長野県諏訪湖、室町時代から続く「御神渡り」は今年、現れたか 身近に迫る地球環境の変化 | EnergyShift

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長野県諏訪湖、室町時代から続く「御神渡り」は今年、現れたか 身近に迫る地球環境の変化

長野県諏訪湖、室町時代から続く「御神渡り」は今年、現れたか 身近に迫る地球環境の変化

2021年03月13日

長野県の諏訪湖は、冬期の氷結によってできる「御神渡り」で有名だ。しかし、近年は氷結する年が少なくなっている。実は、歴史ある「御神渡り」の記録は、長期にわたる気候変動の実態を示すデータとして、世界から注目されている。今年の「御神渡り」はどうだったのか、千葉商科大学名誉教授の鮎川ゆりか氏が報告する。

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今冬、「御神渡り」は出現したか?

お正月も過ぎ、気温が氷点下になり本格的な冬の寒さになると、諏訪の人達はワクワクし始める。「今年は諏訪湖が凍って、御神渡り(おみわたり)が見られるか」が最大の関心事になるからだ。

諏訪湖の湖面全体が凍り、その後氷点下10度を下回る日が3日ほど続くと、氷がせりあがってくる。そして轟音とともに氷が割れ、湖面に氷の山脈がそそりたつ

湖のこちら側から反対側へ連なってあたかも道ができたみたいに見える。この道は諏訪大社の上社にいる男神「建御名方神(タケミナカタノカミ)」が諏訪湖の対岸、下諏訪町にある下社の女神「八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)」に会いに行った跡、神様の通った跡、「御神渡り」と言われている。

「小寒」の1月5日より毎朝6時半に、御神渡りを認定する八剱神社の宮司、総代が湖面に立ち、諏訪湖の水温を測り、氷が張ってきたらその張り具合を観察する。今年は1月13日に諏訪湖が全面的に凍ったという「全面結氷」の宣言があり、翌日の地元新聞の一面には「御神渡りの期待膨らむ」「氷厚、5センチ、湖上の声弾む」などという大きな見出しが並んだ。その日の気温は氷点下9度で、観察を始めて以来最も低かった。

期待が高まったのも無理はない。もし今年御神渡りが出現すると、3年ぶりになるからだ。その後は毎日、氷がどのくらい厚くなったか、が観察・報告され、紙面には「3季ぶり出現 正念場」などの見出しが連日出る。筆者は幸い、2018年の御神渡りを見ることができた。その時も「5年ぶり」と騒がれていた。

2018年に現れた「御神渡り」

2018年に現れた「御神渡り」
(写真筆者撮影 2018年2月4日)

しかし、今年は湖面が全面結氷した後「大寒」の1月20日に強風が吹き、水の部分が広がった。風下の下諏訪町辺りの湖岸に氷が打ち寄せられ、折り重なるように打ち上げられた。筆者は全面結氷した諏訪湖を見たくてその20日に行ったが、打ち上げられた氷の塊があちこちで見られ、全面結氷には程遠かった。

2021年1月20日の諏訪湖


(写真筆者撮影2021年1月20日)

その代わりに、コハクチョウの群れ、カワウ、ガン、カモなど水鳥がたくさん湖水に遊んでいた。


(写真筆者撮影2021年1月20日)

その後、さらに気温が上がり、雨が降ったりして、1月28日には「御神渡り出現厳しい見通し」との報告が毎朝観察している宮司や総代からなされた。2月3日には、もう御神渡りは出現しない、という「明けの海」の宣言がなされた。期待していた3年ぶりの御神渡りは見られず、平成以降24回目の明けの海となった。

室町時代から続く「御神渡り」の記録に世界が注目する

宮司や総代を始め、観察を続けてきた人々は2月11日に最後の観察を行い、その記録を宮司は「御神渡注進状」、大総代は「湖上御神渡注進録」を記し、2月21日に八剱神社の神前に報告する注進奉告祭が開かれた。注進状はその後諏訪大社上社本宮で開く注進式で奉奠された。そして諏訪大社を通して宮内庁に言上、気象庁に報告される。

この御神渡りの記録は、室町時代の1443年から578年間も続いている。このことにより、御神渡りの出現状況がわかり、今では気候変動の貴重なデータとして世界に注目されている。

英国の権威ある科学誌「Nature」など学術誌などにも紹介され、2020年にはオランダやカナダの研究者が宮司の話を聞こうと諏訪にやってきたそうだ。ロイターなどの海外メディアでも紹介されている。

その記録を見ると、昭和50年代(1975年~)までは御神渡りが出現するのが当たり前だったが、1985年以降(昭和後期)、そして特に平成になってからは明けの海の方の数が多い。最後にみたのが2018年(平成30年)であることは象徴的かもしれない。2019年の冬は記録を更新した暖冬であり、その後が世界的なコロナパンデミックになったからだ。

大総代を務めた宮坂平馬氏は、今年が「明けの海」になったのは「残念」というより、「私たち人間の行いの結果が、御神渡りができないという形で諏訪湖に現れている。諏訪湖はだいぶ前から警鐘を鳴らし続けている。私たちは生活を正し、産業社会の在り方を考え直すべきなのでは」と語っている(長野日報、2021年2月4日)。

諏訪湖に見る、身近な地球環境の変化

諏訪湖では2016年7月下旬に過去最大のワカサギの大量死があり、関係者は「トン単位の被害では」「全滅の可能性も」と語られた。当初は気候変動の影響による極端な少雪で雪解け水の流入が少ないうえ、少雨や高温などによる水中酸素濃度低下による酸欠が原因では、と言われていた。

同年10月に県主導の専門家検討会が開かれ、さまざまな原因が推測されたが、データ不足などから、今後は多くのデータを入れたシミュレーションで原因解明を行うことになる。諏訪湖では従来から諏訪湖の水質浄化や生態系を阻んでいる水草ヒシの大量繁茂に対し、除去作業や浮遊ゴミ回収などを行ってきた。

さらに今日では、より大きな問題である、マイクロプラスティックが諏訪湖底の泥に含まれていたことが、県が2020年春に行った調査でわかり、7月に発表された。それは2015年の泥からの採取であるから、かなり前から沈殿し始めていたことがわかる。「海なし県でもマイクロプラスティックの問題がある」と県はプラごみを捨てないよう求めている(長野日報 2020年7月6日)。

諏訪地域における気候変動の影響は御神渡りだけではない。諏訪地域の特産品である寒天にも現れている。寒天は朝晩の冷え込みを使い、野外で乾燥させてつくられる。氷点下5℃前後の冷え込みが続くことが必須だ。昨年の諏訪の冬は暖冬で、平均気温は平年を2.6℃も上回る2.5℃となり、1946年の統計開始以降の最高値を大幅に更新した。そのため、寒天の生産量も過去最低で、寒天産業に大打撃だった。今年は昨年よりは寒かったため生産はできたが、今度はコロナ禍で売り上げ減少につながっている。

寒天は和菓子にとって必需品である。筆者が世界自然保護基金(WWF)で気候変動問題に取り組んでいる時、「温暖化の目撃者」というプロジェクトを始めた。その最初の目撃者として、和菓子の虎屋が羊羹に欠かせない寒天ができにくくなっていて困っている、と言われた。それは2004年の話である。

その後、京都工場は地域の森林組合と協定を結び「寒天は天草を煮溶かし、冷やし固めたものを寒い夜に凍結させて作ります。しかし昨今この伝統的な製法が難しくなってきています。地球温暖化によって氷点下まで気温の下がる夜が減ってしまったことなどの影響かもしれません」とその思いを書いている

私たちの身近な生活に、気候変動の脅威が現実にせまっていることを考えざるを得ない。

鮎川ゆりか
鮎川ゆりか

千葉商科大学名誉教授 CUCエネルギー株式会社 取締役 1971年上智大学外国語学部英語学科卒。1996年ハーバード大学院環境公共政策学修士修了。原子力資料情報室の国際担当(1988~1995年)。WWF(世界自然保護基金) 気候変動担当/特別顧問(1997~2008年)。国連気候変動枠組み条約国際交渉、国内政策、自然エネルギーの導入施策活動を展開。2008年G8サミットNGOフォーラム副代表。衆参両議院の環境委員会等で参考人意見陳述。環境省の中央環境審議会「施策総合企画小委員会」等委員、「グリーン電力認証機構」委員、千葉県市川市環境審議会会長を歴任。2010年4月~2018年3月まで千葉商科大学、政策情報学部教授。同大学にて2017年4月より学長プロジェクト「環境・エネルギー」リーダーとして「自然エネルギー100%大学」を推進し、電気の100%自然エネルギーは達成。2019年9月より原村の有志による「自立する美しい村研究会」代表。 『e-コンパクトシティが地球を救う』(日本評論社2012年)、『これからの環境エネルギー 未来は地域で完結する小規模分散型社会』(三和書籍 2015年)など著書多数。

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