日本でのTCFD参加が急増している。JPXのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂によるTCFD開示の採用と、来年4月のプライム市場への影響もあり、今後も増加が見込まれる。日本のTCFDコンソーシアムがおこなったアンケートでは、金融機関がTCFD開示をどのように扱っているか、非金融機関はTCFD開示のみならず、今後の脱炭素戦略をどのように進めようとしているかがかいま見える興味深いものとなっている。
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日本でのTCFD参加が急増している。JPXのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂によるTCFD開示の採用と、来年4月のp市場への影響もあり、今後も増加が見込まれている。
そうした中、日本でTCFDを推進し、賛同企業などで構成されるTCFDコンソーシアムが「TCFD開示・活用に関するアンケート」を一部公表した。
今回のアンケートでは、金融機関がTCFD開示をどのように扱っているか、非金融機関はTCFD開示のみならず、今後の脱炭素戦略をどのように進めようとしているかがかいま見える興味深いものとなっている。
TCFDコンソーシアムとは、TCFD参加企業同士がナレッジを共有・議論しようという目的で2018年に設立された団体だ。
今回のアンケートにはコンソーシアム会員360機関のうち、211機関が回答を寄せた。うち、金融機関は112機関中57機関。非金融機関は248機関中154機関が回答を寄せている。2020年にも同様のアンケートをおこなっており、前回比較も今回おこなっている。
実際、TCFD開示をした時期については2020年度が最も多く64機関にのぼる。次が2021年度で45機関だが、今年はまだ半年しか経っておらず、さらに開示が増えていくことは容易に想像できる。
TCFD開示をはじめた時期
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
TCFD開示をしたことでのメリットについては、「自社の気候関連リスクと機会についての車内理解の深耕」が最も多く、次いで「投資家を含む金融機関などの関係向上」、「自社戦略の変更・深耕」が続いている。
金融機関では「顧客との関係向上」が非金融機関よりもパーセンテージで比較的多くなっている(金融42%:非金融26%)。
非金融機関では顧客との関係向上が低いかというとそういうことではなく、前回比較をみると顧客との関係向上は12%から26%へと大きく増加していることがわかる。
TCFD開示をおこなったことで得られたメリット(前回比較)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
では、金融機関にとって投資先企業のTCFD開示はどう活用されているのだろうか。
アンケートでは「投融資先企業との対話(エンゲージメント)に利活用している」が6割強と最も多いが、前回比較でみると「当融資先企業のスクリーニング」「投融資における意思決定」などの投融資そのものの一要素として捉えている金融機関が多くなってきている。
投融資先企業のTCFD情報をどのように利活用しているか(金融機関のみ)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
また、金融機関における自社保有の投融資先ポートフォリオを分析したり目標値をおいているか、との設問には「分析し、目標値を設定」が28%、「分析し、目標値は設定せず」が25%だった。これは目標値の設定まではまだおこなっていないが、分析していると答えた金融機関が半数を超えることになる。また、「分析を検討している」は40%で、今後、保有ポートフォリオの分析は増えていくと思われる。
自社ポートフォリオのGHG排出量を分析し、目標設定しているか(金融機関のみ)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
非金融機関からみると、金融機関との対話で多くされた質問は、自社の環境ビジョンや中長期事業戦略との関連性が多かった。
金融機関との対話においてどのような質問を受けたか(非金融機関のみ・複数回答可)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
非金融機関にとって脱炭素のファイナンス問題は大きく関心があり、なんらかのトランジションファイナンスを検討している企業は過半数を超える。一方で十分な情報がまだ少なく、判断ができないという企業も3割にのぼった。また、助成金や税制の優遇などの公的支援制度を求める企業は全体の8割弱にのぼっている。
トランジションファイナンスに関する認識は?(非金融機関のみ)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
脱炭素に向けた有効な公的支援のあり方は?(非金融機関のみ)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
さらに、GHG排出量削減の手法としては証書やクレジットを利用する、もしくは検討予定の企業は7割にのぼっている。これは、直接的に再エネ電源を自社で開発しようというよりも、非化石証書、J-クレジット、グリーン電力証書などを使ったほうが現在においては現実的だと考えているということだろう。
一方で金融機関としては証書やクレジットの調達状況を把握したいという声があり、回答として「証書やクレジットの調達は本質的な脱炭素戦略として受け止めにくい」「開示する場合でもルールを明確化するべき」という回答があった。
排出削減で証書やクレジットを調達していますか(左・選択式)
すでに調達している場合はどの証書・クレジットでしょうか(右・自由記載)
「2021年度TCFDコンソーシアム TCFD開示・活用に関するアンケート」集計結果より
今回のアンケートはTCFD開示企業が対象だったため、その重要性については多くの企業が認識している。一方で、TCFD開示の「次の一手」は金融機関、非金融機関ともに探り合いのようだ。
当たり前だが、TCFDは一度開示してそれで終わりというものではない。具体的にどのように脱炭素を推し進めていくのか、そのためのファイナンスはどうすればいいのか、対話の道具としてのTCFD利活用が進んでいることがわかる。
今後、脱炭素投資は増えこそすれ、減ることはないだろう。TCFD開示の日本での本格活用は、まだこれからなのかもしれない。
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