前回は、気候変動やデジタル化などによって社会が大きく変化する中、いかに未来予測とシナリオプランニングを進めていくかについて解説した。社会が大きな転換点にさしかかる中、企業にとって未来予測はこれまで以上に重要なものとなっている。今回は、現在の社会の転換期の本質とはなにか、そして企業にはどのような対応が求められるのかについて、立命館大学経営管理研究科(MBA)客員教授でエムケー・アンド・アソシエイツ代表の河瀬誠氏が解説する。
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およそ4,000年前、農業革命が起こり、ここから世界は「農業社会」に入りました。
そして、およそ200年前には産業革命が起こり、世界は「工業社会」に移りました。
まずは第一次の産業革命では、石炭というエネルギーが利用可能となり、蒸気機関が発明され、工場の動力エネルギーとして利用され、鉄鋼や鉄道といった産業が登場します。
工業社会はさらに進み、100年前の第2次産業革命では、石油が主役のエネルギーとして登場しました。そして、電気が工場を動かし始め、自動車という巨大産業が登場しました。さらに50年前には第3次産業革命が起こり、テレビや半導体といったエレクトロニクス産業が台頭しました。この産業革命に応じて、通信手段も、手紙と電信から、電話や無線、さらには映像放送へと進化してきました。
この工業社会において、価値あるものは工業製品でした。この時代の競争力の源泉とは、モノづくりに関する技術力、巨大な工場、豊富な労働力、そして工場建設などの資金を提供する財力でした。
現在は、工業社会から「知識社会」への移行が進んでいます。鍵となるのがデジタル(情報通信技術)の飛躍的進化と、新しいエネルギーです。
農業革命、産業革命は、ともに情報通信技術とエネルギーの変化が、産業の変化を後押ししたのです。今回の「知識社会」への移行も同じことがおこります。
今回の知識社会の移行でも、デジタル化に伴う産業の転換(デジタル・トランスフォーメーション)と自然エネルギーの発展が、その鍵になります。
知識社会においては、工業社会での成功体験はもう通用しません。新たな仕組みへの転換が必要になっています。
デジタルへの転換(デジタル・トランスフォーメーション)は、予想外に早く訪れるはずです。
なぜなら、デジタル化のベースとなるのが情報通信技術の進歩であり、その進歩はムーアの法則が支配しているからです。18ヶ月ごとに集積回路のトランジスタの数が2倍になっていく、というムーアの法則は、半導体産業の登場以後ずっと続いています。
このスピードをわかりやすく言うと、5年で10倍の性能進化です。そして、10年経つと20倍ではなくて、10*10の100倍、15年経つと10*10*10で1,000倍の勢いで、技術が進化していくのです。
デジタル化はこうした指数関数的なスピードで進んでいきます。デジタル・トランスフォーメーションが起きたメディアや小売りの業界では、ビジネスの仕組みがデジタルで動きはじめ、ネットフリックスやアマゾンといった会社が業界トップになっています。
グリーン化(GX)も同じようなスピードで変化していくでしょう。太陽光発電パネルも、専門家の予測を超える、大変な速さで安価になってきています。こうした変化が、エネルギー産業を大きく転換していくのです。
携帯電話の市場予測
太陽光パネルの市場予測
デジタル化とグリーン化で共通していることは、いずれも「破壊的技術」がドライブしているということです。そのことによって、産業構造が大きく変化し、適応できなければ大企業であっても生き残ることができなくなっているということです。
破壊的技術とは、例えば、フィルムカメラに対するデジタルカメラが相当します。デジタルカメラが最初に登場したときは、オモチャのようなものでした。巨大な機械の割に解像度は非常に低く、フィルムカメラの敵ではありませんでした。しかし、デジタルカメラは圧倒的なスピードで進化し、フィルムカメラはこれに追いつくことはできませんでした。
高い利益率を誇り、盤石に見えた写真フィルムという事業も、デジタルの流れに対応することはできず、現在ではほぼ消滅してしまいました。フィルムのような従来の技術をベースにして事業を継続しようとする限り、まじめに従来技術を開発すればするほど転換できなくなり、かえって滅亡の時期を早めてしまいます。
エネルギー産業でこれから起きることも、「グリーン・テクノロジー」という破壊的技術による既存産業の破壊です。
例えば、太陽光発電が登場したころ、オモチャのような存在で、信号機や夜間照明にしか使いみちのないものでした。
しかし、太陽光発電の技術は、みるみるうちに進化し、現在そして将来には主力電源として地位を確立することでしょう。破壊的技術である太陽光パネルが急激に安価になることで、電力システム、そして電力産業に大きな変化が起こるのです。
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