日本銀行は7月の金融政策決定会合で環境オペを発表する予定だ。発表を前に、日銀が環境オペを行う背景、今後の影響などについて分析が進んでいる。
目次[非表示]
日本銀行は7月15日・16日の金融政策決定会合で、気候変動に対応する新たな資金供給オペである環境オペ(グリーンオペとも)を発表する予定だ。
6月18日の記者会見で、日本銀行の黒田東彦総裁は「気候変動問題への対応は、国際的な関心が高まる中で日本政府も2050年カーボンニュートラルの実現を掲げている。目標に向けた政策対応は基本的には政府・国会の役割だが、気候変動への対応は、中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼし得ると考えている」と述べた。
さらに「日本銀行としては、中央銀行の立場から、民間金融機関による気候変動への対応を支援し、長い目でみたマクロ経済の安定に貢献することは、「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」ものであると考えている。こうした認識のもと、今般、日本銀行では、金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応の投融資をバックファイナンスする新たな資金供給制度を導入することにした」と述べている。
急拡大するグリーンボンドについては、現在の日銀の社債買い入れに関してもグリーンボンドであるかないかに関わらず買い入れを行っており、また、グリーンボンドの基準もまだ平準化していないことから、グリーンボンドの支援よりも、より効果的で規模の大きい金融機関による(気候変動関連の)投融資をバックオフィスする形にするとのことだ。
(EUの)タクソノミー(投融資に的確な産業・業種の分類、定義)もまだ合意できていないが、外部環境が変わることも踏まえ、弾力的に対応すること、さらに外部環境がすべて整うまで何もしないということを避けるためにも、今回の環境オペに踏み切るという。
今回の環境オペに関してはいくつかの点が指摘されている。
まず、金融機関が気候変動対応の投融資をさらに拡大するとともに、それによって情報開示のインセンティブが期待できること。特に中小企業にまで気候変動の情報開示を広めることができるのではないかといわれる。また、今年3月に創設された貸出促進付利制度の導入も予想されており、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペの一部に適用されている最も高い0.2%と同等か、0.1%の付利になるとの報道も一部にある。
負の影響も議論されている。上述のインセンティブとは反対に、情報開示するまでの余裕がない企業への融資縮小が懸念されている。また、中央銀行と政治との境界線があいまいになり、独立性が損なわれることを懸念する声もある。あくまで気候変動対応の投融資は民間が自発的に行うべきだというものだ。
さらに、気候変動対応は長期的な対応が求められるため、今後の景気に左右され、量的緩和の動向に影響されることや、企業の気候変動対策は融資ではなく投資であるべきという指摘もある。
今回の日本銀行の「環境オペの7月骨子発表、年内にも実施」という対応は、気候変動対策に熱心な欧州中央銀行(ECB)や米国連邦準備制度理事会(FRB)よりも早い。
欧州中央銀行は2021年、2022年に気候変動リスクを考慮したストレステストをおこなうと発表。イングランド銀行も同じく2021年、2022年のストレステストをおこなうとしている。ほかには気候変動対応を考慮した社債、いわゆるグリーンボンドを購入するなどの対応が見られる。どちらも「金融システムの安定化のため」に、今まで例のなかった気候変動問題への対応に、慎重にリスクシナリオを用意し、テストをおこなう構えだ。このストレステストには、産業構造の変化やエネルギー需要の変化のリスクも組み込まれる。
米国連邦準備制度理事会はバイデン政権発足とともに対応を始めたが、気候変動リスクに対する研究などをおこなう監督・気候委員会(SCC)や金融安定気候委員会(FSCC)を設置する方針を出している段階だ。FRBのパウエル議長は、気候変動問題は金融政策で直接的に考慮すべきではないと慎重姿勢だといわれる。
今後、どのように欧米が金融への追加支援をしてくるかはいまの時点では不明だが、現在のところ、日本銀行とは少々アプローチが異なることは確かなようだ。
だが、欧米のリスク分析が進むとともに追い上げがあることも十分予想できる。というのも、世界各国の中央銀行・金融監督当局のネットワークである「気候変動リスクなどに係る金融当局ネットワーク(NGFS、Network for Greening the Financial System)」の動きと各国中央銀行の方向性は連動しているからだ。
NGFSは2017年に発足。金融セクターにおける環境・気候変動リスクの管理・発展に貢献する。2021年6月の段階で世界の91の中央銀行・監督機関、14のオブザーバーが参加している。もちろん日本も参加しており(金融庁が2018年6月、日本銀行は2019年11月)、米国はバイデン政権への交代があった2020年12月に加わった。中国人民銀行も参加している。
NGFSウェブサイト
そのNGFSは、今年6月に気候シナリオの第2版を発表した。各国の最新のネット・ゼロ・エミッションを反映させたものになる。
NGFSの気候シナリオ分析では、2050年に世界全体でのネット・ゼロを実現するためには、経済のすべてのセクターで野心的な移行が必要になることがわかっている。特に、2050年までにバイオマスを含む再生可能エネルギーが世界の一次エネルギー需要の70%を供給するためには、クリーンエネルギーと土地の利用に大きな変化とそこへの投資が必要だとしている。
さらに、2050年ネット・ゼロへの秩序ある移行のためには今後10年間で160ドル/トンCO2ものシャドープライス(内部カーボンプライスのひとつ)に相当する政策措置が必要であるという。
NGFSはこのような変化が秩序立って行われれば世界のGDPは増加し、さらに失業率も低下する可能性があるとしている。一方で、無秩序に変化がおこなわれ、意味のある行動が遅れれば、シナリオによれば今世紀末までに世界のGDPの13%が危険にさらされ、さらに深刻な気候危機が訪れるだろうとしている。
気候変動の最新記事