電力システムが新たな技術などによって大きく変化していることに対し、電気保安制度もまた、新たな技術に対応していくことが求められる。再エネの増加やデジタル化などだ。2021年6月15日、経済産業省の第6回「電気保安制度ワーキンググループ」が開催され、こうした問題について議論された。昨年7月の第1回会合以降の議論を振り返りつつ、解説していく。
審議会ウィークリートピック
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太陽光発電や風力等の再エネ電源の増加、またカーボンニュートラル実現に向けた水素発電やアンモニア発電といった新たな技術の普及に向けて、「電気保安制度」の在り方についても変化が生じている。
このため2020年度には電力安全小委員会の下に「電気保安制度ワーキンググループ」が設置され、電気保安制度をめぐる現状と課題について、計5回の会合の中で整理・検討されてきた。
2021年6月には今年度初回となるその第6回会合が開催され、今年度以降の検討の方向性や論点が提示された。この「審議会ウィークリートピック」で電気保安制度ワーキンググループを紹介することは初めてであるため、昨年度ワーキンググループで議論された背景情報も幾つか抜粋しながら、第6回会合の概要をお伝えしたい。
電気事業法の目的の一つは、電気工作物の工事、維持及び運用の規制による公共の安全の確保であり、電気事業法が制定された昭和39年(1964年)当時、電気事故が頻発する中、多段階にわたって国が直接的に関与していた。
その後、電気事業に携わる事業者の保安力の向上により、その事故数の大幅な減少が確認されたことから、平成7年(1995年)以降徐々に自主保安体制へと移行していった。
図1.電気保安制度の変遷
出所:電気保安制度ワーキンググループ
表1.電気保安規制の全体像
出所:電気保安制度ワーキンググループ
他方、電力システム改革の進展や再エネ発電設備の導入拡大、カーボンニュートラルに向けた方向転換等により、電気事業を取り巻く環境は大きく変化しつつある。
FIT制度の開始により、電気事業法上の「発電事業者」(1万kW以上等の定義に該当する者)が急増している。
従来の電気保安規制では、電気的リスクに応じて電気工作物の設置者へ、一律に規制を設定し保安を確保してきたが、AI・IoT等の技術活用が進むことにより、発電事業者の保安レベル・「保安力」は様々であると考えられる。このためリスクに応じた保安規制の要件見直しや手続の簡素化、適切な保安規制の遂行を可能とする体制整備が求められている。
図2.発電事業者数の推移
出所:電気保安制度ワーキンググループ
電気保安制度ワーキンググループ第6回会合では、新たな評価軸である「事業者の保安力」を適切に評価し、リスク評価に加え、事業者の保安力に応じた形への規制・制度に見直す方針が示された。
この方針に従い、電気保安制度ワーキンググループでは、他の産業保安分野等における事業者の保安力の評価手法を参考に、事業者の保安力の評価項目等を整理するとともに、検査・審査等のあり方を再検討することとしている。
表2.事業者の保安力評価に関する検討事項
保安力の評価項目 (構成要素) | ・経営トップのコミットメント、高度なリスク管理体制、デジタル技術の活用、サイバー攻撃等のリスクへの対応等 ・社会的に重大な事故、不正、法令違反の扱い ・安全指標 等 |
評価単位 | ・事業者単位、事業所単位 ・対象設備、評価の期間 等 |
国の関与のあり方 | ・行政手続(保安規程等)、検査・審査(定期事業者検査、安全管理審査等)のあり方 ・実効的な監督手法(法令遵守状況の監督等) |
出所:電気保安制度ワーキンググループ
また再エネ電源では小出力発電設備(50kW未満の太陽光や20kW未満の風力)に該当するものが大多数であるものの、小出力発電設備には、保安規程の策定・届出や電気主任技術者の選任、技術基準維持といった義務が課されていない。
このため、電気保安の規律確保による事故等の防止や、恒常的な実態把握を可能とするための対策が必要とされている。
ワーキンググループでは今年度、以下のような小出力発電設備の保安管理の実態を調査する予定としている。
所有者アンケート(1万ヶ所) | 保守点検実施状況、支持物構造計算書の有無等 |
自治体等アンケート(300ヶ所) | 人身・火災・物損等事故発生件数、被害内容等 |
洋上風力産業ビジョンにおいては2040年までに3,000万kW~4,500万kWの案件形成が目標として掲げられており、風力発電に係る保安規制面からの事業環境整備が求められている。
保安制度ワーキンググループではこれまでの技術基準等を整理するとともに、風力発電設備に必要となる構造・材料の技術基準等を明確化する。また早期に新技術・素材の実装が可能となるよう、国際規格等を技術基準等へ早期に取り込むための仕組み(一括エンドーススキーム)を構築することとしている。
脱炭素火力電源として、水素発電やアンモニア発電が注目されている。保安規制の観点からもこれらの事業環境整備を図るため、2021年度中に水素・アンモニア発電設備に係る技術基準や電事法をはじめとする他の保安規制における関係を整理し、必要な対応策を検討する。
太陽光発電では、追尾型の設備やペロブスカイト太陽電池(薄膜太陽電池)のような新たな技術開発が進んでいる。
出所:電気保安制度ワーキンググループ
よって保安規制の観点からも事業環境整備を図るため、今年度中に追尾型太陽電池やペロブスカイト太陽電池に関する技術基準等を整理し、必要な対応策を検討する。
従来、電力貯蔵装置(蓄電池)は、保安規制上は、他の電気工作物に付帯する設備として扱われてきた。
今後、系統に直接連系する大規模な蓄電システムを活用した事業については、「発電事業」として位置付けられる予定である。この位置付けを前提とした保安規制の在り方について、2021年度内に調査を実施し、2022年度中に見直しを図る。
近年、現場作業員や電気主任技術者等の電気保安人材は減少傾向にあり、また電気保安人材の高齢化も進み、将来的には人材不足が懸念されている。電気主任技術者有資格者数自体は多いものの、資格取得時に保安業界に従事する者は全体の2%にとどまっている。
図3.第3種電気主任技術者取得時の就職先(2015年度)
出所:電気保安制度WG
今後のさらなる再エネ発電設備等の増加により、電気保安人材の将来的な需給ギャップが懸念されており、スマート化技術の導入による業務の効率化等のほか、保安制度の一層の合理化も求められている。以下はその一例である。
現在の制度では、電気主任技術者は担当する発電所に2時間以内に到着できることが求められているが(いわゆる「2時間ルール」)、山間部の太陽光発電所や洋上風力発電所などでは、2時間以内の到達が困難であるケースが生じ得る。
これが制定されたのは1961年であり、当時とは交通事情や情報伝達速度等が大きく変化しているため、そのあり方を再検討する。遠隔常時監視装置等のスマート保安技術の活用による効率化が想定される。
電気事業法では、ダム・導水路・水圧鉄管等の設備の工事、維持及び運用に係る保安の監督として、ダム水路主任技術者の選任を義務付けている。
ダム水路主任技術者においても将来的な人材不足が懸念されているが、ダム水技術者には電気主任技術者や電気工事士のような「試験制度」は無く、実務経験のみによって免状が交付され、学歴により長期間の実務経験(1種の場合、最短5年・最長20年)が必要とされている。またダムの高さや発電出力等により、1技術者が統括できる事業場数に上限が定められている。
よってワーキンググループでは、ダム水路主任技術者免状の交付要件や統括事業場数の制限の見直し等について検討する。
既存の電気設備の高経年化や再エネ発電設備数の急増、電気保安を担う人材不足など多くの課題に対処するため、IoT・AI、ドローン等の新たな技術の導入により、電気保安をスマート化させることが重要である。
出所:電気保安制度ワーキンググループ
スマート保安官民協議会では2021年4月に、電力保安分野の「スマート保安アクションプラン」を策定している。
スマート保安技術の例としては、①ドローンによる巡視または点検、②センサーまたはカメラによる発電所構外からの遠隔監視、③AIによる異常診断、④CBM化(Condition Based Maintenance)、⑤ウェアラブル端末・携帯端末の活用などがあるが、分野・技術により導入率はかなり異なっている。
表3.分野別スマート保安技術別導入率
出所:電気保安制度ワーキンググループ
アクションプランでは、現時点で利用可能な技術は2025年までに確実に実装することを目指し、スマート保安に対応した各種規制の見直し・適正化を進めることとしている。
図4.ドローン・AIを用いた正確な鉄塔腐食判定
出所:電気保安制度ワーキンググループ
なお改正電気事業法では、新たに配電事業者やアグリゲーターが規定されたことから、電気保安制度ワーキンググループではその位置付けについて、保安面からの整理をおこなう予定である。
このように電気保安制度ワーキンググループのカバーする領域は幅広いが、技術的な調査や海外調査等を実施したうえで、現状を整理・分析し、本年秋までに制度見直しの大枠・改正の方向性を示す予定である。
電気保安の合理化・効率化は、レジリエンス強化やコストダウンに資するものであると同時に、新たな脱炭素技術のスムーズな導入に不可欠なピースであると考えられる。
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