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食品業界が挑む脱炭素 求められるフードサプライチェーンの温室効果ガス削減対策とは?

2022年02月25日

サプライチェーンでの排出量算定の課題

農林水産分野はサプライチェーンが長く、かつ複雑であり、生産者ごとに工程、栽培環境等が異なるなどGHG排出削減・吸収量の定量評価が難しく、気候リスク・機会に関する情報開示等が進んでいないこと等が課題になっている。加えて、食料のサプライチェーンは自然環境の影響を受けやすく、気候関連リスクへの対策を講じるには時間や投資を要すとされている(図4)。

図4:食料のサプライチェーン固有の複雑性について


出所:農林水産省「食品産業戦略 食品産業の 2020 年代ビジョン」環境省「気候変動影響評価報告書詳細」をもとに編集部作成

農林漁業者や食品事業者が脱炭素化に取り組むメリットを享受できる仕組みを構築し、環境と経済の好循環への貢献をめざす。これらの課題を解決するため、農林水産省は2020年から「フードサプライチェーンを通じた脱炭素化とその可視化の在り方について検討」を開始。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示の取組事例の調査及び手引書の作成、脱炭素化技術及びその効果の定量評価に関する調査、カーボンフットプリント制度に係るニーズ等調査を実施している。脱炭素化の方策や分かりやすい可視化の在り方等について検討を進めている。

サプライチェーン全体での「見える化」が必須

サプライチェーン全体での低炭素化の推進には、排出量を定量的に把握、「見える化」したうえで、サプライヤー間で排出量を共有し、削減への関与を高めることが必要だ。「見える化」は、メーカー・小売業者の調達の他、金融機関や投資家のESG投資の判断にも影響する。

商品を運ぶ物流分野についても、よりいっそうの脱炭素化を求められる。農林水産省によれば日本の食品流通はトラックによる輸送が97%を占め、生鮮食品の輸送では、消費者ニーズの多様化のために小ロット多頻度の輸送が増えているという。物流の距離短縮によるCO2削減や積載率の向上などと共に、商用車メーカーや関連業界は環境規制に準拠するためトラックのポートフォリオ全体の電動化を迫られている。

小売業においては、現状、負荷の大きい建物や設備由来のCO2排出量を減らすことが課題だ。消費者は低炭素型商品を選択するだけでなく、環境に負荷をかけないような方法で食べ切り、容器や残渣(ざんさ)の分別・リサイクルに努め、生産者に資源を戻すことが求められる。

サプライヤーはカーボンニュートラルに向けた削減努力を「見える化」するため、排出量を算定しなければならないが、近年ではコロナ禍で複数の穀物輸出国において輸出規制が行われる等、サプライチェーンの混乱が発生し、ますます複雑になっている。日本は、農林水産物のみならず、食料生産を支える尿素、塩化カリウム、リン酸アンモニウムなどの化学原料やエネルギーも定常的に輸入に依存していることから、農林水産物や肥料、飼料などを輸入から国内資源へ転換していくことも必要になってくる。

このような複雑なフードサプライチェーンの中で脱炭素化を推進するためには、気候変動対策に向けたサプライチェーンの各段階における取組を可視化し、それぞれの段階でイノベーションを進めなければならない。農林水産省を中心に多くの取り組みが進められているが、資金循環や持続可能な消費行動を促すことが同時に求められるであろう。

 

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東條 英里
東條 英里

2021年8月よりEnergyShift編集部にジョイン。趣味はラジオを聴くこと、美食巡り。早起きは得意な方で朝の運動が日課。エネルギー業界について日々勉強中。

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