米国のCommunity Choice Agregattion(CCA)という制度をご存知だろうか?連邦政府が定める電力の共同調達プログラムだ。カリフォルニアでCCAを実施するEBCEは、数あるCCAの中でも成長株。地域への再投資として、老朽火力発電所をバッテリーパークに生まれ変わらせようと奮闘している。
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Community Choice Agregattion(CCA)とは、米国の連邦政府が定める電力の共同調達プログラムだ。家庭や企業、地方自治体の電力需要を集約することで調達コストを引き下げたり、再エネ調達しやすくしたりするメリットがある。
1997年にマサチューセッツ州が初めて導入し、現在はカリフォルニア州のほかイリノイ州やオハイオ州など7つの州が実施している。
出典:EPA『Community Choice Aggregation | Green Power Partnership』
カリフォルニア州・アラメダ郡に本拠を構えるEBCE(East Bay Community Energy)は、CCAによる電力供給を行う電力公社のひとつ。2018年にアラメダ郡と11の都市によって設立された非営利の公的機関だ。そのため、当然だが株主は存在せず、理事会や諮問委員会はすべて公開される。現在、アラメダ郡の55万軒以上の家庭や企業に再エネ中心の電力を供給している。
EBCEがイケてる電力会社(公社)である理由は、再エネ電力への積極的な取組みだけではない。競争力のある電力料金を維持しながら地域コミュニティへ再投資を行っている点だ。
EBCEは、日本でいえばいわゆる自治体新電力のような位置づけだ。カリフォルニアの自治体新電力が、どのようなサービスや活動を繰り広げているのかを紹介する。
EBCEは、自身が提供するメリットを「Green Power(グリーン電力)」「Low Price(低価格)」「Local Investment(地域への投資)」をモットーに掲げている。
2020年12月、2030年までに供給する電力を再エネ100%とすることを宣言した。カリフォルニア州は州内の全電力事業者に対して2045年までに再エネ100%電力とすることを義務付けているが、その期限より15年も早い。
EBCEの展開する電力プランは、基本的にはカリフォルニア州の大手電力PG&E(Pacific Gas and Electric Company)の料金体系に準じている。低所得者向けの電気料金の割引やEV所有者向けの税制優遇などは、PG&EからEBCEに切り替えても引き続き受けることができる。EBCEオリジナルの再エネ電力プランは「Bright Choice」「Brilliant 100」「Renewable 100」の3つだ。
ひと月の使用電力量が359kWhの場合、各プランの見積りは以下の通り。電気料金は、発電コスト、送電コスト、諸経費で構成されている。発電コストは各プランで異なるが、送電コスト54.92ドル、諸経費12.20ドルは共通だ。EBCEは地方自治体が運営する公的機関であるため株主に利益を約束する必要がなく、諸経費を低く抑えられるとしている。
出典:EBCE『Compare Plans Residential』
電源構成のうち、約60%が太陽光発電と風力発電のベーシックなプラン。カリフォルニアの大手電力PG&Eより1%安い料金に設定されている。
上図の円グラフの紺色部分はバイオマス・地熱・小水力発電によるものだ。EBCEは太陽光発電と風力発電などを「適格な再エネ(eligible renewable power)」と表現し、大規模水力発電は含まない。
出典:EBCE『Compare Plans Residential』
電源構成の75%が太陽光発電と風力発電による。残りが大規模水力発電によるもので、100%カーボンフリーのプラン。価格水準はPG&Eと同等だ。
出典:EBCE『Compare Plans Residential』
カリフォルニア産の太陽光・風力100%によるプラン。価格はPG&Eよりも1kWhあたり1セント高い。
参考までに、PG&Eの場合のカーボンフリーの電気料金は以下の通りだ。EBCEの「Brilliant 100」と同額だが、電源構成が大きく異なる。PG&Eの「適格な再エネ」の比率は29%だ。
なお、2019年時点でEBCEの顧客のうち、約85%がPG&Eより安い「Bright Choice」を選択している。
出典:EBCE『Compare Plans Residential』
EBCEが提供しているのは、再エネによる電力だけではない。顧客がより効率的にエネルギーを使うことができるような、多様なサービスが用意されている。
ホームアドバイザーに相談すると、さまざまな省エネの提案を受けられる。その内容は、LED照明から住宅のリフォームにまで及ぶ。再エネの電気を使うことができる家電についての情報も提供している。
また、電気自動車向けのサービスもある。住宅だけではなく、賃貸向けのサービスや、職場と提携した充電サービスがあるだけではなく、アメダラ郡に1,300を超える充電設備を整備している。
さらにユニークなのは、低所得者を対象とした無料で住宅用太陽光発電を提供するサービスだ。日本における「ゼロ円ソーラー」と同じサービスだが、これにより、電気代を最大80%削減できるという。
この他にも、医療機器の利用者には蓄電池を提供するなど、社会的に立場の弱い人に目を向けた事業になっていることも指摘できる。
EBCEは得られた収益を、地域のコミュニティ事業に再投資している。これまでに非営利組織や地域団体へ16万ドルを提供してきた。さらに、近年は蓄電池の普及にも力を入れている。
2019年6月、EBCEは蓄電池サービスを手掛けるVistra Energyと共同し、老朽火力発電所を大規模な蓄電池にリプレースする計画を発表した。当初、蓄電池容量は20MW/80MWhとされていたが、2020年4月に36.25MW/145MWhに更新された。
このエネルギー貯蔵システムは、オフピーク時には系統から充電し、ピーク時に放電することで電力コストを削減することを目的としている。グリッドの信頼性を向上しながら、再エネ化を進める狙いがある。
実は、カリフォルニアのCCAはEBCEを筆頭に相互連携を強めている。2021年3月、EBCEと7つのCCAは購買力強化のためにCalifornia Community Powerを結成した。この連携により、顧客規模はPG&Eに匹敵し、全米で15番目に大きな電力事業者が誕生した。
California Community Powerは巨大な顧客基盤を武器に、再エネの調達力をスケールアップし、蓄電システムなどのインフラ整備を強化する考えだ。米国におけるコミュニティ電力公社の新時代を予感させる。厳しい状況に直面している日本の自治体新電力も、米国のEBCEのようにパワーアップしてほしいと切に願う。
California Community Powerの参加電力
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