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次世代スマートメーター標準機能 中間取りまとめ 第5回「次世代スマートメーター制度検討会」

次世代スマートメーター標準機能 中間取りまとめ 第5回「次世代スマートメーター制度検討会」

2021年04月05日

次世代スマートメーター(スマメ)が備えるべき機能やそこから得られる便益、費用等について別稿にて何度かお伝えしてきたが、2021年2月18日に開催された経済産業省の「次世代スマートメーター制度検討会」の第5回会合において、今年度の検討結果である「中間取りまとめ」が公表された。一部で費用算定の見直しや仕様の変更も生じているため、その検討結果もご報告したい。

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次世代スマメ導入コストの再算定結果

一般送配電事業者からはすでに次世代スマメ導入コストの概算が示されていたが、第5回会合では、前回試算に含まれていなかった通信事業者回線費用や通信部追加取替費用、費用精査を織り込んだ、より詳細な算定結果が示された。

図1.次世代スマメ導入コストの再算定結果

次世代スマメ導入コストの再算定結果
出所:一般送配電事業者

図1の左端の9,618億円に、通信事業者回線費用:1,533億円や通信部追加取替費用:1,022億円を加えた(a)の12,173億円が、有効電力量30分値を60分以内に送信する現行世代(第一世代)と同じ仕様で更新するケースの費用であり、ここが発射台となる。

以下、次世代(第二世代)スマメで新たに導入する機能・仕様に伴う具体的なコストアップについて、新機能導入是非の議論と並びご紹介したい。

新機能① 有効電力量15分値化

現行のスマメでは、有効電力量を30分ごとに計測し、30分ごとに送信しており、この計測粒度30分という仕様は現在の電力卸取引等の取引単位(コマ)に対応した粒度である。

将来的には卸取引や需給調整市場等の取引単位が15分粒度に変更される可能性もあるが、現時点では具体的な方向性等は示されていないため、15分値化による便益を見込むことができないという問題が生じている。

このため事務局からは、現時点存在しない15分市場へ予め備えておくため、段階的な対応をおこなう案が示されている。

図2.15分値化対応範囲の違いによるコストの違い

15分値化対応範囲の違いによるコストの違い
出所:次世代スマメ制度検討会

図2のケース①は、15分値をメーター内に保存するのみという案であり、この場合の追加費用はメモリ増強に伴う163億円と算定されている。費用は最小であるが、メーター内に保存するだけでは便益もゼロである。

ケース②は、その15分値を一般送配電事業者のMDMS(メーターデータ管理システム)まで送信する案であり、託送システムの更新が必要となるため2,846億円のコストが発生する。

ケース③は、②に加えて60分以内に15分値をCルート経由で小売電気事業者へ提供するフルセットの案であり、費用は3,174億円と算定されている。

15分市場化が不透明な中、どのような判断基準に基づき、いずれのケースを選択することが適切であろうか。事務局からは、「後悔値最小法」による分析が示されている。

表1.後悔値最小法による分析結果

後悔値最小法による分析結果
出所:次世代スマメ制度検討会

後悔値最小法」とは、将来のシナリオに確率を付けることが困難な場合等に意思決定に使用される分析方法であり、各シナリオが実現した場合の結果の差分を「後悔値」と捉え、最も「後悔値」の少ない選択肢を選択する手法である。

試算では15分市場化される可能性は1/3程度と仮定し、「15分市場化あり」の期待値に重みづけ(×1/2)した場合、ケース①の後悔値が最小となる結果が得られた。

よって次世代スマメの標準機能としてはスマメ内に15分値を保存するケース①が選定され、将来15分市場が開始される際には、ソフトウェア(スイッチ)変更により送信データを切り替える機能を持つことが示された。

筆者としては、15分市場化される可能性を、ベースとなる1/3から上下変動させるなどの感度分析もおこなうべきではないかと考えている。

新機能② 5分値(有効電力量・電圧値・無効電力量)の取得

一般送配電事業者が有効電力量・電圧値や無効電力量を高粒度で取得することが可能となれば、電力損失削減のほか、電圧適正運用による再エネ導入量の増加、それらによるCO2排出量削減等の便益が期待される。

仮にスマメ全数からこのような高粒度データを送信するならば対応コストは膨大なものとなるが、高粒度データにより配電系統等の情報を把握するためには10%程度のメーター数からデータを収集すれば、目的を達成することが可能と考えられている。

よって次世代スマメ本体の標準機能としては、スマメ内に有効・無効電力量・電圧の5分値を取得・保存することを定めたうえで、通信・システム側の処理能力としては、ヒストリカルデータとして数日以内に5分値を送信するメーター数を10%程度以上とすることや、リアルタイムデータとして10分以内に送信・取得するメーター数を3%程度以上とすることを求めている。

なお今後、太陽光発電やEV等の導入拡大により電圧管理ニーズが増加すると想定されるほか、第三者による高粒度電力データを活用したいというニーズが増加することが予想される。このため、5分値を取得できる対象スマメ(つまり需要家)を事後的に変更するなど、柔軟な対応が可能な設計仕様とすることが提案されている。

また2022年度から新たに「配電事業」制度が開始されるが、新規参入する配電事業者にとって参入予定地域の過去の電力データを入手することは不可欠であると考えられる。

このため少なくとも過去3年分の30分有効電力量や有効・無効電力量・電圧の5分値を提供するために、一般送配電事業者はこれらデータをサーバー上に少なくとも3年以上は保存することが求められる。

新機能③ Last Gasp機能

Last Gaspとは停電時にスマメから自発的にアラートを送信する機能であり、停電箇所を早期に発見し復旧させることが可能となる。

前回の事務局試算と比べ、一般送配電事業者による再算定において最も大きなコストアップ要因となったのが、このLast Gasp機能である。

停電後にアラートを送信するため、通常の電池ではなくスーパーキャパシタを搭載することにより1,521億円のコストが発生すると想定されており、これは次世代スマメの新機能のうち、単独では最大のコストアップ要因となる(現行仕様からの変更による増額の半分を占める)ため、慎重な検討が求められるはずである。

すでに第4回スマメ検討会では、Last Gasp機能による便益(10年間)は660~1,100億円と試算されていたため、このままでは費用対効果が無いと判断され得る。

そこで事務局はLast Gasp機能を導入済みの米国事例を参考に、送配電事業者の出向費用が260~400億円削減できると見込み、便益の上積みを図っている(合計便益は920~1,500億円に増加)。

しかしながら一般送配電事業者委員からは、日本では実務面の違いからこの費用削減効果が得られないことが明言されており、事務局説明の妥当性が疑われる。

すでにエネ庁資料では「標準機能として採用することが適当」と記されているが、託送料金を負担する事業者や需要家と丁寧なコミュニケーションを取るべきと考えられる。

なお現行世代スマメでも上位システムからのポーリング(照会)により、スマメの死活状況を確認することにより停電の早期解消は可能である。本来、費用便益評価を比較すべき対象は、「ポーリング方式とLast Gasp機能」の比較であると考えられる。

新機能④ スマメの表示・取得桁数

現在のスマメによる「表示」桁数は6桁である。これは有効電力量の「取得」が6桁であることに対応した結果である。

次世代スマメにおいて計量粒度を5分値等に細分化した場合、直前の計量値との差が小さくなるため、有効電力量取得が6桁のままでは正確に計量できないことが課題である(5分後、10分後もゼロのまま、ということが起こり得る)。

このため次世代スマメではデータ取得桁数を増やし、8桁とすることが提案されている。

図3.メーターの表示桁数の追加の必要性

メーターの表示桁数の追加の必要性
出所:次世代スマメ制度検討会

有効電力量30分値については8桁化が必須というわけではないが、5分値に合わせて8桁取得とすることとした。

他方、小売電気事業者に提供するCルートデータ(確定使用量・同時同量支援データ)については、仮に8桁を採用した場合、料金計算等に使用する小売電気事業者のシステム改修も必要となるため、当面の間は託送支援システムにて6桁へと加工し提供される。

図4.スマメからAルート・Cルートへの計量値の流れ


出所:次世代スマメ制度検討会を基に筆者アレンジ

また仮に計量値取得8桁化に合わせて表示桁数も8桁化した場合、計量表示値の更新速度が速すぎて最小桁の値が視認できなくなるおそれがある。

このため、表示機構そのものは桁数を現行の6桁から増加させず、サイクリック表示により検針値を数秒間、表示機構に保持し視認性を確保する方式が提案されている。

今後のスケジュール

今回の中間取りまとめにより次世代スマメの標準機能概要は決定されたが、これから2024年度の導入に向けて一般送配電事業者等による詳細仕様検討(約1年)およびメーカーによる製品開発(約2年)がおこなわれる。

今年度の積み残し課題となっているWi-Fiの搭載(見積額1,385億円)の是非や特例計量器データの取扱い等の論点については、2021年度上期中の概要仕様決定を目指して検討が継続される。

なおスマメのサイバーセキュリティ対策を検討するため、新たなワーキンググループが設置されることとなった。

第二世代スマメは2024年から2043年頃まで運用が継続されると想定される(最終設置年度+10年)。2034年頃から導入が開始される第三世代スマメへの円滑なマイグレーションにも配慮しながら、いずれの機能についても「後悔値」が最小になるような慎重な検討がおこなわれることを期待したい。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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