前編では、日本の自動車産業がカーボンニュートラルに対応していくにあたって、政府の判断が遅すぎたこと、そして欧米と同様に政府の支援が必要だという点を中心にお話しをおうかがいした。後編では、産業構造の転換にあたって、いかに雇用を守っていくことが重要なのかを中心に、引き続き全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長の安部輝実氏に話をおうかがいした。
―大きな流れとしては、EVが拡大し、ガソリン車が縮小していくと思います。そしてこのことは、雇用問題にも波及します。
安部輝実氏:まさにその点こそが、我々にとって最も重要な問題です。自動車の部品メーカーは中小さまざまあり、板金からエンジンとそこで使われるパーツなど、幅広い事業分野から成り立っています。自動車を電動化したとき、それだけで雇用問題が発生する可能性は否定できません。それぞれの会社がどのようなものを製造し、社員が働いていけるのか。部品の種類だけではなく、部品点数も少なくなりますし、新たな部品の開発コストもかかります。
現在、それぞれの企業において、状況を注視しながら労使で議論をしている状況です。
脱カーボンや半導体不足の影響だけではありませんが、既に雇用への影響は発生しています。人員削減を余儀なくされた企業もありますし、生産量の減少に伴い、工場を集約するところもあります。
―確かに、急に生産品目を変えるのは簡単ではありません。
安部氏:ですから、政府の資金面での支援に加え、「公正な移行」に向けた激変緩和措置が必要になります。まじめに働く人が仕事を失うということがないように、我々は様々な政府支援を求めていきます。カーボンニュートラル社会を実現したことによって働く者の雇用が失われるということがあってはならないと考えています。同時に、EV化が進んだときに、国内の自動車ユーザーが買いたくても買えない人が増えるということも問題です。賃金がなかなか上昇しない現状において、自分たちが国内で製造しているものを購入できないというのは、国としても問題だと思います。
脱カーボンには、産業とエネルギーの両方の政策推進が必要ですし、カーボンニュートラル社会実現時における日本の立ち位置を見据えたうえでの賃金レベルの上昇なども必要だと考えています。
―今のは大変重い話かと思います。日本全体の平均賃金はこの20年間でおよそ1割下がっています。OECD(経済協力開発機構)諸国では日本以外は賃金が上昇しています。
安部氏:その点については、我々も忸怩たる想いです。労組として、我々は長年、賃上げに取り組んできました。しかし、満額回答が取れるとは限りませんし、状況によっては要求を見送ることもありました。とはいえ、日本全体で賃金が下がり続けていることは認識していますが、賃金の問題は、年齢層によっても異なっており、単純に上げればいいというものではありません。そうした中、重視していることの1つが、格差を拡大させない、むしろ格差を縮めていくということです。
部品企業も製造企業も販売店も、働く者全てが正規社員であるわけではありません。そうした視点からも、様々な格差を是正できるようにしていきたいと思います。
安部輝実氏。全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長。
―自動車産業は日本を代表する産業でもあり、その意味でも賃金は大きなテーマです。
安部氏:自動車産業が基幹産業であることは間違いありません。だからこそ、雇用や賃金を守るために国の支援も必要だということです。
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