国際NGOのCDPは、機関投資家の求めに応じて世界中の大企業が気候変動にどのように取り組んでいるのかを報告書としてまとめている。そこから読み解けるのは、企業の気候変動への意識と実際の活動の変容だ。日本の企業に着目して、CDPレポートを解説する。
国際NGOによる企業の環境活動の評価報告書
環境情報開示プラットフォームを運営する国際的な非営利団体CDP(旧Carbon Disclosure Project)は、企業の気候変動問題等への取り組みに関する情報開示と実際の取り組み状況をまとめた、2019年版の報告書を2020年1月20日に公表しました。
この報告書は世界中の主要企業に質問を送り、その回答に評価を行うものです。2019年版の報告書では、8,000社以上の企業に対し、AからD⁻までのスコアを付与し、公開されました。それによると上位2%である179社がA評価を受け、そのうち38社が日本企業だということです。日本が米国を抜いて最多となったのは、今回が初めてでした。そこにはどのような要因があったのでしょうか。また、課題はあるのでしょうか。
世界の時価総額50%の企業が環境問題に関する情報開示
CDPは、世界の機関投資家等の要請に基づき、企業等に気候変動対策等の情報開示を求める非営利組織で、15年以上の歴史があります。企業にとって環境問題等への取り組みは、非財務情報ですが、その企業が持続可能かどうかを示す指標になります。したがって、機関投資家もCDPの調査を参考にしながら投資をしているということになります。
調査はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に準拠した質問に回答する形で行われました。リーダーシップを発揮している企業はAおよびA⁻、マネジメントができている企業はBないしB⁻、課題があることを認識している企業はCおよびC⁻、情報開示を行っている企業はDないしD⁻です。また、実際に、Aリストに入った企業の株式市場での評価は、競合他社より5.5%程度パフォーマンスが高いということです。
2019年は、運用資産規模約96兆ドルに達する機関投資家等がCDPの活動に賛同し、世界の時価総額の50%強となる8,400強の企業、920強の自治体が情報開示を行いました。うち、179社が最高位のAリストに入っています。日本でも知られている企業としては、ダノン、H&M、レゴグループ、ロレアル、マイクロソフト、ネスレ、サムスンエンジニアリング、ユニリーバなどがあります。
情報開示を行っている企業は年々増加しています。また、近年は、気候変動問題だけではなく、水の安全や森林保全に関する情報開示も行われるようになってきました。
取り組みが加速する日本企業
日本企業はどうだったでしょうか。
投資家から要請されたのは、時価総額で上位500に入る企業でした(ジャパン500)。そのうち316社から回答がありました。これ以外にも、40社が自主的に回答しています。
Aリストに入った企業は38社でした。いずれも、2018年より増加しています。また、Aリストに入った企業の数は、米国の35社を上回っており、1国としては最大となっています。
また、どのような企業がAリストに入っているかを、表に示しました。この他、A⁻、B、B⁻の企業も多く、全体として他国よりも高い評価になっているということです。
ではなぜ、日本企業の評価が高いのでしょうか。CDPジャパンシニアマネージャーの高瀬香絵氏は、2つの要因をしてきします。
ひとつは、TCFDに賛同する日本企業が多いということです。つまり、気候変動リスクや機会を経営計画に織り込んでいるということです。 もうひとつは、環境省の支援によって、SBT(Science Based Targets)認定を受けている企業が多いということです。
では、日本企業の取り組みはどのようなものなのか。温室効果ガス排出量の検証やISO認証を手掛けるソコテック・サーティフィケーション・ジャパンの倉内瑞樹氏によると、いくつかの点が指摘できるということです。
まず、気候変動に関する監督は、ほとんどの企業で取締役が関与するテーマとなっているということです。また、気候変動に関するシナリオ分析は半数以上の企業で行っており、2年以内に分析するという企業も含めると86.6%に達します。
ただし、この分析するシナリオは、まだ気候変動による地球の平均気温の上昇が2℃上昇の仮定にとどまっており、現在COPなど世界中で議論されているより厳しい1.5℃上昇シナリオの分析は進んでいません。
また、SGSジャパンによる分析では、自社が出すCO2(スコープ1)だけではなく、供給される電気などに由来するCO2(スコープ2)の把握も進んでいます。サプライチェーンを含めたCO2排出(スコープ3)の把握に取り組む企業も増えているということです。
課題は再エネの調達
では、日本企業に課題はないのでしょうか。高瀬氏によると、日本企業の再エネ率の低さが課題だということです。今後は、PPAなどによる「追加性」のある再エネの導入に期待するということです。
また、CDPジャパンでは、日本政府に対し、良質の再エネが早急に供給できるよう、コネクト&マネージなどの再エネ導入促進策のスピードアップ、排出削減目標の引き上げ、カーボンプライス規制などに期待するとしています。CDPジャパンの理事でチェアマンの末吉竹二郎氏は、報告会における挨拶の中で、CDPの取り組みについて「出遅れ感のある日本の背中を押し、転換の一助、日本と世界をつなぐ窓になる」と述べました。
今回はAリストの企業が多かった日本ですが、再エネ導入など課題も多く、2020年が同じ結果になるとは限りません。日本政府は気候変動に対して十分な施策をとっていないことも国内外から指摘されています。そうした課題も残りますが、さらなる事業活動を通じて持続可能な地球にしていくことが、今、何よりも求められるのではないでしょうか。
(取材、執筆:EnergyShift編集部 本橋恵一)