近年、大型台風などの災害による停電が毎年のように起きている。そうでなくとも、地震国である日本は、震災による停電のリスクも小さくない。こうした災害への対応が、電気事業に対しても求められている。2020年12月24日に開催された、経済産業省の第12回「電力レジリエンスワーキンググループ」では、一般送配電事業者間の災害時連系計画や相互扶助制度について議論された。
目次[非表示]
2020年6月に成立したエネルギー供給強靭化法(改正電気事業法)の大きな改正目的の1つがその名前にも表れているとおり、強靭化・レジリエンスの強化である。
強靭化法では近年の自然災害の頻発、激甚化、被災範囲の広域化を背景に、電気事業者間の災害時の連携強化策を幾つか定めている。
例えば、送配電事業者に災害時連携計画の策定を義務化することや、送配電事業者が仮復旧等に係る費用をあらかじめ積み立てておき、それを被災した送配電事業者に対して交付する相互扶助制度を創設している。
災害時連携計画制度は7月に施行され、一般送配電事業者10社は災害時連携計画を経済産業大臣へ届け出をおこなった。
その後の2020年10月に本制度の初めての対象となる災害、「令和2年台風10号」が九州エリアにおいて発生した。本稿では災害時連携計画や相互扶助制度の取組状況についてご報告したい。
台風10号は9月6日から7日にかけて九州の西側を通過し、最大停電戸数は約48万戸に及んだが、ピークから41時間で99%を復旧させることが出来た。
九州電力送配電(株)は、台風の影響がないと見込まれた関西以東の一般送配電事業者6社に対し応援要請をおこない、復旧要員(計362名)と高圧発電機車(計53台)の応援を受入れた。実際には、当初想定よりも被害が少なく九電のみで復旧対応が可能であったため、他社の実働はないまま応援受け入れは解除された。
災害時連携計画制度では、このような被災事業者からの要請に基づく従来タイプの「プル型」応援だけではなく、被災事業者エリアの被害が甚大な場合には、他の一般送配電事業者が被災事業者からの要請を待たずに応援に駆け付ける「プッシュ型」応援をおこなうことが特徴である。
今回は災害時連携計画策定後の初めての災害であったため、事業者は計画には明確な記載がない対応も実施したが、今後は各社が同じ認識に基づき速やかな災害対応が可能となるよう、発災前の応援派遣に係る具体的な業務運行や発動基準(特別警報が発令等)を計画に盛り込む予定である。
上記のように、一般送配電事業者(以下、一送と呼ぶ)間で応援をおこなった際に発生した費用を特定の事業者だけが負担することなく、全国で扶助しあうことを目的として、相互扶助制度が設けられた。施行は2021年4月を予定しているが、上記の令和2年台風10号も扶助の対象となる。
図1.相互扶助制度のスキームイメージ
出所:第7回 持続可能な電力システム構築小委員会
被災電力事業者は、一定の基準(停電軒数10万戸以上等)を満たした災害時において発生した、①他社一送からの応援に係る費用(時間外労務費等)、②本復旧と比較して迅速な停電の解消が期待される仮復旧費用(電源車・資機材等関連費用)について、相互扶助制度の適用を受けることができる。
2023年度から新しい託送料金制度・レベニューキャップが開始されるため、拠出金や交付金の扱いや具体的な金額を明確にしておく必要がある。
近年の大規模災害における一送各社の損失額が表1のA列である。仮にこの当時から相互扶助制度が存在したと仮定した場合の制度対象費用(上記の①+②)がB列である。モラルハザード防止の観点から、被災した一送にも対象費用のうち10%の自己負担を求めるため、交付金額は対象費用の90%とされた。
表1.相互扶助制度を過去の災害に当てはめた場合の交付総額
出所:電力レジリエンスWG
一送各社が拠出し、電力広域的運営推進機関に積み立てておくべき積立基準額は、数年に一度発生するような大規模な災害にも対応できる金額を確保する観点から、約90億円と試算されている。
そのうえで、毎年発生する蓋然性が高い通常規模の災害への対応分として年間約15億円、数年に一度発生するような大規模な災害への対応分として年間約45億円、両者を合計した一送各社の拠出総額は年間約60億円と試算されている。この年間60億円を一送各社の需要規模kWhに応じて、各社が按分拠出することとなる。
一送各社では、災害発生時に現地でモバイル端末を用いてシステム入力することやドローンの活用により、迅速に被害情報や復旧進捗等の情報を収集するなど、デジタル技術を用いた迅速な復旧に取り組んでいる。
従来は電源車を効率的に稼働させることが課題であったが、モバイル端末のGPS情報等を活用し、電源車の位置・稼働状況をリアルタイムで把握することにより、効率的に情報集約・共有することができるようになった。
図2.中部電力パワーグリッド㈱のシステム例
出所:電力レジリエンスWG
また、一送9社で共通のチャットシステムを開発することにより、チャットボットで自動受付をおこなう需要家対応のための共同コンタクトセンター(金沢)を2020年9月に開設済みである。このチャットシステムは令和2年台風10号の九州電力でも活用された。
なお将来に向けては、別記事【次世代スマートメーターはどこまで高機能であるべきか データの粒度と制度の在り方】で紹介したように、次世代スマートメーターに停電時の警報送信「Last Gasp」機能を具備させることにより、断線位置検出の精度向上が可能となり停電からの早期復旧が期待される。
2019年台風15号による東京電力エリア(千葉県内)の停電長期化は、倒木そのものが多かったことや倒木除去の要請に時間が掛かったことが原因の一つと指摘されている。倒木を未然に防ぐことで停電発生そのものを回避できるほか、道路の通行止めを早期解消することが、停電復旧の迅速化につながる。
このため従来から、地方自治体と電力会社等が連携し、倒木によって被害をもたらす可能性がある樹木を平時に事前伐採しておく取り組みがおこなわれてきた。この事前伐採を全国的に横展開すべく、地方自治体と電力会社の協議が進められている。
現時点の進捗は表2のとおり全市町村の約1割程度であるが、地方自治体と電力会社双方のニーズが高いエリアから積極的に事前伐採が進められている。
表2.事前伐採の進捗状況
出所:電力レジリエンスWGを基に筆者作成
基本的には、事前伐採は森林所有者自身もしくは防災対策としてのニーズがある都道府県や市町村でおこなわれるものであるが、表3のように関係者の役割分担や費用負担の分担等については様々な方法が存在しており、地方自治体と電力会社間での費用負担の協議が難航するといった課題も存在している。
表3.地方自治体と電力会社の連携事例
出所:電力レジリエンスWG
電気事業法では、小売電気事業者を含むすべての電気事業者が災害時の停電対応等、電気の安定供給を果たすため、相互に協調しなければならない旨が定められている。
旧一般電気事業者は発送電分離後も、非常災害時においては一送と発電部門・小売部門間の情報共有や、業務連携の行為規制の例外が制度的に認められている。一例として、災害時には送配電事業者と旧一電小売部門が協調して、停電の問い合わせに対応している。
旧一電部門間連携だけでなく、さらには送配電事業者間の連携として先述の金沢共同コンタクトセンター以外にも、青森で共同コールセンターを運営している。
また2020年9月には、「電力の小売営業に関する指針」が改正され、新電力を含むすべての小売電気事業者は地方自治体が行う物資支給活動に協力することが、望ましい行為として位置付けられている。(指針の抜粋:ポータブル発電機、電動車等を保有する小売電気事業者は、余力の範囲内で、当該地方自治体へ貸出し等を行うこと)
平時からの計画的な事前伐採や災害時の倒木処理・道路啓開、自治体へのリエゾン派遣等を含めた、自治体と一送との間の何らかの災害連携協定はすでに、30都府県・978市町村で締結されており、未締結の自治体においても両者が連携することが確認されている。
災害はそのすべてを予期することは出来ず、災害時連携計画に完成形は無い。多方面の知見を取り入れながら各社でベストプラクティスを共有し、不断の改善が続けられることを期待したい。
審議会を見るの最新記事