11月12日まで開催されていたCOP26(第26回気候変動枠組み条約締約国会議)。岸田総理は日帰りとはいえ、現地まで行き、日本の立場を表明した。この立場表明が、化石賞受賞のきっかけとなったのだが、実はこのスピーチには岸田総理自身、気付いていない落とし穴があった。隠された問題点とは何か。またアジアなどの脱炭素化に向け最大100億ドル(約1.1兆円)を拠出するという総理表明について、ゆーだいこと前田雄大が解説する。
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COP26における岸田総理の立場表明が、化石賞受賞のきっかけとなったのだが、受賞自体については、あまり気にする必要はないと前回解説した。しかし、実はスピーチには岸田総理自身、気付かれていない落とし穴がある。
今回の総理スピーチの中で、メディアが大きく取り上げたのが、アジアなどの脱炭素化支援のために新たに5年間で、最大100億ドル(1.1兆円)を拠出する、という資金コミットメントだ。この資金拠出についても、改めて取り上げざるを得ないと考えている。なぜなら、国内の経済状況などもあり、「なぜそんな支援を行う必要があるのか」という疑問の声が上がっているからだ。
そこで今回は岸田総理のスピーチがどういうものであったのか、概観した上で次の3つの論点について解説したい。
まずは、岸田総理のスピーチがどういうものであったのか、改めて振り返ってみたい。
「自分は決意を見せるためにCOPに来た」とか、「2050年カーボンニュートラルを掲げたのだ」など、世界に向けたアピール的なもの以外の要点を簡単にまとめると、次のような内容であった。
「アジアを中心に、再エネ(再生可能エネルギー)を最大限導入しながら、脱炭素社会を構築する。その際、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要だ。そのために既に表明をした向こう5年間で、官民合わせて600億ドル規模の支援に加え、新たに5年間で、最大100億ドルの追加支援を行う用意がある」
これが最も重要なスピーチの骨格だ。ここでの岸田総理は、アジアの脱炭素ではなく、ゼロエミッション化と述べている。
これは大気中のCO2を回収し、地中に埋めたり、再利用するCCUSなども視野に、「CO2を出さなければいい」というニュアンスが見て取れる。ここは気候変動に照らせば正論だ。その具体的メニューとして例示されたのが、水素・アンモニアだ。燃やしてもCO2を出さない水素・アンモニアについては、国内各社が水素供給に投資を行い、アンモニアについても日本の商社を中心にアンモニア供給の将来的な道筋が見えたことなどから、そうした企業がアジアを舞台に事業を展開できるように、という配慮が見えてくる。
メインどころがここだとして、後段では自動車のカーボンニュートラルに言及。ここはやはり欧州から仕掛けられている部分もあり、また日本の経済を考えても守らなければならない論点として言及をしてきた。具体的メニューとして例示したのは、次世代電池・モーターや水素、合成燃料。
電池分野はパナソニックなどをはじめ、全固体電池の取組みも念頭にあるだろう。モーターは日本電産などが念頭にありそうだ。水素はトヨタを筆頭に、岩谷産業、川崎重工、ENEOS、そして各種商社が念頭にあるだろう。合成燃料については航空・海運の文脈ならまだしも、車の文脈で言うとなるとやはりトヨタが念頭かと思われる。内燃機関を残すという選択を匂わせる言及をわざわざCOPでしなくてもとは思うが、この辺りが政治的なところでもある。
その上で、さらに、気候変動適応のための支援に約148億ドル、世界の森林保全のために約2.4億ドルの資金支援を行うことを表明、資金コミットメントを重ねた。
全般的なトーンは脱炭素を基調にしつつ、アジアに重きを置いたこと、そして資金コミットメントをとにかく重ねた格好になったのが、今回のスピーチの印象だ。メインの執筆は経産省、資金どころは財務省の了解をとりつつ、外務省が旗を振りながら要素を入れたのではないか。
後述するが、岸田総理は、こうしたスピーチ作成にあたっては、全体のトーンについては口にされるが、細かなところは部下を信じるタイプである。官僚が用意したものをしっかり読み上げたスピーチであろうと思われる。
ただし、このスピーチには、一見しただけではわからない問題点がある。そこで次に、岸田総理スピーチの隠された問題点を指摘したい。
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