分散型にモデルチェンジする電気事業、ブロックチェーンはマーケットインの発想で 電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【1】 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

分散型にモデルチェンジする電気事業、ブロックチェーンはマーケットインの発想で 電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【1】

分散型にモデルチェンジする電気事業、ブロックチェーンはマーケットインの発想で 電力シェアリング 酒井直樹社長インタビュー【1】

2021年03月29日

ブロックチェーン、分散型電力事業、次世代社会システムを提案する、株式会社電力シェアリングの酒井直樹代表インタビューを3回連続でお送りする。電気事業が大規模集中型から分散型に変化していくにあたって、ブロックチェーンなど新たな技術がこれを支えていくことが期待されている。電力シェアリングはブロックチェーンをマーケットインの発想で活用し、電力ありきではない分散型社会の創成を目指しているという。

電力シェアリング 酒井直樹代表インタビュー(1)

短期集中連載:電力シェアリング 酒井直樹代表インタビュー
(全3回 毎日更新)

第1回 分散型にモデルチェンジする電気事業、ブロックチェーンはマーケットインの発想で (本稿)
第2回 エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に
第3回 持続可能な地域社会、地産地消に向けて、若者が活躍できるような社会システムを

電気事業はピラミッド型から分散型へモデルチェンジ

-最初に、電力シェアリングを設立されたきっかけからお話しください。

酒井直樹氏:最初に私のキャリアからお話しします。1987年に東京電力に入社し、2000年からはアジア開発銀行(ADB)に移籍して南アジア電力課で海外事業に携わるようになりました。

例えば2010年にはインドのグジャラート州の砂漠で50万kWの太陽光発電所をつくりましたが、緑を破壊しないで建設できるという点で良かったと思っています。

あるいは、無電化村における分散型エネルギーを利用したマイクログリッドの構築も行ってきました。当時は、海外での事業展開がおもしろいと思っていました。

こうした中、日本でも、公益事業の5D(規制緩和、分散化、脱炭素化、人口減少、デジタル化)が予見されるようになってきて、日本で事業を展開するのも面白いのではないか、と感じるようになってきました。

そこで、2017年にADBを退職し、電力シェアリングを設立したのです。

―大手電力会社から分散型の電力システムにシフトチェンジしたということでしょうか。

酒井氏:電気事業はこれまでの大規模発電所から各地の需要家に届けるピラミッド型のモデルから、発電所も各地に分散したものとなることを通じて、新しいモデルに変化していくと思います。

旧一般電気事業の方々とも、例えば電力のP2P取引などについて話すことがありますが、それは電力のデジタル化による分散型電力システムやマイクログリッドなど、いわば電力システムの部分集合をつくり、それを社会実装していくということがこれから求められているのだと思います。


株式会社電力シェアリング 酒井直樹代表

ブロックチェーンはプロダクトアウトからマーケットインの発想で

―電力シェアリング設立以降、現在まで、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。

酒井氏:代表的なものとしては、2018年度から3年間の環境省からの委託事業があります。このときは協議会を立上げて応募し、採択されたものです。この事業では、ブロックチェーンを使い、電気のP2P取引の実証を行ってきました。最初は1対1ですが、2020年度はより大規模にN対Nでの実証となっています。

この事業を通じて、ブロックチェーンの可能性も見えてきたと思っています。

ブロックチェーンを活用したサービスとして、これまで提案されてきたものは、プロダクトアウトの発想が強いのではないかと思っています。技術があって、これで何かをしようということです。

しかし、もっとマーケットインの発想が必要だと思っています。市場が求めているものを、ブロックチェーンで解決するということです。ブロックチェーンの強さを考え、電力にとらわれずに使ってみる。

また、ブロックチェーン技術にはコストの問題もあります。しかし、今年から来年にかけて、ブロックチェーン技術が他の手段に対してコスト優位になってくると思います。長い時間軸で見れば、ブロックチェーンについては今がもっとも大変かもしれません。

ブロックチェーンで顔の見える野菜

―実際に、電気ではなく野菜の販売でもブロックチェーンを使っているということですね。

酒井氏:ブロックチェーンの強みを生かした使い方としては、2つあります。1つは、由来の証明です。トラッキングが改ざんできないので、生産者が嘘をつくことができません。

もう1つは、商品を情報とともに届けることができるということです。生産者の情報や想いを伝えるだけではなく、消費者側の情報を生産者に伝えることができます。

シェア経済が広がる中にあっては、世の中の市場(しじょう)取引から市場(いちば)での取引へと戻っていく。昔の市場では、人と人が顔を合わせて商品を販売していました。ブロックチェーンは双方向のデータを届けるものです。その意味では、ブロックチェーンを使った野菜の取引は、野菜を介したSNSなのかもしれません。

―確かに、環境にやさしいことを証明した野菜を売るにあたって、ブロックチェーンは有効ですね。

酒井氏:例えば、シイタケの栽培にあたっては、温室で加温する必要があるのですが、一般的に燃料として重油が用いられています。しかしそれを太陽光発電で置き換えることができれば、ゼロエミッションのシイタケを栽培することができます。実際に、環境にやさしいことを示すグリーンシールを貼ったシイタケを全国で3万パック販売しました。

お客様の反応を知るために、横浜市金沢区の野菜直売所では、グリーンシールを貼ったものと貼っていないものを両方並べて販売したことがあります。価格はシールがないものが1,000円、シールを貼ったものは1,050円でした。

結果はというと、30%のお客様が少し高いにもかかわらず、シールが貼ってある方を選んでくれました。もちろん、金沢区や鎌倉、湘南地域は比較的裕福な住宅街だということもあるかもしれません。それでも、方向性は間違っていないということを感じました。

―野菜に取り組むきっかけというのはあったのでしょうか。

酒井氏:ある農園の方と接点があり、その方の心意気に応えたということはあります。永島農縁というのですが、代表の方は外資系の企業を退職し、奥様の実家の農園を引き継いだということです。

―ブロックチェーンを使って再エネ電気を売るということは、プロダクトアウト的な発想だったので、野菜以上に課題が多いということでしょうか。

酒井氏:再エネの電気を意識の高い人に売るという直球での取り組みというのもいいと思います。しかし多くの人にはなかなか届きません。その点、環境にやさしいシイタケを販売する方が、視覚的にも消費者に届きやすいし、消費者が変わるきっかけになると思います。


プレスリリース資料より

(Interview & Text:本橋恵一)

第2回 エネルギー・気候変動にとどまらない、多様なSDGsへの取り組みを地域社会に はこちら

酒井直樹
酒井直樹

東京大学経済学部卒業、米国シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。 1987年東京電力入社。人事部にて同社の人事戦略策定を担当。 2000年アジア開発銀行(本店:マニラ)移籍。以降、2017年まで、同行にてアジアの発展途上国向けのインフラファイナンスを手掛ける。 2017年同行退職、2人のチームメンバーとともに株式会社電力シェアリング起業。

エネルギーの最新記事