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台湾の風力発電にかける期待と懸念(二)

台湾の風力発電にかける期待と懸念(二)

2019/12/24

世界的にも年間平均風速が速く、風力発電のポテンシャルが高い台湾海峡。台湾では再生可能エネルギー推進に、政府が洋上風力発電を強力に推している。大出力の洋上風力発電施設「フォルモサ」がついに竣工されたが、一方で環境問題も起こっている。台湾にとっての風力発電の期待と懸念を、JETRO・アジア経済研究所研究員で東アジアのエネルギー問題の専門家、台湾在住の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏が紹介する。

洋上風力発電所「フォルモサI」竣工

前回は台湾の風力発電の開発状況について紹介し、洋上風力の開発には多大なる期待が寄せられているが、同時に様々な課題に取り組む必要があることを紹介した。このような状況の中、2019年10月には台湾の洋上風力発電所第一号となる「フォルモサI」(中国語名:海洋風電)が遂に竣工を迎えた(竣工式は11月12日)。今回は、このフォルモサIをはじめ洋上風力発電の開発状況をさらに掘り下げていく。

「フォルモサI」の誕生によって高まる期待感

台湾の陸上風力発電は、建設地の不足や風車稼働時の騒音などが原因で建設許可が下りにくい。一方、洋上風力発電はこうした問題とは無縁で、かつ台湾海峡に高い発電ポテンシャルを持つサイトが多数存在するなど恵まれた環境にある。このため洋上風力は強力な政治指導により再生可能エネルギー開発の主流のひとつとして開発が急ピッチで進められている。

フォルモサIへの投資額の9割以上は外国資本である。出資比率はデンマークの電力会社エルステッド(Ørsted)が35%、日本の火力発電業者JERAが32.5%、オーストラリアの投資銀行マッコーリー(Macquarie Capital)が25%、台湾の風力発電施設建設業者スワンコール(Swancor Renewable)が7.5%である。

2019年10月、台湾北西部の苗栗県沖合約2kmから6kmの海域にあわせて合計22機(総発電設備容量128MW)が設置され、同年末より商業運転を開始する予定である(図)。

出所:エルステッド公式ウェブサイトより筆者作成

蔡英文総統はフォルモサIの竣工式にて、2026年から2030年の5年間で風力発電設備容量を5GWにするという現在の目標を、2035年までの10年間で10GWに引き上げると表明した。これは具体的な政策内容が明らかになっているわけではないが、来る2020年1月の大統領・国会議員選挙に向けて、国内外からの期待値を高めるためのアピールという側面もあると思われる。

フォルモサ竣工式にて。中央が蔡英文総統、右から二人目が沈栄津経済部長。出所:総統府公式ウェブサイト

買取価格に対する懸念と展望

2019年現在、台湾における洋上風力発電の固定買取価格は、20年固定の場合で約5.51台湾ドル/kWh(1台湾ドルは約3.5日本円に相当=およそ19.3円/kWh)、二段階価格の場合は10年目まで6.27台湾ドル/kWh(≒22円/kWh)、以降20年目までは4.14台湾ドル/kWh(≒14.5円/kWh)である。価格は今後徐々に下げるとされているが、現時点で欧州諸国の入札価格の2倍近い水準であり、台湾人の負担は決して小さくない。

この最大の原因は、台湾の洋上風力発電事業がまだ黎明期にあり、投資を引き出すためである。ある程度は業者に有利な条件を提示しなければならない状況なのだ。

その背景としては大きく二つが考えられる。そのひとつ目は「国産化」(二回目連載を参照)義務への対応である。行政院は、今後1、2年での協議を経て、2025年以降の洋上風力発電開発の国内生産化の審査内容や基準、諸手続きなどの策定を睨んでいるが、現在では国内のサプライチェーンはまだ十分に整備されていない。今後しばらくは開発業者の台湾国外からの調達コストがかさむことが見込まれている。

業者に有利な条件を提示しなければいけないもうひとつの理由は、将来的に価格入札制度の拡大を目指すには、まだ国内市場が小さすぎるため、競争原理が働きにくい現状になっていることである。

こうした買取価格や国内市場の問題については、フォルモサI竣工式において経済部長(日本の経済産業大臣に相当)の沈栄津氏が次の2点に言及した。

1点目は前出の「10年間10GW」について、2026年以降の10年間で入札による発電量を増やすことである。沈氏は、現段階で2025年までに稼働する洋上風力(5.5GW)の入札済み電力価格(1.66GW)は2.2~2.54台湾ドル/kWh(7.7〜8.89円/kWh)となっており、これは電気料金の国内平均単価2.6台湾ドル/kWh(9.1円/kWh)よりも低い水準であると述べた。洋上風力発電の規模が将来的に15GW(~2025年5.5GW、2026~2035年10GW)まで増加すれば発電コストも低下する見込みであり、固定買取価格や再生可能エネルギーの電気料金の低下が期待できる。この発言は、高い固定買取価格や再生エネ電気料金に対する世論の反発を意識したものと思われる。

2点目は、業者には入札資格として国内事業者に対する部品調達や工事発注など一定の国産化条件を課すこと、つまり改めて「国産化」を言及し、強調した。これは、国内外の資金と技術を集約することで、国内の開発力や市場規模を一定の水準まで成長させる狙いを明確にしたことになる。

生態・環境破壊の懸念と課題

クリーンな未来を目指す洋上風力発電だが、主に海洋生物の生態系を脅かす懸念は依然消えていない。

現在焦点となっているシナウスイロイルカなどクジラ類の保護について、各洋上風力事業者は海外の事例を参考に、「台湾クジラ類観察員」執行計画(Taiwan Cetacean Observer:TCO)などの対策を検討している。

TCOとは、施工期間中に認定を受けた観察員が当該地域を観測船で巡回し、クジラ等を発見した時点でパイル打設工事を直ちに停止するという制度である。しかし、実際には観察員には工事中断を命令する権限がなく、観察員の認定やその業務を監督する機関や工事の中断条件などは各発電所によって異なるなど、問題点は少なくない。

「台湾クジラ類観察員」(TCO)のトレーニングを受ける様子「台湾クジラ類観察員」(TCO) 出所:海洋委員会海洋保育署。

海域の生態系への影響については、施工時及び商業運転開始後の魚類や底生生物への影響を正確に把握していないことが問題の根底にある。

しかし政府はすでに2025年までの開発計画を決定してしまっていることから、今後早急に環境保護に関する取り決めを遵守するよう各発電所の事業者に指導し、海洋生物と生態への影響を長期にわたり調査研究する体制を整えることが必要である。

4回目となる次回は、洋上風力の開発にもたらされる生態・環境への影響及び今までの取組みと対策、問題点などについて、事例を通じて詳細に紹介する予定である。

鄭方婷
鄭方婷

国立台湾大学政治学部卒業。東京大学博士学位取得(法学・学術)。東京大学東洋文化研究所研究補佐を経てJETRO・アジア経済研究所。現在は国立台湾大学にて客員研究員として海外駐在している。主な著書に「重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ」(現代図書)「The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation,」(Springer)など。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/cheng_fangting.html

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