農用地区域内農地や、甲種・第1種農地にも一時転用許可によって設置できることが大きな特徴であり、導入適地の大きさから今後の普及拡大のポテンシャルは非常に大きい。
何よりも、農業と必ず組み合わされた事業になることで、日本が抱えるエネルギーと食料という2つの最重要な資源確保の問題を同時に解決し得る。
このソーラーシェアリングが注目を集めるようになった大きな出来事が、2017年3月に竣工した千葉県匝瑳市の匝瑳メガソーラーシェアリング1号機の落成式である。
匝瑳メガソーラーシェアリング1号機は、当時日本最大となるスリム型モジュールを採用した藤棚式のソーラーシェアリングであり、約3.2haの耕作放棄地を再生する事業という点でも注目を集めた。
事業実施体制は、地元の農業者が発電事業会社の代表に就任し、若手農業者を中心とした農業法人が営農者となり、城南信用金庫による融資を受け、SBIエナジーほか数社が出資するというスキームである。私も事業スキームの構築やファイナンスに関わり、現在も千葉エコ・エネルギー株式会社として出資企業の1社に加わっている。
匝瑳メガソーラーシェアリング1号機 落成式2017年4月3日に挙行された落成式には多くの参列者が集まり、何よりも来賓として列席した小泉純一郎、細川護熙、菅直人の歴代総理大臣が揃うという史上初めての式典となったことで、20社以上のマスメディアが取材に入った。
そして、当日の夕方以降のニュース番組や、翌日の新聞各紙でソーラーシェアリングという単語が人々の目にとまることになったのである。千葉県の片田舎の、見渡す限り農地と山林しかない場所に、これだけの注目が集まったことはかつてなかっただろう。
環境基本計画の重点戦略に
こうした出来事を経て、一気に業界内外へソーラーシェアリングの認知度が高まることになり、太陽光発電事業者や農業者を始めとする関係事業者がソーラーシェアリングに取り組もうという機運を高めることになったと筆者は感じている。
私も、この出来事以降ソーラーシェアリングに関する講演やコンサルティングの依頼が全国から来るようになり、毎週のように全国を飛び回っていた。その後の1年間だけで東北から九州までを巡り、50回以上の講演を行った。
実はこの時点で既に、国内には1,000件以上のソーラーシェアリングが導入されてはいた。しかし、当時はソーラーシェアリングに対して「農地の永久転用を前提としてFITの認定を取得していたものの転用が果たせず、一時転用許可で仕方なくソーラーシェアリングの形態を取るもの」といった認識が業界内でも多かった。
結果として、事業者の立場からも広く宣伝・情報発信されるような取り組みが少なかったことが、認知の進まなかった背景とも言える。
更に、歴代総理大臣が落成式に揃うという出来事は政治・行政にも影響を与えた。2017年6月に閣議決定された政府の未来投資戦略に、はじめて営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の普及に関する検討が盛り込まれたり、翌2018年の第5次環境基本計画の重点戦略に営農型太陽光発電が含まれたりするというところまで影響は広がった。その後の農林水産省や環境省による各種補助事業の創設にも繋がっていったと考えられる。
そして現在、2020年度に向けて見直しが行われたFIT制度の中で、ソーラーシェアリングのFIT適用は10kW以上50kW未満の事業用太陽光発電に対して自家消費を前提とした余剰FITのみに限る、という制度変更が行われたが、一部のソーラーシェアリングについては全量FITの対象のままとするという扱いがとられた。
これは、これまでのFIT制度の変遷を振り返っても非常に例外的な扱いであり、ソーラーシェアリングの普及拡大に向けた政策サイドの前向きな意向が反映された結果だろうと推測される。
RE100企業の期待に応えた電源へ
更に、今後ソーラーシェアリングが国内で普及拡大していく可能性がみられるのが、RE100を始めとする企業活動の再生可能エネルギー利用への転換の動きである。
経済産業省の総合エネルギー統計によれば、国内の再生可能エネルギー発電電力量が約1,800億kWhに対して、企業部門の電力消費量は約6,600億kWhほどとなっている。
すなわち、現状の再エネ発電量のままでは企業活動における電力需要の3割しか満たせないことになる。当然家庭用など他の部門を含めたエネルギー需要も存在することから、企業活動に振り向けられる再生可能エネルギー電気はより少なくなる。
また、世界中のRE100加盟企業の中では、パリ協定の目標年次となる2030年を再生可能エネルギー100%の達成年次としている企業が全体の3/4となっており、日本企業もこの流れを無視することはできないだろう。そうなれば、今後10年以内に大量導入できる再生可能エネルギーとして、太陽光発電が再び脚光を浴びることになる。
こうした状況の中においても、農地の活用によってまとまった事業規模が確保でき、開発時の環境負荷も低いソーラーシェアリングは、企業が選択する再生可能エネルギー発電の第1候補となってくる。
この点については、次回更に詳しく解説することとしたい。