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太陽光関連事業者に淘汰の波 FIP移行でさらなる縮小か、それともオフサイトPPAの起爆剤となるか

2022年02月24日

今春からはじまるFIP制度は儲かるのか?

2020年10月のグリーン成長戦略で国家としてのエネルギー政策の大転換がおこなわれ、2021年7月のエネルギー基本計画では2030年の再エネ構成比率が従来の22〜24%から36〜38%へと引き上げられた。カーボンニュートラルを実現する2050年には、太陽光発電と風力発電の構成比率は65〜72%にまで大幅拡大する見込みだ。

太陽光発電は間違いなく、国家戦略の中で未来の主力電源に位置づけられている。

一方で、再エネの普及拡大に伴い家庭などが負担する賦課金も年々上昇、その負担額は標準的な家庭ですでに年間1万円を超えている。今後もさらなる負担増が見込まれる中、再エネ拡大と国民負担の抑制を狙って、1,000kW以上の太陽光発電は2022年4月から、固定価格ではなく、電力の市場価格に一定のプレミアムを上乗せしたFIP制度に移行する。

FITのもとでは、どの時間帯に発電しても常に固定価格での収入が得られるが、FIPは日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格に連動するため収入が変動する。そこで、市場価格に一定のプレミアムを上乗せすることで、FITと同程度の収入を確保しようという制度だ。需給ひっ迫などで市場価格が高騰したときに発電すれば、追加収益が期待できる。

また、これまでは発電事業者のすべての収入をFITでまかなってきたが、FIPのもとでは、JEPX市場への売電収入があるため、国民負担は一定額のプレミアムで済む。社会コスト全体の抑制にもつながるというわけだ。

とはいえ、市場価格に連動するFIPのもとでは、どうしても月ごとの収益が変動してしまう。そのため、金融機関などからはファイナンスの組成が難しいとの指摘が絶えない。何よりFIPは複雑すぎるとの声もある。

経済産業省はFIPに対する理解促進に向け、収益がいくらになるのか。2月上旬、資源エネルギー庁のホームページ上にシミュレーションツールを公表した。

たとえば非現実的だが1ヶ月の発電量を1kWhと仮定し、基準価格(FIT調達価格に相当)10円/kWhという電源があった場合、FITであれば24ヶ月発電すると収益は240円になる。これがFIPになると、市場価格に応じた収益に変わる。FITのときから発電パターンをまったく変動させなかった場合、その収益は240円。FIT並み、あるいはFITより収益が減る可能性はあるものの、一定のタイムシフトをすると300円など、FITよりも大きな収益を得られるチャンスがあるという。

FITとFIPの2年間期待収益の単純比較

 基準価格10円/kWh基準価格20円/kWh基準価格30円/kWh
FIT240480720
FIP(市場価格変動)240~267.9480~507.9720~747.9
FIP(市場価格下落)248~275.9480~507.9720~747.9
FIP(市場価格高騰)276~303.9479.3~507.2699.3~727.2

※ FIPの期待収入はFITから発電パターンを全く変動させなかったケースと一定のタイムシフトをさせたケースの値を記載。 タイムシフトの方法について創意工夫を行った場合上記以上の収益を獲得することも可能。
※ 本シミュレーションはバランシングコスト、非化石価値取引、プロファイリングリスク等を勘案していない簡易シミュレーション値であることに留意。
出典:経済産業省

どういうことなのか?

下の表はJEPXの2021年度の平均市場価格をプロットしたものだ。月別では11.58円/kWh、日別で14.3円/kWh、日中でも9.29円/kWhの価格差があり、昼間は安くなり、夕方以降高くなる傾向が色濃い。

2021年度月別平均市場価格推移


出典:経済産業省「FIP 制度の開始に向けて」をもとに編集部作成

2021年12月 日別平均市場価格推移


出典:経済産業省「FIP 制度の開始に向けて」をもとに編集部作成

2021年度 日中平均市場価格


※2021年度の各コマの平均市場価格の平均値を元にしたプライスカーブ
出典:経済産業省「FIP 制度の開始に向けて」をもとに編集部作成

こうした市場価格の変動を見越したうえで、たとえば、FIT調達価格30円/kWhの貯水式水力発電があった場合、お昼11時から14時までは水を貯めておき、17時から20時に全部放出するという運用をすると、ある年の4月の市場収入は8円、プレミアム収入22円、タイムシフト1.2円がプラスされることで、単月の収入が31.2円になる。この運用を2年間続けると合計収入が727.2円と、タイムシフトにより収益が27.9円増える。

簡易的なタイムシフトシミュレーション(基準価格30円/kWh)

 N年度合計年度平均
市場単価
4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
市場収入8.08.08.08.08.08.08.08.030.030.08.08.0140.011.67
プレミアム収入22.022.022.022.022.022.022.022.00.00.022.022.0220.0
タイムシフト収入1.21.21.21.21.21.21.21.21.21.21.21.213.9
単月合計31.231.231.231.231.231.231.231.231.231.231.231.2373.9

※モバイルの場合この表は左右にスクロールします

 N+1年度合計年度平均
市場単価
4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
市場収入8.08.08.08.08.08.08.08.08.08.08.08.096.08.0
プレミアム収入18.318.318.318.318.318.318.318.3303018.318.3243.3
タイムシフト収入1.21.21.21.21.21.21.21.21.21.21.21.213.9
単月合計27.527.527.527.527.527.527.527.539.239.227.527.5353.3

※モバイルの場合この表は左右にスクロールします

2年間合計収益 727.2円(タイムシフトによる収益が27.9円)
※ 2021年年4月1日~2022年2月7日のシステムプライスの全48コマごとの平均価格のうち価格下位6コマ(3時間)から上位6コマ(3時間)へシフトした際の価格差を使用。1日シフトをおこなったときの1kWhあたりの収益は平均価格差(11時~14時)17.72円/kWhー平均価格差(17時~20時)8.44円/kWh=9.29円/kWh
※ 1ヶ月あたり1kWhの取引量に補正すると1.16円(=9.29円/kWh×3時間÷24時間)
※ バランシングコスト、非化石価値は勘案していない。
※ タイムシフトの方法は貯水式の水力発電など電源特性によって様々な手段が考えられる。例えば蓄電池を設置することも考えられるが、その際は蓄電池を設置するコストがかかる 点とピークシフト以外の活用法からコスト回収をはかっていくことが考えられる点に留意。
出典:経済産業省

タイムシフト=収益拡大の後押しに向け、事後的な蓄電池の併設を可能に

昼間、電気が余る時間帯に出力を減らし、夕方電気が足りないときに出力を増やすことができれば、発電事業者の収益も増えるし、せっかく発電した再エネを無駄なく使うことができる。

またFITだと場合によっては無制限無補償といった出力制御を受ける場合があるが、FIPのもとでは、こうした時間帯のプレミアムは、別の時間帯に割り振る調整がおこなわれる。

何もしなくてもFIPのもとでは、出力制御が発生し市場価格が0.01円になる時間帯でも収益を獲得できるし、タイムシフトをするとさらにその収益を大きくすることができる。さらに初期段階においては、電力の供給量と需要量を一致させるバランシングコストをプレミアムで追加的に手当てする。早くFIPに移行すればするほど、大きなバランシングコストを制度の中でも付与する仕組みになっている。

FIP制度のバランシングコストについて


出典:経済産業省「FIP 制度の開始に向けて」をもとに編集部作成

経産省ではタイムシフト=収益拡大に向けて、新規のFIP案件に関しては、基準価格(FITの調達価格)の変更なしに事後的な蓄電池の併設を認める方針だ。

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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