2021年4月6日、CDPによる報告会が開催された。CDPは毎年、世界各国の大手企業を調査し、気候変動、森林保全、水環境のそれぞれの取り組みについて調査している。この日に日本報告書も公開された。スコアで最高ランクとなるAリストには313社が含まれているが、うち日本企業は66社と、国別では最多となった。
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CDPはグローバルに活動する金融機関によって設立されたNPOで、大手企業を対象に気候変動問題などの取り組みを調査し、レポートを金融機関に提供している。レポートは毎年発行しており、2020年版はグローバルで18回目、日本報告書は15回目となる。
2021年4月6日の報告会では、気候変動分野のレポート作成にあたった、ソコテック・サーティフィケーション・ジャパンとSGSジャパンが説明をおこなった。
今回、質問書に回答したのは、日本の上位500社となるJAPAN500からは327社となり、過去最高となった。これ以外にも48社が回答。情報開示からマネジメント、リーダーシップといった分野まで、十分な取り組みをおこなっているAリストにランクされた日本企業は53社となり、これも過去最高だ。
中でも花王と不二製油グループ本社は、森林保全と水セキュリティの分野でもAリストとなり、いわゆるトリプルAと評価された。
図1は、2018年から2020年にかけての全回答企業のスコア分布だが、これを見ると、年々スコアが向上していることがわかる。
図1 2020年 全回答企業2018年~2020年375社スコア分布
ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン配布資料より
また、温室効果ガスの排出削減を進めるにあたっては、世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑制するためのSBT(科学に基づく目標設定)に取り組むことが効果的だが、実際にSBTの目標を設定している企業は、認証を受けていない企業も含め、2019年の40%から2020年には46%に増加している。
その一方で課題となるのは、エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合だ。
回答があった日本企業のうち、63.2%が、再エネは0%~1%未満だと回答しており、1%以上10%未満も27.2%。10%以上が再エネとなっている企業は10%に満たないことになる(図2)。これは欧米よりもはるかに低い数値だ。今後、日本企業がAランクを目指すにあたっては、大きな課題となるだろう。
エネルギー消費量に占める再生可能エネルギー源の割合(有効回答356社)
ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン配布資料より
今回の報告会では、森林保全が大きくクローズアップされた。報告会の開会挨拶では、CDP Worldwide-Japanの森澤充世氏が、気候変動と森林の関係について強く訴えた。
森林はCO2の吸収源として期待されているが、現実には温暖化の影響による森林火災の増加や、アマゾンをはじめとする人為的な森林減少によって、CO2吸収源とはなっていない。また、森林減少の主な要因は、蓄牛が大きな割合を占めており、次いでパーム油と大豆の農地開発となっている。
世界の森林は1990年から2020年までの30年間で4%、1億7,700万haが失われている(図3)。
図3 世界の森林面積の推移
CDP フォレスト レポート 2020:日本版より
日本が海外からの輸入に依存する木材やパーム油などは森林減少の要因となっている。その一方で、日本の森林は面積こそ横ばいであるものの、健全な整備・保全に課題が残るとしている。
森林保全については、回答企業数は日本企業では47社とまだまだ少ないが、木材、パーム油、蓄牛、大豆の4つの分野で評価されている。いずれかの分野でAリストとなったのは、全世界で15社、日本では花王と不二製油グループ本社の2社である。日本の2社はパーム油の分野でAリストに入ったが、この他に木材の分野で花王と住友商事がA-リストに入った。
この他、この日は言及されなかったが、水セキュリティについては、日本企業は215社が回答、30社がAリストとなった。
報告会では、トリプルAとなった花王と不二製油グループ本社がプレゼンテーションを行った。
花王は、生産から消費までのバリューチェーンのそれぞれの段階でのCO2削減について、計画的に取り組んでいる。消費での削減まで視野に入れた事例としては、洗濯洗剤のアタックが紹介された。濃縮洗剤とし、泡切れを良くしてすすぎ回数を減らすことで、CO2排出量を32%削減したという。
不二製油グループ本社は2030年目標でCO2排出量をスコープ1(事業所)やスコープ2(電力の供給)で40%削減する他、スコープ3(原料調達、消費・廃棄段階など)でも18%削減する。また、パーム油やカカオについてはトレーサビリティ100%や児童労働ゼロに取り組む。さらに、大豆ミートなど持続可能な食にも取り組むという。
報告会の最後に、環境保全の評価に関する最近の動きについての情報が提供された。
世界資源研究所からは、土地利用と炭素除去に関する温室効果ガスの評価方法について報告された。
森林に限らず、土地の利用方法の変更によって、CO2の排出にも吸収にもなる。森林の植物体としてCO2が吸収されるというだけではなく、土壌中にも多くの炭素が含まれており、こうした点をどのようにして評価していくのか、ということだ。2021年はパイロットフェーズで評価をおこなっていくという。
ネイチャーSBTからは、これまでの気候変動に加えて、自然環境の保全に関するSBTの取り組みが動き出していることが報告された。環境問題としては、気候変動問題だけではなく、生物多様性など危機的な問題は他にもある。こうした問題についても、科学に基づく目標設定が必要であるということだ。
CDSB(Climate Disclosure Standards Board)からは、持続可能性に関する情報開示の今後の展開について報告された。
CDSBでは、これまで気候変動と水環境に関する情報開示のガイダンスを作成してきたが、現在は森林及び生物多様性、社会的課題に関するガイダンスを準備している。ESGの情報開示の合理化やサステナビリティのグローバル基準の作成を進め、IFRS(国際会計基準)にもTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が関与するような形で拡大させていくということだ。
CDSBはこうした情報開示の基準作成などに主体的に関与しており、CDPはこうした動きをサポートする関係にあるという。
今回の報告会では、日本企業に限っても、環境保全に対する情報開示と目標設定・実行という取り組みは進みつつあることが示される一方、将来に向けては気候変動にとどまらない、さまざまな環境保全、社会的な問題への取り組みとその情報開示が求められるようになっていくことが示されたといえるだろう。
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