審議会ウィークリートピック
2024年度をもって、日本全国の全ての受電メーターがスマートメーター化する。しかし、現行のスマートメーターは需給バランスの細かい調整や多様なサービスへのデータの提供といった点で課題は多い。そのため、次世代スマートメーターが本当はどうあるべきなのか、政府内で検討が開始された。
2020年9月8日に開催された第1回「次世代スマートメーター制度検討会」、および2020年9月29日に開催された第1回「スマートメーター仕様検討WG」についてお伝えする。
現行のスマートメーター(低圧部門)とその課題
電力メーターや計量データは、電力小売事業の料金の精算や、電力需給バランス同時同量確保の基礎となる重要なインフラのひとつである。
2014年から現行のスマートメーターの本格導入が開始されているが、メーターの検定期間は10年であることから、これらは2024年度以降順次、検定期間を満了し交換が必要となる。
資源エネルギー庁では今と同じメーターへの交換という選択肢は取らず、これからの10年に適した仕様のメーターを開発すべく、検討を開始、第1回 次世代スマートメーター制度検討会が2020年9月8日に行われた。
まず現行の低圧スマートメーターの機能概要は以下のとおりである。
全国では2020年3月末現在、6,105万台が設置済みであり(設置率75.2%)、2024年度末までに導入を完了する予定である。
各スマートメーターから一般送配電事業者に対する通信Aルートと、宅内に対する通信Bルートが設定されている。
従来の機械式メーターと比べ、スマートメーターでは遠隔自動検針による業務効率化ひいては託送料金の抑制が可能となったほか、細かい粒度のタイムリーな電力量データの取得により、新たなサービスが可能となった。例えば見守りサービスや省エネ情報サービス、宅配サービスの効率化などである。
しかしながら、例えばその計量頻度・粒度が30分であることなど現行の仕様が制約となり、適用できるサービス・事業機会が限定されるという課題も生じている。
今後、家庭では太陽光発電や蓄電池、電気自動車(EV)等の需要側リソースの導入拡大が想定され、これらをアグリゲーションすることによる新たな事業の創出が期待されている。
また、変動型再エネの増加により、電力系統全体の需給バランスや調整力の確保等において、きめ細やかな監視と制御の必要性が増しており、きめ細かな計量データが求められるようになってくる。さらに電力だけでなく、その通信機能を他分野(ガスや水道)と共同で活用することによる、社会的課題の解決も考えられる。
これらの課題はメーターを変えるだけで解決するわけではないが、少なくともメーターが制約とならぬよう、長期的な社会的便益が最大化される仕様が実現することが望ましい。 一度設置されたメーターは原則10年間交換しないため、少なくとも10年先の社会的ニーズや技術・制度環境を踏まえた検討が必要である。
現在は、スマートメーターにより計測された30分電力量(速報値)は需要側(小売電気事業者)だけに提供されているが、2022年度以降は発電側に対しても一般送配電事業者から提供することに変更される。次世代スマートメーターの在り方は、インバランス制度改革を通じて発電事業者(FIP再エネ発電事業者等)にも大いに関係する議論となる。
次世代スマートメーターの論点 計量頻度と粒度はサービスだけではなく同時同量制度にも直結
本来は、機械としてのスマートメーターの仕様の議論に入る前に、将来的にどのような用途で電力データを活用するために何が必要となるのか? というニーズ面での観点で検討することが重要である。しかしながら、技術や制度が急速に大きく変化する現代では、正確に将来を予見することは困難であり、ハードウェアや通信技術といったシーズ面からの検討も並行しておこなうことが合理的である。
資源エネルギー庁「次世代スマートメーターに係る検討について」2020年9月8日すでに海外でもスマートメーターは多く導入されており、現行仕様の違いの比較や、データを活用したビジネスを見ることで、今後の日本のスマートメーターに求められる仕様を検討する一助となるだろう。
検討会で最も多く指摘された仕様変更が、計量頻度・粒度である。
すでに海外ではこれを15分としている国もあり、検討会では5分を目指すべきとの意見もあった。粒度が細かいほうが多様なサービスに活用できることは容易に想像できるが、新ビジネスを検討する事業者の本音では、「数分」といった粒度ではなく「リアルタイム」なデータ取得を理想としていると考えられる。
が、計量粒度の短縮化が求められる理由はこれだけではない。計量粒度は、同時同量制度の在り方と直結する論点である。
日本の現在の同時同量制度の計画単位・コマは30分であり、むしろコマが30分であるがゆえに、計量粒度も30分となっていると言うべきである。
ただし、小売電気事業者や発電事業者が遵守すべきコマは30分であるが、送配電事業者が扱う時間単位(調整力の運用・限界単価)は、2021年以降は15分、2023年以降は5分へと変更されることが決まっている。
一般論として、変動型再エネの大量導入が見込まれる中、供給力や調整力を適切に運用するにはコマは短いほうがよいと考えられるが、現在でも送配電事業者は周波数という基礎的データを基にリアルタイムに系統運用をおこなっている。新仕様スマートメーターから得られる細かい粒度の計量データを送配電事業者がどのように活用するのか、筆者としても注目している。
スマートメーター計量粒度の議論は、インバランス制度のさらなる変更へとつながる可能性が高い。つまり計量粒度が変われば、一般送配電事業者や小売電気事業者等のシステムや業務の在り方もすべて変更が必要となる。よって仕様の決定にあたっては、費用便益評価が不可欠である。
次に大きな論点となるのが、計量項目である。
現行の日本のスマートメーターが計量しているのは、小売の料金計算に必要となる有効電力量のみである。他方、諸外国では無効電力量や電圧なども計量しており、分散型リソースの管理や配電網整備に活用している。日本でも、現在のデータは配電網整備に有効利用されているが、無効電力等を加えることにより、一層の系統運用高度化が期待される。
次世代スマートメーターはどのように使われるのか
第1回 スマートメーター仕様検討WGでは、次世代スマートメーターで期待されるいくつかのユースケースが示された。
ユースケース1.一般送配電事業者の観点:配電系統運用の高度化
諸外国でも最も具体的な活用が進んでいるのが、この配電系統運用の高度化である。
従来の上流から下流への一方向的な電気の流れだけでなく、需要側での太陽光発電や電気自動車の導入により潮流が双方向化するにつれ、配電線の電圧を適正範囲に維持することが困難となることや、配電設備容量を超過する問題が発生しつつある。
現在は、変電所の出口で電圧・電流等を30分単位で計測することや、自動開閉器にセンサーを内蔵することにより、この問題に対処している。
ここにスマートメーターの計量データを加えることにより、配電設備の詳細な状況を把握することが可能となり、配電設備の運用が効率化される。現行が計量する30分ごとの有効電力データだけであっても十分に効果的であるが、次世代スマートメーターで電圧や無効電力が計測されれば、さらなる配電系統運用の高度化が実現する。具体的な効果としては、電力損失量の削減とこれに伴うCO2排出量の削減、太陽光発電や電気自動車の接続可能量の増加などが期待される。
このほか、次世代スマートメーターのデータを活用した配電系統高度化としては、表2のようなユースケースが想定されている。
スマートメーター仕様検討WG資料 電気事業連合会「スマートメーターの現状と次世代スマートメーターのユースケース、および今後の検討課題について」2020年9月29日また、スマートメーターのデータは停電からの早期復旧にも有効である。従来は需要家からの電話連絡により、個々の家屋の停電発生を把握していたが、東京電力パワーグリッドは2019年の台風15号からデータを活用している。データが取得できない家屋を停電被疑地点として能動的な巡視をおこなうことにより、停電の早期発見につなげている。
また、表2の「Last Gasp」とは停電時にスマートメーターが警報を送信する機能である。従来も高圧線以上は配電監視システムで断線を検知していたが、低圧線や引込線の断線を検出することは出来なかった。ここにLast Gasp機能を組み合わせることにより、断線位置検出の精度向上と、これによって停電から早期復旧することが期待される。
ユースケース2.アグリゲーターの観点:調整力の提供
太陽光発電や蓄電池、電気自動車、需要家設備などの分散型エネルギー資源(DER)を多数束ねる(アグリゲートする)ことにより、VPP(仮想発電所)として機能させることが国内でも実証実験されている。
これらVPPは電力量の卸取引のほか、電源Ⅰ´や三次調整力①や②といった調整力を提供することを目指している。
30分単位の電力量を計測するAルートでは調整力を提供することは現実的ではないが、表1で示したように現行のスマートメーターでもBルートでは「1分単位」の電力量が取得可能である。結果として現在では、多くの事業者がBルートを用いている。Bルートであっても計量法の検定を受けたメーターであることから、取引証明に使用できることがポイントである。
ただし、Bルートであれば万全というわけではない。例えば、高圧スマートメーターと制御対象となる需要家側設備の「距離」が遠いという問題のため、肝心のBルートが使えない(経済的にスマートメーターにアクセスできない)事例が多発していることが報告された。
これ以外でも、アグリゲーター等がスマートメーターデータに経済的にアクセスするための改善要望が複数提起されており、これについては後述する。
ユースケース3.新たなサービス:多様な情報の掛け算
スマートメーターのデータは防災にも活用できると考えられている。特定の地域の時間帯ごと・曜日ごとの細かな電力使用量を把握することにより、在宅率や昼間人口が推計される。これにより、避難所の適切なキャパシティを事前に整備することや、発災時の避難誘導の効率化に役立てられる。
東京電力パワーグリッド「スマートメーターシステム×防災ソリューション」2020年9月29日発電側に目を向けると、現在、発電所に設置されたメーターの計量値は、1ヶ月分をまとめた確定値だけが一般送配電事業者から発電事業者に通知されている。これでは速報性が無いため、大規模電源の発電事業者は独自に自社用メーターを設置して管理している。
2022年には再エネ電源のFIP(フィードインプレミアム)が開始され、インバランス制度も変更されることから、2022年度以降は発電事業者に「速報値」が提供されることが決まっている。太陽光等の変動電源をアグリゲートしてインバランスを抑制するために、スマートメーターで取得した速報値の活用が不可欠であると考えられる。
現行スマートメーターの課題、改善要望
第1回 スマートメーター仕様検討WGでは、委員やオブザーバーから現行の課題や改善要望が多数提示された。これらの一部が、次世代の仕様に反映されると考えられる。
データ粒度の細分化
現状のAルート30分値を、例えば5分値に変更するなどの要望である。細分化することにより、スマートメーターデータの新たな活用法が広がることは間違いない。他方、現行Bルートで既に1分値が取得できていることから、調整力の提供など「制御」を伴う細かい粒度が必要なユースケースについては、Bルートやパルス計量により対応する方が合理的との意見もある。
他方、現状ではBルートのデータ欠損が問題視されている。
欠損が発生する原因としては、通信トラブルによるものや、Aルートとタイミングが被る場合にBルートが発信しない仕組みとなっていること、である。よって次世代スマートメーターでは、安定したデータ取得を可能とすることが要望されている。
今後の検討課題と次世代スマートメーターのコスト試算値
第1回 スマートメーター仕様検討WGではまず主にメーター側の課題が議論されたが、これにあわせて、一般送配電事業者からは、計量・通信の粒度・頻度別の概算コストの試算値が報告された。メーター単独ではなく、システムの強化も含め、次回以降のWGで議論される予定だ。
第1回 スマートメーター仕様検討WG資料 電気事業連合会「スマートメーターの現状と次世代スマートメーターのユースケース、および今後の検討課題について」より筆者作成第1回 スマートメーター仕様検討WG資料 電気事業連合会「スマートメーターの現状と次世代スマートメーターのユースケース、および今後の検討課題について」2020年9月29日(Text:梅田あおば)
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