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中国のNEV戦略 中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望(3)

中国のNEV戦略 中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望(3)

2020/05/21

中国における燃料電池車の推進政策は、決して最近のものではなく、エネルギー政策の中で段階的に進んできた。中国政府はどのようなロードマップを描いているのか。その将来像はどうなっているのか。デジタルリサーチの遠藤雅樹氏が解説するシリーズ第3回。今回は「中国のNEV戦略」の概観と将来像について詳しくみていく。

2020年NEV500万台というコミットメント

中国政府は国内自動車製造業の育成に関して、外資出資比率の制限(50%以下)と外資出資社数(2社以内)の制限を設けたうえで、合弁会社を通して海外自動車メーカーの技術を導入する方針を採用したことは周知の事実である*1

その結果、VW(フォルクスワーゲン)、GM(ゼネラルモーターズ)、現代自動車、日産自動車をはじめとする世界の主要メーカーが中国に進出して、合弁企業を通した海外ブランド優位の自動車市場が形成された。エンジンなど主要部品もその多くを海外メーカーの技術に依存している。一方で中国の地場自動車メーカーや部品メーカーの基礎技術も飛躍的に向上した。

中国政府は国内製造業の自立を目指す産業政策「中国製造2025」(2015年5月)で、自動車産業を柱とする製造業全体の構造転換を表明、その牽引役として新エネルギー自動車(NEV*)分野での自主ブランド製品のシェアを、2025年には80%に引き上げる方針を示したうえで、2020年のNEVの普及台数目標を500万台としている。

背景にあるのはNEVを国家の成長戦略とした2012年の「省エネルギーおよび新エネルギー自動車産業発展計画(2012-2020)」だ。その具体的な政策目標として「十三五国家戦略性新興産業発展計画」(2016年12月)のなかで、「2020年までにNEVを500万台普及させる」という目標が打ち出された。この政策により中国は2018年段階でEV・PHV合わせて127万台を販売する世界最大のNEV市場を現出させた。「2020年にNEV500万台」というのは中国政府のコミットメントであったわけだ。

  • *1:中国政府は、2020年に商用車製造の外資出資比率の制限を、2022年に乗用車製造の外資出資比率の制限、および外資出資合弁企業の設立数の制限の取り消しを決定している。
  • *2:NEV:実質的に、電気自動車=EVとプラグインハイブリッド自動車=PHVの総称。燃料電池車=FCVも含まれるが、そのシェアはわずか。

NEVの急拡大を可能にした政策とは?

中国でNEVの急拡大がなぜ可能であったのか? 中国政府のとった政策には、(1)NEVの技術開発支援、(2)公共部門での率先したNEV導入、(3)補助金やナンバープレート規制による需要喚起、という3つの柱がある。

(1)NEVの技術開発支援から解説していく。中国政府がNEVの技術開発に多額の補助金を出したことで、新規参入企業が続々と誕生し、そのことが中国自動車メーカーの技術水準を底上げした。NEVを製造販売している自動車メーカーは、比亜迪(BYD)、北汽新能源、奇瑞汽車など地場資本の独自ブランドメーカーが大半を占め、またバッテリーメーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)を世界有数の二次電池メーカーに押し上げる力になったのも政府のNEV政策であり、NEV産業と二次電池産業という巨大産業が生まれることになった。
ただ、この支援策に問題がなかったわけではない。その反省がFCV開発の支援策に反映されることになる(次回で紹介予定)。

(2)公共部門で率先してNEVを導入しはじめたのは、2009年の「公共サービス分野における普及モデル事業」からになる。北京、上海、大連など13の主要都市の公共部門に年間1,000台のNEVを導入するという、いわゆる「十城千両」といわれた政策において、最終的には全国25の主要都市で路線バス、ごみ収集車、タクシー、郵便配達車などに2009~2012年の4年間で23,000台が導入された。導入されたNEVはすべてが国産ブランドになる。NEV生産を立ち上げたばかりのEVメーカーにとって手厚い補助金に支えられた導入支援は十分な成果を上げたといえる。

この普及モデル事業は地方政府にも波及した。地方政府が地元企業でEVを製造するメーカーを支援、育成する試みを推進し、深圳市と比亜迪(BYD)、杭州市の衆泰汽車、北京市と北汽新能源、合肥市と江淮汽車など、2000年代から自動車産業に新規参入したEVメーカーを有力企業に育て上げることに成功している。

「十城千両」政策と並行して中国政府は、(3)購入補助金やナンバープレート規制による需要喚起という、購入補助や規制によるEV需要の喚起政策を始めている。2010年から上海、長春、深圳、杭州、合肥の5都市で販売価格から補助金を差し引いて一般ユーザーに販売する制度を開始した。
一定水準に達したと政府(工業信息部)が認定した車両を対象に、EVは6万元(約96万円)、PHVは5万元(約80万円)を補助した。地方政府もほぼ同額の補助を実施したため、車両価格の50%以上に相当する補助金が支給された。

公共部門と一部都市で新エネルギー自動車販売がはじまり、EVメーカーも少しずつ品質向上と量産体制を整えてきた2013年から、本格的なNEV普及拡大とNEVの性能向上を目的とした「新エネルギー自動車普及応用に関する通知」が発表された。補助基準がそれまでの電池容量(3,000元/kWh)から航続距離に変更され、補助金額も大幅に引き上げられた。

資料:「新能源車白書」2017年版
資料:「新能源車白書」2017年版

NEV政策、次の展開は?

2016年に発表した「新エネルギー車普及に向けた補助金政策の調整通知」では、中国政府のNEV補助金政策は徐々に金額を減らし、2020年に全廃されることになっていた。2017年からは補助対象車両に対して航続距離や燃費などで技術ハードルがあげられた。
一方、2017年からはNEV専用ナンバープレート制度が始まり、NEV導入をさらに後押しすることになった。充電インフラ整備に中央政府と地方政府が共同で取り組んだことは言うまでもない。充電ステーション(充電ポール)は2019年末で100万台以上になっている。

ただし、2019年のNEVの販売台数はやや予測を下回った。さらに新型コロナウイルスの影響で2020年も販売台数はつまずいている。こうしたことから、NEV補助金政策は2022年まで減額されながら延長されることになった。

一方、NEVの補助金対象の中にFCVは含まれなくなり、FCVに関しては、今後4年間はスタックや水素貯蔵の基礎開発と産業チェーン(周辺機器や部材など)育成に助成すると変更になった。またFCV導入助成は、省や都市が独自に進めているプロジェクトの中で実施することが決まった。詳細はこれから発表されることになる。

EVやPHV拡大政策に対する反省がFCV政策にどのようにいかされているかは、次回以降、紹介する。

連載:中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望

遠藤雅樹
遠藤雅樹

(有)デジタルリサーチ代表取締役。(株)矢野経済研究所でガスタービン、燃料電池などの産業分野で市場調査に従事したあと、2001年に燃料電池市場をフィールドにした市場調査会社デジタルリサーチを設立して代表取締役に就任。主な仕事として「燃料電池新聞」(2004~2016年)、「週刊燃料電池 Fuel Cell Weekly」(2009年~)、「中国燃料電池週報」(2019年~)、「燃料電池年鑑(Ⅰ)日本市場編、(Ⅱ)海外市場編」(2014年)、「定置用燃料電池の現状と将来展望(Ⅰ)家庭用燃料電池、(Ⅱ)分散電源・コージェネ、(Ⅲ)Power to Gas」(2016年)、「Transportation燃料電池の現状と将来展望」(2018年)、「中国の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2019年)、「世界の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2020年近刊)などの調査レポート、有料ニュースレターを発刊している。2019年から中国の水素・燃料電池の現状調査を開始、上海、北京、仏山、如皋などに足を運んでいる。早稲田大学文学部仏文科卒。

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