窮地に立たされている日本の電力を支える火力発電 経産省、2023年度から水素・アンモニア発電の投資を後押し | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

窮地に立たされている日本の電力を支える火力発電 経産省、2023年度から水素・アンモニア発電の投資を後押し

2022年01月17日

火力の脱炭素化に向け、乗り越えるべき課題とは

火力の脱炭素化、そして電力不足を解消しようと、経産省は2021年12月22日より、総合資源エネルギー調査会の部会である制度検討作業部会において、新たな制度設計を本格化させた。遅くとも2050年までに発電所から排出されるCO2を実質ゼロにすることを条件に、10年以上にわたって収入を保証することで、水素やアンモニアを燃料とする火力発電所の新設投資を後押ししようというものだ。

現在、将来の電力不足を防ぐために発電所の維持にかかる費用を大手電力会社や新電力など小売電気事業者が負担する容量市場があるが、容量市場は4年後に運転開始する電源しか入札できず、収入も1年間しかえられない。そこで容量市場とは別に入札対象を新規投資に限定したうえで、長期間、収入をえられるよう保証することで、脱炭素火力の設備投資に踏み切りやすくする方針だ。

対象となるのは発電・供給時にCO2を排出しない、いわゆる脱炭素火力への新規投資。収入期間については、イギリスにおける最長15年、アメリカの最長7年といった海外事例なども参考に今後詳細をつめていく。

ただし、100%水素・アンモニアを燃やす発電技術は日本が先行するとはいえ、まだまだ開発途上だ。LNGや石炭に混ぜて燃やす混焼からスタートすることになるが、水素・アンモニアの混焼比率をどこまで認めるのか。そもそも対象とするのか。水素やアンモニア製造に関しても、石油や天然ガスなど化石燃料からつくったグレー水素やグレーアンモニアであれば、製造過程でCO2が発生してしまう。製造過程で出るCO2を回収して再利用したり、地下に貯留するブルー水素・ブルーアンモニアや、再エネ由来の電力を使って製造するグリーン水素・グリーンアンモニアに限定利用させるかも今後の課題となる。

またブルー水素・ブルーアンモニアに導くCCUS付き火力発電をどう位置づけるのか。さらに既存火力の脱炭素化投資をどこまで認めるか。新規投資によって、大きな系統増強費用が発生したらどうするのか。国民負担はどうなるのかなど、検討課題は非常に多い。一方、FIT・FIP電源は対象外とするなど、大筋の合意をえたものもすでにある

既設火力の改修やグレー水素・アンモニアは対象外!?

2021年12月22日に開催された制度検討作業部会ではさまざまな意見が出された。

複数の専門家が指摘したのが、どの電源をいつまでにどれだけ確保するのか、ターゲットの明確化だ。「今後、変動再エネが大量に入ってくる中、国全体で供給力や調整力がいったいどのタイミングでどれだけ必要なのか。定量的な試算、検証が必要ではないか」「この制度がなければどのような事態に陥ってしまうのか、という共通認識を持ったうえで、対象や量、価格を議論すべきだ」といった意見があがった。

既存電源の脱炭素化について、松村敏弘 東京大学社会科学研究所教授は「既設の改修などいっさい認めないことも選択肢のひとつだ。仮に認めたとしても、ゼロエミッション化をコミットしたうえで、2050年に高い確率で動いていることが前提だ。現時点で10年も15年も経っている電源は対象外とすべきであり、いたずらに対象を広げて、国民負担が増すようなことが決してないよう求める」と述べた。

また水素・アンモニアに関して、「グレー水素やグレーアンモニアでスタートしたとしても、2050年カーボンニュートラルに向けた道筋をきちんと示さない限り、国際社会で持続性を証明できない」(加藤英彰 電源開発執行役員 経営企画部長)。さらに「たとえば、アンモニア混焼の石炭火力発電所を対象とする場合には、2050年カーボンニュートラルとの整合性については慎重に検討されるべきではないか。具体的には、最終的に脱炭素型電源になることをどういう形で担保するのかなど、対象となる発電所が将来的に座礁資産化することがないように、制度設計には十分考慮いただきたい」(環境省)といった意見が出された。

さらに「グレー水素やグレーアンモニアは対象外とすべき」との意見もある。

新制度の骨格を議論してきた持続可能な電力システム構築小委員会(第13回)において、村上千里 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 環境委員長は、「水素やアンモニアはまだまだ価格が高い。また水素は重工業の脱炭素に不可欠なものであり、ニーズも高い。そのような中で、本当に発電に使うべきなのか、使えるのか。容量市場の収入見通しで発電所を建設したものの、燃料代が高くてペイしなかったというようなことが起こらないよう、燃料側の見通しも視野に入れながら検討すべきではないか」と述べたうえで、「混焼は発電・供給時にCO2を排出しないという文言通り取れば対象外になるはずだ。仮に対象にするにしても燃料はグリーン、もしくはブルーであるべきで、さらに混焼割合についても2030年46%削減目標に整合するレベルをルール化すべきではないか」と発言している。

このほか、「原子力についても議論を避けるな」「バイオマス燃料や合成メタンも対象に含むべき」「新制度とグリーンイノベーション基金など他の助成との重複をどう考えるのか」といった意見や、投資リスクに関する意見も出された。「どの程度、リスクの手当てができたら、投資予見性が確保できたといえるのか。事業者や資金を供給する金融機関などにヒアリングする必要がある」(曽我美紀子 西村あさひ法律事務所パートナー 弁護士)。「15年や20年におよぶ事業リスクをあらかじめすべて抽出し、排除することは不可能だ。とはいえ、天災や戦争、事業者の責に負わないサプライチェーンの途絶、さらに物価変動や税制変更など、少なくとも事業者がコントロールできないリスクに関しては、一定程度の緩和措置があるべきではないか」(電源開発の加藤氏)。

新制度導入に向けた課題は多い。だが、脱炭素に向かう今、既存火力の維持は限界を迎えつつあり、エネルギー転換は待ったなしの状況だ。経産省は、2023年4月をめどに民間が脱炭素火力に投資できるしくみを導入することで、脱炭素と電力の安定供給の両立を狙っている。

 

火力発電に関する記事はこちらから

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

エネルギーの最新記事