インバランス料金制度が見直され、2022年から新しい制度になる。価格が引き上げられ、上限は200円/kWhとなり、いずれは600円/kWhまで引き上げられる。この制度見直しは、新規参入の小売電気事業者にとっては大きな負担となる。だが、この新料金制度、災害時対応として2020年度途中から適用されそうになってきているのだ。
新インバランス料金制度は2022年度からだったはずだが・・・
「2022年度以降の話だと思っていたら、いつの間にか今年、2020年の話に変わっていた」 そのように感じた担当者も多いだろう。
新電力など、電気事業に携わるすべての事業者・すべての担当者がつぶさに制度変更の詳細をウォッチしているわけではないだろう。本来はそうすべきことだという理屈自体は否定しないが、リソースの限られる中小事業者にそれを求めるのは、現実には酷なことである。
冒頭の2022年、2020年というのは、インバランス料金に関する制度変更の予定年度である。元々、資源エネルギー庁の審議会である「電力・ガス基本政策小委員会」において、2021年度からインバランス料金制度を改正する方針が示されていた。
この制度詳細については、電力・ガス取引監視等委員会に設置された「制度設計専門会合」において、検討が進められてきた。この中で、インバランス料金制度のシステム開発が間に合わないとして、2021年ではなく2022年4月に新制度開始が延期された。
これに伴い、2022年3月までは、現行のインバランス料金制度を継続することが決定された。
2022年度以降のインバランス料金の算定方法
今後、別稿で詳細を報告させていただく機会があるかもしれないが、本稿でごく簡単に説明しておくと、2022年度以降のインバランス料金の算定方法のイメージは、下図のようになる。
第22回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 資料7-2 2022年度以降のインバランス料金制度について より図の縦軸であるインバランス料金単価「C」は「暫定的な措置」として、2022年度から2023年度までの2年間は200円/kWhであるが、それ以降は本来の単価である600円/kWhとすることが原則とされている。
「C」の需給逼迫時補正インバランス料金600円(暫定200円)が適用されるのは、真に需給が逼迫し、政府が需給逼迫警報を発令する予備率(3%)以下となった場合に限定される。
2022年度以降は、調整力が広域的に運用されているため、全国的に(エリア分断が無ければ北海道から九州までの9エリア全体の合計として)予備率が3%を下回る状況とは、かなりの緊急事態であることが理解できるであろう。
その緊急時に、さらに新たに供給力を1kW追加確保するには、今まだ市場に出ていない供給力を提供してもらうために、発電事業者等にとって十分に魅力的な(つまり高い)価格とする必要がある。普段は停止している発電機の緊急起動であってもよいし、需要家側リソースであるデマンドレスポンス(DR)であっても構わない。
需給バランスが崩れることによる広域的な大停電を避けるために、供給力を全国から掻き集める、節電に協力してもらう、ということが必要な状況である。
いざというときに、この600円(200円)/kWhを支払う側になる小売電気事業者から見れば、このような高額は受け入れ難いという意見もあったが、最終的にはこの制度の重要性が理解され、2022年度以降に新たなインバランス制度が開始されることが決定された。
災害時インバランス制度の前倒し導入
ところが、この話には続きがあった。災害時の対応である。
近年、2018年の北海道でのブラックアウト、2019年の台風19号など、数十年に一度と言われる規模の災害が立て続けに起こっている。 そのような災害時に、卸電力取引市場(JEPX)の取引継続/停止をどうするか、及びJEPXが停止した際のインバランス料金をどうするか、が議論されてきた。
大規模災害時には、全事業者の努力による電力の安定供給を目指し、DRや⾃家発など追加的な供給力を引き出すことが期待されている。 このためエネ庁事務局からは、災害時(具体的には、電力使用制限及び計画停電が実施されている場合)のインバランス料金については、2022年4月からの新制度の一部を先取りして、2020年4月から適用する案が示された。
この突然の前倒し案に対しては、審議会委員から賛否両論の意見があった。
「災害はいつ発生するのか分からないのだから、早く備えるべき」という賛成意見、「事業者の対応が間に合わないのではないか」という慎重意見などである。
最終的には、書面審議により開催された第23回電力・ガス基本政策小委員会において、2020年4月ではなく2020年7月開始へと若干の修正を経て、決着となった。
2020年4月9日~5月8日のパブコメを経て、今後、省令が改正される予定である。
新電力の懸念・不安
この間、エネ庁事務局が20社程度の小売電気事業者と意見交換を行った結果、あらためて事業者からは、以下のような意見・懸念事項が示された。
なおインバランス料金は、一般送配電事業者と小売電気事業者間のB to Bの制度・料金ではあるが、最終的には小売料金を通じて、需要家(一般の消費者や企業等)にも影響を及ぼすものであることに留意が必要である。
事業者から寄せられた代表的な意見の抜粋- ①高額なインバランス料金が続いた場合、その負担を小売電気料金に転嫁することや、災害時に小売供給を停止することも検討しており、こうした検討や需要家への説明に時間が掛かる。
- ②災害時のインバランス料金に備えた代替手段の検討が必要。
①に関しては、需要家、特に一般消費者は、災害時に電気料金単価が桁違いに高くなることなど、現時点ではまったく想像もしておらず、一事業者の努力だけでこれを分かりやすく説明することは非常に困難であろう。また、新電力がこの費用転嫁のための料金改定を行おうとする場合、これを嫌う消費者が、旧一般電気事業者に切り替えてしまう可能性もあろう。
また②に関しては、エネ庁事務局は、ベースロード市場や先物取引などの代替手段があると説明しているが、これら新制度の効果は現時点では未知数であるうえ、そもそもこれらはインバランス単価の高騰に対する直接的なヘッジ手段であるとは言い難い。
供給力・調整力の太宗を占める電源・発電所の大半を、旧一般電気事業者が保有している今、いざというときの備えや災害対応の環境は旧一電と新電力で大きく異なる。こうした状況での価格メカニズムを重視した新制度の導入は、多くの新電力の不安を招いている。
(Text:梅田あおば)