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ドイツの大手電力2社が、イギリスの洋上風力発電に積極的な理由

ドイツの大手電力2社が、イギリスの洋上風力発電に積極的な理由

2021/03/11

世界最大の洋上風力市場・英国で、ドイツの大手電力会社の積極的な参入が目立っている。先頭を走るのは、発電ポートフォリオの非炭素化を推進する伝統企業RWE(本社エッセン)とEnBW(本社カールスルーエ)だ。どのような事業を進めているのか、ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が報告する。

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第36回

英国を重視するドイツ・RWEの野望

ドイツ最大手の電力会社RWEは今年2月8日に、「英国の北東沖に、設備容量3GWの洋上風力発電基地を建設するために必要な、海域の使用権を落札した」と発表した

RWEが洋上風力発電基地を建設するのは、英国の北東110kmの海域で、北海にあるドッガーバンクと呼ばれる場所。水深が比較的浅く平坦なので、洋上風力発電プロペラに適した海域である。

 

RWEは英国の不動産を管理する公共企業クラウン・エステートが、同国の風力キャパシティー拡大のために実施した入札「オフショア風力リーシング・ラウンド4」に参加。その結果、1MWあたり8万2,552ポンド(1,238万円・1ポンド=150円換算)の価格を提示して、落札に成功した。同社にとっては2億4,770万ポンド(372億円)の投資である。

RWEの発表資料より
RWEの発表資料より

関連記事:ドイツ最大の電力会社、RWEが脱石炭・グリーン化に踏み切る理由

ドッガーバンクの洋上風力で、RWEは1.4GWの電力をつくる

RWEは、すでにドッガーバンクで「ソフィア」と呼ばれる大規模な洋上風力発電基地の開発プロジェクトに参加している。これは、同社の子会社だったイノジーから引き継いだプロジェクトだ。ソフィア・プロジェクトは、ドッガーバンクに最新式の風力発電装置100基を設置する計画で、こちらの最終的な設備容量は1.4GWに達する予定。2023年~2024年頃には、運開する。

さらにドッガーバンクにはソフィア以外にドッガーバンクA、ドッガーバンクB、ドッガーバンクCの3つの基地が建設され、容量の合計は3.6GWに達する予定。このプロジェクトにはノルウェーのエクイノール社と英国のスコティッシュ・アンド・サザン・エナジー社も参加している。このため、ドッガーバンクは欧州の洋上風力発電市場で最も重要な海域の1つとなる可能性がある。

同社の再エネ発電部門であるRWEリニューアブル社のスヴェン・ウターメーレン最高執行責任者(COO)は、「この2つの洋上風力プロジェクトは、我が社の英国での風力発電ポートフォリオにぴったりマッチする。我々は2つのプロジェクトを並行して推進することにより、シナジー効果を上げることができる」と述べ、建設許可申請の取得を急ぐ方針を明らかにしている。隣接した海域に集中して洋上風力発電プロペラを設置すれば、ロジスティクスの面で経費を節約することができ、効率性が高まる。

ドッガーバンク 地図
ドッガーバンクの位置

 RWEはもともと褐炭・石炭・原子力の電力会社

元々は褐炭火力・石炭火力・原子力が中心だったRWEは、メルケル政権の脱原子力政策と脱石炭政策の影響で、2019年に経営戦略を大きく転換して、再生可能エネルギーを発電ポートフォリオの主軸とすることを決めた

同社は2040年までに発電ポートフォリオからの二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを正味ゼロにするという目標を打ち出している。

再生可能エネルギーを担当するRWEリニューアブル社のアニヤ・イザベル・ドッツェンラート最高経営責任者(CEO)は、「我が社は洋上風力に関して世界最大の発電事業者になることを目指している。その中で、英国市場は戦略的に最も重要な領域の1つだ。今回クラウン・エステートの入札で海域の使用権を落札できたことを光栄に思う」と述べている。

関連記事:ドイツは2030年・再エネ65%へ向け再エネ促進法(EEG)を改正 それでも2050年カーボンニュートラルには足りないと激論

「英国を風力発電のサウジアラビアに」英ボリス首相

ドッツェンラート氏が英国を重視する理由は、海に囲まれた同国が世界最大の洋上風力発電市場である上に、潜在的に大きな成長性を秘めているからだ。英国の現在の洋上風力発電の設備容量は約10GWで、世界の洋上風力発電の設備容量のほぼ3分の1を占める。英国の洋上風力発電基地の設備容量は、2015年に比べて2倍に増えた。

英国のボリス・ジョンソン首相は、英国を「オフショア風力大国」にすることを狙っている。首相は「英国を、風力発電のサウジアラビアにする」と宣言。そして2030年までに、洋上風力発電の設備容量を現在の約4倍の40GWに増やし、全世帯の電力をこのエネルギー源によってカバーするという目標を打ち出している。首相は、「洋上風力拡大計画によって、6万人分の雇用が創出される」という期待も表明している。

ボリス・ジョンソン英首相
ボリス・ジョンソン英首相

関連記事:英ボリス・ジョンソン首相、2030年までに温室効果ガス排出量68%削減を発表

営業利益82%アップの理由は、再エネのポートフォリオ拡大

RWEにとって、再生可能エネルギーの重要性は増す一方だ。同社の2020年第3四半期の営業利益(EBIT)は、前年同期に比べて82.2%も増えて、11億4,500万ユーロ(1,443億円)に達したが、その最大の理由は再生可能エネルギーのポートフォリオが拡大したからである。

その中でも重要な稼ぎ頭が洋上風力部門だ。2020年上半期の洋上風力部門の営業利益は、前年同期に比べて148%増加して、5億8,500万ユーロ(737億円)に達した。同社の去年上半期の営業利益の半分近くは、再生可能エネルギーによって生み出されている。

RWEの2019年上半期の設備容量の中で再生可能エネルギーが占める比率は10.2%だったが、2020年上半期には23.4%に急増している。逆に化石燃料の比率は、77%から64.2%に低下した。

RWEの2020年6月時点での再生可能エネルギー設備容量は8.9GWだったが、同社は2022年末までに46.1%増やして、13GWに増やす方針だ。

再エネのために2,500億円増資。機関投資家は高く評価

同社は今後再生可能エネルギー関連の投資を増やすために、2020年8月に20億ユーロ(2,520億円)の増資を決定。これによってRWEの自己資本は、10%増えた。

この増資に対する機関投資家の関心は強く、RWEがオファーした株式の3倍の買い注文がついた。この増資は、再生可能エネルギーによる発電の分野で世界のトップクラスの企業になるというRWEの経営戦略と、同社の決意の強固さを裏打ちするものだ。

ちなみに投資家たちはRWEのグリーン化を高く評価している。同社の株価は2018年の2月25日には約17ユーロだったが、2021年2月24日には約88%高い約32ユーロとなっている

南西部の公営電力会社・EnBWも英国での建設権を落札

ドイツ南西部を地盤とする公営電力会社EnBWも、英国洋上風力市場を重視している。

かつて原子力を経営戦略の主軸としていたEnBWは、2011年にメルケル政権が脱原子力へ向けて舵を切って以来、再生可能エネルギーの拡大に力を入れている。

同社は2月8日に、「英国の石油会社BPと共同で、英国とアイルランドの間の海域に設備容量3GWの洋上風力発電基地を2ヶ所建設する権利を、クラウン・エステートの入札で落札した」と発表した。EnBWによると、2つの陸地に挟まれたアイルランド海は極めて風況が良く、2028年の運開後は、英国の約340万世帯に供給できるほどの電力を生み出すことができる。両社の投資額は4億6,000万ポンド(690億円)と推定されている。

2025年、EnBWの設備容量の50%は再エネに

EnBWのフランク・マスティオーCEOは、「世界最大の洋上風力発電市場である英国は、CO2を増やさないエネルギー源をさらに拡大しようと努力している。我が社は、BPという重要なパートナーとともに、その努力に貢献できることを誇りに思う」というコメントを発表した。

同社は2013年の大幅な機構改革以降、すでに50億ユーロ(6,300億円)を再生可能エネルギー事業に投じているが、今後2025年までにさらに40億ユーロ(5,040億円)をこの分野に投資する方針を明らかにしている。4年後には、EnBWの設備容量のほぼ半分が再生可能エネルギー由来になる見通しだ。


EnBWの発表より

大手石油会社BPもEnBWとタッグを組んで再エネ市場へ参入

興味深いのは、この入札で大手石油会社BPが電力会社EnBWとタッグを組んで参加したことだ。欧州連合(EU)が2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を打ち出す中、欧州の石油会社の間ではポートフォリオの中で再生可能エネルギーの比率を増やそうとする動きが目立っている。石油会社は化石燃料だけに依存したビジネスモデルから脱却するために、事業の多角化を始めているのだ。

BPのこれまでの再生可能エネルギー発電の設備容量は3.3GWだが、同社はこの容量を2030年までに50GWに増やすという野心的な目標を持っている。


BPの発表資料より

BPでガス及び低炭素事業部門を統括するデフ・サンヤル取締役は「我々はCO2排出量が少ないエネルギー源のポートフォリオを継続的に拡大していく。洋上風力発電事業からの収益は長期的に安定しているので魅力的であり、我が社の長期的な投資戦略に適合している。BPは、発電以外のオフショア関連事業についてすでに約50年の経験を持っている」と述べ、今後も再生可能エネルギー関連の投資を続ける方針を明らかにした。海底油田の掘削などで豊富な経験を持つBPと、発電のプロEnBWがコンビを組むことで、どのようなシナジー効果が生まれるだろうか。

高い資本力を持つ石油会社が再生可能エネルギー事業に積極的に参入することは、自然エネルギーの普及と価格競争力の向上につながると予想される。さらに潤沢な資金が流れ込むことにより、欧州のエネルギー市場で、CO2を出さない電源の比率が今後10年間で大幅に高まることは確実だ。

*EnergyShiftの「ドイツ」関連記事はこちら。「イギリス」関連記事はこちら。「洋上風力発電」関連記事はこちら

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 バックナンバーはこちら

参照
RWE in britischer Ausschreibung um die Vergabe von Gebieten zur Entwicklung neuer Offshore-Windprojekte erfolgreich (group.rwe) | RWE
RWE und EnBW sichern sich Standorte für Offshore-Windparks | Reuters
Financial Report | RWE
Offshore-Strom für 3,4 Millionen Haushalte | BP und EnBW | EnBW
bp advances offshore wind growth strategy; enters world-class UK sector with 3GW of advantaged leases in Irish Sea | News and insights | Home

熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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