環境にやさしい蓄電池で逆転狙う欧州、期待の新星Northvoltとは? | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)

環境にやさしい蓄電池で逆転狙う欧州、期待の新星Northvoltとは?

環境にやさしい蓄電池で逆転狙う欧州、期待の新星Northvoltとは?

2021/06/29

Northvoltはスウェーデンに拠点を置く蓄電池スタートアップで、ドイツのBMZグループと並んで欧州のEV生産のカギを握っている。欧州投資銀行をはじめ、世界大手の投資家が大きな期待を寄せる。蓄電池分野で後発と自覚する欧州が、巻き返しに懸ける思いは生半可なものではない。

産業セクターからやまないラブコール

スウェーデンのNorthvoltは、欧州域内の蓄電池メーカーの最有望株だといっても過言ではない。自動車分野ではフォルクスワーゲンやBMWなどと、電力セクターでは風力世界大手Vestasや地元スウェーデン大手Vattenfallともパートナーシップを築いている。ドイツのシーメンスは、Northvoltを蓄電池の優先的なサプライヤーとする考えだ。

CEOのピーター・カールソン氏は、スウェーデンのソニー・エリクソンを経てTeslaに勤務し、パオロ・セルッティ氏らとともに2017年3月にNorthvoltをローンチした。COOのパオロ・セルッティ氏はルノー・日産などでキャリアを積み、日本でも働いた経験があるという。Northvoltの技術メンバーには日本人も含まれている。


ピーター・カールソン Northvolt CEO

世界一環境にやさしいリチウムイオン蓄電池

同社のミッションは、最小限のCO2排出で「世界でもっとも環境にやさしい蓄電池」をつくることだ。リチウムなどの原材料の調達はもちろん、製造や輸送、リサイクルに至るライフサイクル全体で環境への負荷を考慮している。

製造に使う電力は、スウェーデンの安価な水力発電や風力発電がメインだ。化石燃料由来の電力でつくられた蓄電池よりCO2排出量が80%少ないという。中国や韓国、アメリカを意識し、製造にかかる電力やCO2排出量の少なさを強くアピールしている。また、2030年までに原材料の50%をリサイクル材料とすることを目指し、ノルウェーのアルミニウム大手HydroとEVバッテリーのリサイクルのためのHydro Voltを設立した。

蓄電池製造における遅れを挽回したい欧州が、Northvoltに寄せる期待には並々ならぬものがある。欧州投資銀行(EIB)は、2018年にデモンストレーションのための工場兼研究施設Northvolt Labsの建設に最大5,250万ユーロの融資を承認した。

欧州・蓄電池産業の期待を一身に

EIBはこの融資を成功と判断し、2020年7月には3億5,000万ドルの融資を決定。新しいギガファクトリーNorthvolt Ett(Ettはスウェーデン語で『1』の意味)の建設を支援している。株主には世界有数のテクノロジー投資会社ベイリー・ギフォードも名を連ねる。


Northvolt Ett, Southwest corner of factory – June 2021

Northvolt Ettで生産される蓄電池の売り先もすでに決定している。2020年7月には、BMWと20億ユーロ相当の長期供給契約を締結した。契約条件には風力や水力などの再エネ100%で蓄電池を製造することが盛り込まれ、納入は2024年を予定している。BMWにとっては中国のCATL、韓国のサムスンに続く3番目のサプライヤーだ。

6月9日には、Northvoltは、フォルクスワーゲンなどから27.5億ドルの資本を調達した。これにより、当初40GWhとされていたNorthvolt Ettの年間生産能力を60GWhに増強する。今後10年間で少なくとも2つのギガファクトリーを建設する予定で、候補地はドイツになるとみられる。

フォルクスワーゲンEV化のカギを握る

さて、EV化にあたり、Northvoltとタッグを組んだフォルクスワーゲンにも触れたい。フォルクスワーゲンは、2021年3月5日に発表した「アクセラレート戦略(Strategy ACCELERATE)」で「ソフトウェア主導のモビリティプロバイダへの移行を加速する」と宣言した。


VWのアクセラレート戦略(Strategy ACCELERATE)

この戦略では、ソフトウェアを機軸とした新たなモビリティのあり方を目指し、自動運転やデジタル化の推進を図る。電動化にも力を入れ、2030年までに欧州におけるEVのシェアを70%以上、米国と中国においては50%以上とする目標を掲げた。以前は欧州における目標を35%としていたが、一気に2倍に引き上げた。驚くべき数字だ。

10日後の“パワーデー”と呼ばれるデジタル記者会見では、電動車用バッテリーの充電に関する2030年までの技術ロードマップが提示された。このロードマップによると、2030年までに、フォルクスワーゲンのパートナー企業によって6つのギガファクトリーが整備され、総生産能力は240GWhにのぼるという。ここで重要な役割を占めるのが、Northvolt Ettだ。

こうした背景があり、6月9日のNorthvoltの資金調達ラウンドでは、27.5億ドルのうちフォルクスワーゲンが6.2億ドル(5億ユーロ)を出資した。フォルクスワーゲンは、これによって、2019年に9億ユーロの出資で獲得した取締役会の議席と20%の株式を保持することに成功した(ちなみに、この出資金の一部で両者は50%ずつの合弁会社を設立し、さらに連携を強めている)。

出遅れた欧州の挽回策

Northvoltが設立された2017年、欧州は蓄電池分野でアジアや米国に追いつけ、追い越せの状態だった。実際に、パオロ・セルッティCOOはNorthvolt初の工場建設時に「Compared with Asia and the US, Europe is behind in the battery industrialization(アジアや米国と比較して、欧州は電池の工業化に遅れをとっている)」と述べた。

蓄電池分野で後発の欧州は、品質そのものは当然ながら、カーボンフットプリントやリサイクルなどの観点で優位性のある模範解答のような製品を送り出そうとしている。コストだけでなく、環境負荷という価値基準を戦いの舞台にしようとしている印象を筆者は受ける。欧州が総力戦で挑む蓄電池産業をアジア勢や米国がどう迎え撃つのか、目が離せない。

山下幸恵
山下幸恵

九州大学文学部卒。九州電力グループ会社にて大型変圧器・住宅電化機器の販売に従事。新電力ベンチャーにおいて、ディマンドリスポンスやエネルギーソリューションの提案を行う。自治体および大手商社と地域新電力の立ち上げを主管。福岡市にて、気候変動や地球温暖化、省エネについての市民向けセミナーを実施。2019年よりエネルギーライターとして活躍中。

この記事を読んだ方がよく読んでいる記事


エネルギーの最新記事