一般家庭などに取り付けられている、低圧スマートメーターの次世代仕様については、2020年度でいったん取りまとめられた。一方、工場やビルなどに取り付けられている高圧スマートメーターについての議論はこれからだ。メーター1台あたりで扱う電力も大きなものだけに、需給調整などさまざまな面で重要なはたらきが期待される。2021年6月4日に開催された、経済産業省の第3回「スマートメーター仕様検討ワーキンググループ」についてお伝えする。
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2020年度に開催された「次世代スマートメーター制度検討会」では、主に低圧スマートメーターに関する次世代標準機能が取りまとめられた。
低圧メーターの台数は8,100万台にも上るため優先的な検討が必要とされたが、高圧・特別高圧用のメーターが軽視されてよいわけではない。
需要電力量(kWh)の比率では、高圧・特高は全需要の約63%を占めており(以下、まとめて「高圧」と呼ぶ)、高圧では元々の需要(kW)が大きいことからデマンドレスポンス(DR)等による制御可能量も大きく、アグリゲーターの視点では有望な分散リソースとなり得る。
図1.高圧・特高需要の概要
出所:電気事業連合会INFOBASE 2010
「スマートメーター仕様検討WG」(スマメ仕様WG)の第3回会合では、高圧用スマメの機能検討のほか、昨年度から積み残しとなっている幾つかの論点(Bルートの通信方式や特定計量制度用メーター)に関する検討が開始されたので、本稿ではその概要をご報告したい。
なお、昨年度に検討された次世代スマートメーター標準機能の中間取りまとめに関しては【第5回次世代スマートメーター制度検討会】をご参照願いたい。
低圧スマメに先駆けて導入された第1世代の高圧スマートメーター(需要側)は、すでに2016年度末には全数(約89万台)の設置が完了している。次世代の高圧・特高スマメを検討するにあたり、まずは現行世代の高圧スマメの機能等がどのようになっているのかを低圧スマメと比較しながら確認しておきたい。
表1.第1世代 低圧、高圧スマメの主な仕様等
出所:次世代スマートメーター制度検討会
低圧スマメにおいては、次世代では以下のような新たな機能が追加(もしくは強化)されることが予定されている。
表2.低圧スマメ 次世代による主な機能追加・強化
機能の追加・強化 | 得られる便益 | |
① | Last Gasp機能 | 停電の早期解消 |
② | 遠隔アンペア制御機能 | 計画停電の回避 |
③ | 5分値(有効・電圧・無効)の取得 | 電力損失削減、電圧等適正運用、CO2排出削減 |
④ | 有効電力15分値取得 | インバランス抑制、15分市場への対応 |
⑤ | BルートWi-Fiの搭載 | Bルート利便性の向上 |
⑥ | 特例計量器データ結合 | 特定計量制度・特例計量器の活用 |
出所:次世代スマートメーター制度検討会を基に筆者作成
スマメ仕様WG第3回会合ではこれら新機能のうち、①「Last Gasp機能」、②「遠隔アンペア機能」、③・④「有効・無効電力・電圧取得の高速化」、⑤「Bルートの通信方式」の4項目について、次世代高圧スマメへの適用の是非について検討がなされた。
以下、新たな機能・仕様ごとに、検討の状況を抜粋する。
Last Gaspとは、停電時にスマメから自発的にアラートを送信する機能である。
従来、柱上変圧器以下の低圧配電線や引込線の断線等による停電は、送配電事業者から検知することが難しかったが、Last Gasp機能によって停電の早期把握と解消が可能となる。
図2.低圧線・引込線の損傷による停電
出所:資源エネルギー庁
他方、高圧配電線の幹線ではセンサ開閉器(IT開閉器)等の設置による配電自動化システムの導入が進んでおり、電圧・電流を常時監視することにより幹線の断線(停電の発生)を速やかに検知することが可能となっている。
このため、すべての高圧需要家がスマメのLast Gasp機能を求めるとは限らないため、需要家の形態に応じた費用便益評価により、採用の是非が判断される予定である。
図3.配電自動化システムによる断線の検知
出所:次世代スマメ制度検討会・東電PG
東日本大震災の発生後、大きな電力需給ギャップを埋めるために2週間にわたる計画停電が実施された。
スマメを遠隔制御することにより、低圧需要家が使用可能なアンペア数を例えば一律に10Aに下げるならば、負担の大きな計画停電をおこなわずとも、面的に需要を抑制することが可能となる。低圧スマメでは最も便益が期待される新機能であり、高圧スマメについてもその可否が検討されているものの、技術的なボトルネックが存在する。
配電系統から需要家建屋内の分電盤に直列接続される低圧スマメと異なり、特高・高圧メーターは並列接続となっており、その構造上、負荷開閉機能や負荷制限機能をメーター内に具備することが出来ない。このため高圧スマメでは、遠隔アンペア制御機能の搭載は困難であることが報告されている。
このため大規模な需給逼迫発生時において高圧需要家に対しては、従来型の節電要請や、事前契約によるデマンドレスポンス(DR)の発動などが有効と考えられている。
なお、この報告は2020年度の中間取りまとめ結論にも影響を及ぼすと考えられる。
中間取りまとめでは、遠隔アンペア制御による計画停電回避の便益は1,350億円~1,500億円(10年間)と試算されていた。これには高圧需要家による便益430億円~490億円も含まれている。
もし遠隔アンペア制御が可能となるのが低圧需要家だけであれば、計画停電回避の便益は920億円~1,050億円へと小さくなってしまうことを、再度評価すべきではないだろうか。
低圧スマメでは、5分ごとの有効・無効電力量・電圧を取得することによる配電系統の運用高度化や再エネ導入拡大の便益が大きいことが確認されている。
上述のように、高圧・特高は全需要の6割以上を占めることから、高圧スマメでもデータ取得の粒度・頻度を上げることは有益であると考えられる。
また仮に高圧ではLast Gasp機能が採用されなかった場合、高圧スマメから5分値を取得することにより、停電個所の早期把握にも役立つ可能性がある。
また小売電気事業者やアグリゲーターからは、インバランス抑制やDRリソース有効活用の観点から、有効電力量Cルート経由データ提供の高速化(10分以内等)が要望されている。
低圧スマメでは、膨大なメーター数(8,100万台)による通信負荷の大きさが、全数データ提供の高速化が見送られた理由であるため、台数の少ない高圧スマメであれば、実現可能性があると期待される。
高圧需要家は敷地面積が広いことが多いものの、現行世代の高圧スマメのBルートの通信形式は有線(Ethernet)方式のみとなっている。
このためメーターとゲートウェイの距離が離れている場合には、多大なコストを掛けた工事が必要となるため、現実的にはBルートでスマメデータにアクセスできない事例が多発している。このため今年度のスマメ仕様WGでは無線方式の追加、もしくは無線機器へ電力供給が可能な有線規格(Single Pair Ethernet)の採用を検討することとしている。
高圧スマメに関する議題は、一旦以上である。
現行世代低圧スマメのBルート通信方式としては、920MHz帯無線通信(Wi-Sun方式)と有線のPLCが採用されている。
最近ではエアコンなどECHONET Liteに対応する機器も増加しつつあるが、一般家庭でのHEMS導入率は2%程度(約150万世帯)に留まっている。低圧Bルートの申込件数は、2019年度末までの累計でわずか約34,000件(スマメ導入台数に対する申込率は約0.06%)であり、Bルートはまだほとんど活用されていないと言える。
この低迷を打開するために、普及率の高いWi-Fi方式を低圧スマメにも採用することが検討されている。これによりHEMSの利便性が改善され、家庭での省エネが進展するなどの便益が期待されている。
しかしながら昨年度の次世代スマメ検討会では、想定される費用(800億円~2,400億円)と便益(970億円~1,940億円)がほぼ同水準であることや、他の新機能と比較して追加費用総額が大きいことから、Wi-Fiの採用については継続検討と位置付けられていた(わずかな一部の需要家のために、800億円~2,400億円を投じるのか? という疑問)。
スマメ仕様WGでは、Wi-Fiのうち周波数帯2.4GHzを主な検討対象としており、技術面での比較は表3のとおりである。
表3.Wi-SunとWi-Fi(2.4GHz)の比較
Wi-Sun | Wi-Fi(2.4GHz) | |
通信距離 | 〇 1km程度 | △ 数百m程度 |
回り込み特性 | 良い | 悪い |
通信速度 | 〇 100kbps | ◎ 600Mbps |
消費電力 | ○ 20mA | △ 300mA |
電波干渉 | 少ない | 多い(電子レンジ等) |
出所:次世代スマメ制度検討会を基に筆者作成
Wi-Fi(2.4GHz)には、電子レンジやコードレスホン等との干渉や、通信距離・回り込み特性の弱点があるため、スマメ仕様WGでは今後、様々な需要場所を想定した実証試験をおこなう予定である。
またWi-Fiは対応デバイスの流通量が多い通信方式であるため、スマメに採用する際にはサイバーセキュリティリスクについても検証が必要となる。
なおサイバーセキュリティに関しては、2021年5月に「次世代スマートメーターセキュリティ検討ワーキンググループ」が設置され、
等の課題について、検討が開始されたところである。
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