稲作と脱炭素社会には、もう1つつながりがある。
温室効果ガスの代表といえばCO2であり、その大気中濃度を下げられる植物を育てる農業は、温暖化を抑えるように思えるかもしれない。ところが、人間の活動によって発生する温室効果ガスの70%はCO2だが、14%はメタンだといわれている。そして、日本で発生しているメタンは稲作由来が45%を占めていると農研機構が発表した。そのため、水田で発生するメタンを少しでも減らしていければ地球温暖化の抑制に効果が期待できるのだ。
水田からメタンが発生するのは、土壌中に潜むメタン生成菌が稲わらなどの有機物をエサにして、メタンを発生させるためだ。メタン生成菌は酸素があると活動できず、水を張った状態の田んぼでも、土壌中には酸素があるためメタンガスは生成されない。しかし、イネが呼吸のために酸素を取り込み始めると、土壌の酸素は徐々に減っていく。田植えから1ヶ月もすると酸欠状態になり、メタン生成菌が活発にメタンを排出し始めるのだ。さらに、土壌の酸素が失われる6月頃になると温度が上がり、メタン生成菌に好適な環境が整ってしまうといわれている。
ところが、近年、そんなメタン生成菌の活動を抑えるための手法が発明されて大きく注目を集めた。その手法というのが、農家が昔から行ってきた「中干し」作業の期間延長だ。中干しとは、イネの根の健康を保つため、一時的に水田から水を抜くことだ。水を抜かれた水田は、表面がひび割れるほどに乾燥し、土壌に空気が行き渡る。この中干しを長く行うことで、土壌に酸素が豊富にある状態になり、メタン生成菌の活動は抑えられるのだ。
具体的に、中干し期間を1週間程度延長した場合の効果を調べた結果、平均すると従来期間での中干しと比較して、平均30%もメタンの発生を減らせたと報告されている。また、収穫量に関しても大きな影響が生じなかったばかりか、若干ながらタンパク質含有量の減ったおいしいお米ができたという。
この手法は「農業に起因する温室効果ガスの排出緩和と気候変動適応技術による食糧安定生産への取組」として2019年に発表され、同年の「STI for SDGs」アワード優秀賞を受賞している。
もちろん、地域によって気候風土や土質が異なるうえ、中干しをしすぎると根の寿命が尽きて、収穫量が減る恐れもある。全国での標準的な方法は現在も模索中だ。
こうした改良法は1つ1つ、農業関係者が実地で確かめていくしかなく、脱炭素社会での食卓を守るための努力はまだまだ続いていく。そうした不断の努力に水を差しかねないという点でも、今後、冒頭のような発言が出てこないことを祈るばかりだ。
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ヘッダー写真:Pollyanna1919, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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