電気料金の高止まりは実はチャンス? 競争力が向上する再エネ・蓄電池ビジネス | EnergyShift

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電気料金の高止まりは実はチャンス? 競争力が向上する再エネ・蓄電池ビジネス

新電力は退出していくのか?

JEPXのスポット価格が高止まりしていくとすると、JEPXからの調達に依存する新電力の経営が苦しくなるというのは自明のことです。現状の事業モデルを変えない限り、新電力が生き残ることは難しいのではないでしょうか。

再エネを重視する電力会社の選択を呼びかけている任意団体パワーシフトキャンペーンがアンケートをしており、母集団が少ないとはいえ、その苦境がうかがい知れる結果となっています(図5)。

図5


出典:パワーシフトキャンペーン運営委員会プレスリリースをもとに編集部再編集

仮に料金を値上げして経営を改善しようと思うと、旧一電との価格差は小さくなるでしょうし、さらにスポット市場価格のボラティリティに対応することは簡単ではありません。大きなリスクとなります。また、ベースロード市場や先渡し市場も価格が上昇しており、リスクヘッジは簡単ではありません。

とはいえ、苦境に立つ新電力を擁護しようとはあまり思いません。多くの新電力は、2016年の電力小売り全面自由化以降、安価なJEPXからの調達で電気を販売することで、旧一電よりも安く電気を供給し、利益をあげることができるという、ただそれだけのことで参入してきたからです。インフラビジネスであるということをどれだけの新電力が理解しているのか。あるいは、価格以外の価値をどれほど提供できていたのか。こうした点については、問われてもいいと思います。

だからといって、旧一電の小売事業が安泰というわけでもないでしょう。旧一電はとりわけ一般家庭に対する営業力が弱く、東京電力エナジーパートナーにいたっては顧客をおよそ3割も失っています。

結局のところ、残るのは、顧客にきちんと価値を提供することができる事業者ということになります。さすがに、旧一電は残るとは思いますが、それ以外では限られてくるのではないでしょうか。

市場連動料金メニューの取り扱いがカギ

LNGやJEPXの市場価格が高止まりする中で、小売電気事業者はどのような価値を提供していけばいいのでしょうか。筆者も答えを持っているわけではありません。むしろいろいろな答えが出てくるとも思います。また、海外の小売電気事業も参考になるでしょう。

そうした中で、2つほど考えられることがあります。

1つは市場連動型料金メニューです。2020〜21年冬のJEPXにおけるスポット市場の高騰は、市場連動型料金メニューで契約している需要家に大きな衝撃をもたらしました。電気料金が数倍に増えるのですから、暮らしへの影響は大きなものとなります。そのため、一部の事業者は他メニューや他社への切り替えを推奨したり、価格の上限を設定したりするなどの対応をしてきました。また、消費者にとっても市場連動型料金メニューはリスクが大きいことが認識されました。

しかし、料金単価を固定した場合、そのリスクは小売電気事業者が引き受けるだけであり、その分だけ割高になるはずです。むしろ、市場連動型料金メニューを通じて顧客にできるだけ安い時間帯に電気を使ってもらうようにした方が、全体の電気料金は下がるはずです。また、安い時間帯は再エネの発電の割合が高く、CO2排出削減にもつながります。

あとは、どのように市場価格が安い時間帯に電気を使ってもらうのか、その工夫が必要になります。そこが、小売電気事業者の頭の使いどころになります。

地域新電力においては、PPA事業とアグリゲーション事業が注目すべきテーマだと思います。

図6は、先程と同じ、パワーシフトキャンペーンのアンケート結果です。

図6


出典:パワーシフトキャンペーン運営委員会プレスリリースをもとに編集部再編集

回答している新電力はおそらく、グリーン電力にフォーカスしている会社だと思われますが、もっとも回答数が多かったのが「非FIT再エネ電源の調達を増やす」というのは注目すべきポイントです。

小売電気事業者との電力供給契約はユーティリティPPAといいますが、地域新電力が地域の再エネ電源とこうした契約を結ぶことで、エネルギーの地産地消ということにもつながります

2022年4月以降、FIP制度がスタートします。ということは、非FIT再エネに対し、設備として認定されればプレミアムが支払われるということです。また、小売電気事業者が固定価格で買い取る契約にすれば、スポット市場高騰のリスクを回避することができます。

もっとも、太陽光発電によるPPAだけではリスク対策として十分ではないので、エネルギーアグリゲーションビジネスと組み合わせて、蓄電や電力消費の日中へのシフトを進める一方、さらに需給調整市場などでの収益を目指すことも可能です。

ただし、エネルギーアグリゲーションビジネスは簡単にできるものではありません。創意工夫が必要な事業です。つまりそこでも、知恵の使いどころということになります。

いずれにせよ、簡単に儲かるエネルギー事業は、FITにせよ小売電気事業にせよ、過ぎ去った話です。事業者がどのように知恵を出し、電力システムを効率的に利用していくのかが問われています。そうした意欲がない事業者は、退場していくということです。

 

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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