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省エネ推しのAvista Corporation。堅実な脱炭素戦略とは?

省エネ推しのAvista Corporation。堅実な脱炭素戦略とは?

2021年05月04日

ワシントン州発祥のAvista Corporationは、水力発電会社として1889年に誕生した。水力発電を中心とした電気と天然ガスを供給している。同社を支えるのは、深く浸透した省エネの思想だ。130年を超える歴史を背負いながらも、脱炭素に果敢に取り組んでいる。

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水力発電会社がルーツのAvista Corporation

Avista Corporationは、1889年にワシントン州のスポケーン川に水力発電所をつくったWashington Water Power(WWP・ヘッダー写真)に端を発している 。1900年初頭には、スポケーンからアイダホ州に伸びる送電線を整備した。現在は米国の国家歴史登録財であるロングレイク水力発電所も、WWPが1915年に建設したものだ。

WWPは1999年にAvista Corporationに社名変更した。「Better Energy for Life」をビジョンとして、ワシントン・アイダホ・オレゴン州にまたがる約30,000平方マイル(78,000 平方km)で電気とガスを供給している。顧客規模は電気が40万人、ガスが36.7万人だ(2021年4月現在)。


出典:Avista Corporation『Company Information

2020年12月末の電源構成は、水力49%、風力9%、バイオマス2%と、再エネが60%を占める。電力供給を2027年までに100%カーボンニュートラルに、2045年までにカーボンフリーとする目標を掲げている。


Avista Corporation『2020 Annual Report :Powering On』より 2020年12月31日時点

積極的な省エネ支援が特徴

Avista Corporationの省エネサービスは1990年代に設立された、Avista Advantageにさかのぼることができる。

当時、同じワシントン州のシアトルに本拠を置くStarbucksに対し、請求書をとりまとめるBilling Serviceと店舗の省エネサービスを提供し、Energy Service providerという事業を展開した。日本でも、2001年にはECOM-ENERGYとともに日本総合研究所(日本総研)と提携し、日本市場の進出を検討したこともあった。

ECOM-ENERGYは現在もエネルギーサービスを米国で展開しているが、一方、Avista Advantageがどのようになったのかは不明だが、省エネ支援そのものは現在のAvistaの特徴となっている。

Avista Corporationで電気やガスの販売を行う事業部門は、Avista Utilitiesという名称で展開している。ここからはAvista Utilitiesの事業について説明する。

Avista Utilitiesを特徴づけるのは、省エネに力を入れたプログラムだ。「Avista Energy Rebate Program」では、家庭や企業の省エネを促すため省エネ機器の導入補助を行っている。

例えば、ワシントン州の家庭だと年間燃料利用効率(AFUE:Annual fuel utilization efficiency)が90%以上の天然ガスボイラーなどを購入すると450ドルの補助金が支払われる。対象機器はスペースヒーターや給湯器、スマートサーモスタットなど。ユニークなところでは嵐に強い窓のリフォームも対象となる。補助額は企業や家庭、州によって異なる。

また、補助制度だけでなく、暖房の燃料をガスから電気などに転換した場合の簡単なシミュレーションができる省エネツール「Fuel Cost Comparison」をウェブサイトで公開している。Avista Utilitiesのトップページでは、省エネに取り組むためのさまざまなコツを動画などで紹介しており、さらに、Avista Marketplaceというサイトでは、直接にAvistaが運営しているわけではないが、省エネ家電のネット販売も行っているなど、省エネへの力の入れ具合が容易に想像できる。

Avista Utilitiesの料金体系

Avista Utilitiesは複数の州にまたがって電気やガスを販売しているため、料金を値上げする際には各州の公益委員会の許可を得なければならない。同社は、複数の州からの許可を得ていることを通じて、料金は適正であるとアピールしている。

ワシントン州の住宅向けの標準的な料金プラン「Residential Service」では、使用電力量に応じた3段階の従量料金単価が設定されている。

最初の800kWhまでは8.103セント/kWhで、次の700kWhまでが9.427セント/kWh、それ以上になると11.053セント/kWhと高額になる。従量料金とは別に、毎月固定のBasic Chargeが9ドル発生する。

使用電力量などによって再エネ証書(REC:Renewable Energy Certificate)を購入できるオプション「My Clean Energy」もある。My Clean Energyには、1kWhあたり1セントを追加することで排出量をオフセットできる「100% Clean Energy」と、毎月の証書購入額を固定する「Flat Dollar Options」の2プランがラインナップされている。

100% Clean Energyでは地域の再エネプロジェクトを、Flat Dollar Optionsは国家レベルの再エネプロジェクトをそれぞれサポートできる。


出典:Avista Utilities

この他にも、毎月の年間を通じて支払額を一定にするConfort Level Billingなどのサービスもあり、適切な料金、省エネの情報提供と併せて、顧客にとってのメリットを考えたサービスとなっている。

EV拡充を資金源としてコストダウン目指す

さて、再度Avista Corporationの話題に戻るが、同社は2016年から3年間にわたり「Avista Electric Vehicle Supply Equipment」というEV(電気自動車)導入拡大のためのパイロット事業を行った。同事業では乗用のEVがグリッドに与えるインパクトやコスト、便益などを検証。顧客に対しどのようにEVを普及させるかも検討され、439ヶ所のEV充電スポットを整備した。

パイロット事業は2019年6月に終了したものの、2021~2025年をターゲットとした新たな「Avista’s Transportation Electrification Plan」に昇華され、EVのさらなる拡大を目指している。この新計画のもとで、ワシントン州とアイダホ州における充電環境の拡充などに取り組む予定だ。

Avista Corporationは、EVによる輸送セクターの電化はシステムの固定費用を賄う資金源になると考えている。得られたメリットは、最終的にすべての顧客に対してコストダウンによって還元できるとしている。

同社の見込みによると、2025年には、ワシントン州とアイダホ州に6,800台以上のEVが導入される。これによって、Avista CorporationにはEV充電による210万ドルの総収入がもたらされる。充電のための発電・供給コスト50万ドルを差し引いても、160万ドルの純収入が得られると予測している。

天然ガスの排出削減目標も宣言

2021年4月22日、Avista Corporationは天然ガスによるCO2排出量の削減目標を示した。2030年までに30%、2045年までに100%としている。この目標達成に向けて、再生可能天然ガス(RNG)や水素、バイオ燃料などの技術開発へ投資を行うという。

Avista Corporationは、EVやRNGなどの革新的な分野への投資を積極的に行いながらも、基本的な省エネにも力を抜いていない。これらの両輪のどちらが欠けても脱炭素化の達成は困難だということを示しているかのようだ。

Avista Corporation

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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